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くっ殺せ

 かっぽかっぽ。


 ロバは街道を北上する。


「ゲドー様。このあたりはオークの群れが出るんだって」

「オークだと?」


 オークとは二足歩行の豚の魔物だ。

 ゴブリンよりはマシな程度の雑魚だ。


「ふん、オークごとき俺の敵ではない」

「でも今のゲドー様、魔法使えないでしょ?」

「俺は存在が無敵だからいいのだ」


 そんなやり取りをしていると、前方から剣戟の音が聞こえてきた。

 戦闘が発生しているらしい。


「あっ、ゲドー様。あれ!」


 たった一人の女剣士が、十数匹のオークと戦っていた。

 地面に数匹のオークが転がっているところを見ると、善戦していたようだ。


 だがいかんせん数の差が大きい。

 女剣士は大量のオークに押されて、そろそろやられそうだ。


「このワタクシがこんなところで……!」


 ……んん?

 あの女剣士はオッヒーじゃないか。

 独特の口調と金髪縦ロールは見間違えようもない。


 オッヒーの表情は切迫している。

 まあ相手はオークだからな。


 オークは人間の女に種付けをして数を増やすことで有名だ。

 オッヒーもオークにやられれば、自分がどんな目に遭うかわかっているのだろう。


「くうっ……!」


 オークの棍棒がオッヒーの剣を叩き落とした。

 戦いはもう終わりそうだ。


「くっ……。殺しなさいですわ!」


 尻餅をついたオッヒーがオークどもを睨みつける。


 だがオークに人間の言葉が通じるはずがない。

 オークどもはオッヒーに群がろうとする。


「助けなきゃ!」


 エルルが飛び出した。


「おい、俺を放り出すなぐえ」


 俺は地べたに転がった。


「そこの人、助太刀するよ!」

「えっ?」


 エルルが疾風のようにオークの群れに突っ込んだ。


「ピッカピカの光の精霊よ! ちょっと後ろを向いて!」


 エルルの魔法が発動し、眩いばかりの閃光が炸裂した。


「オーーーーーク!!」


 オークどもは目が眩んでのた打ち回っている。


 エルルは尻餅をついているオッヒーを見た。


「さっ、今だよ。一緒にオークを撃退しよう」

「え、ええ……!」


 オッヒーは慌てて剣を拾う。


「やあああーっ!」


 エルルがオークの群れの中を縦横無尽に駆け回る。

 剣を振るうたび、オークが順番に倒れていく。


「はあっ!」


 オッヒーも気を取り直してオークに斬りかかる。

 次々に血飛沫が上がる。


 オークは元々が雑魚だ。


 不意を突いたうえに助力を得れば、反撃に転じることは難しくない。


「オーーーク!!」


 程なくしてオークは半数以上が壊滅し、残りは尻尾を巻いて逃げ去った。


「はあ、はあ、ふう……っ」

「や、やりましたわ……」


 さすがに数が多かったので2人とも息を切らしている。


「やったね」


 エルルがオッヒーに向かって、親指を立てる。

 それを見て、オッヒーがにこりとした。


「本当に助かりましたわ。お礼を言わせてくださいませ」

「困ったときはお互い様だよー」

「ワタクシはオッヒーですわ。よろしければお名前を教えてくれませんか?」

「ボクはエルフのエルルだよ!」


 何やら友情が芽生えたのか、エルルとオッヒーは握手を交わしている。


「おい、雑魚エルフ。いつまで俺を地べたに転がしておく気だ」

「あっ、ごめんねゲドー様!」


 エルルがてくてくと戻ってきて俺を拾い上げる。


「えっ、ゲドー様もいますの……え、えええーっ!?」


 生首だけの俺を見てオッヒーが悲鳴を上げた。


「な、な、な……」


 オッヒーが俺を指さしてぷるぷる震えている。


「何だオッパッピー。言いたいことがあるなら発言を許可してやる」

「その言い草、本物のゲドー様ですわーっ!」


 エルルが俺たちをきょろきょろと見比べる。


「ゲドー様とオッヒーは知り合いなの?」

「え、ええまあ……。迷宮で共に死線を潜り抜けた戦友ですわ」

「勝手に戦友にするな。うつけ」


 エルルはへーっと感心したように、また俺たちを見比べる。


「そ、それより。久しぶりにお会いしたと思ったら、何で生首ですの? かなり不気味なのですけれど」

「俺が最強だからだ」

「意味がわかりませんわ」

「ゲドー様はね、魔王を倒してその巻き添えで首だけになっちゃったんだって」


 エルルの説明に、オッヒーが目を丸くする。


「そ、それは本当ですの? 本当に魔王を……?」

「この俺を誰だと思っている」

「す、すごいですわ……。まさか本当に魔王を倒してしまうなんて」


 オッヒーが尊敬の眼差しを向けてくる。

 うむ、いい目だ。

 やはりこのゲドー様は、あらゆる生物の頂点に立つ存在だからな。


「ゲドー様……。魔王を倒してこの大陸を救ったあなたを、素直に尊敬しますわ」

「何だ貴様。この俺を恨んでいるのではなかったのか?」

「正直なところ、もうあまり恨んではいないのですわ。非はワタクシたちにありましたし、それに何と言っても魔王討伐の英雄ですもの」

「くだらん」


 英雄だと?

 虫唾が走る言葉だ。


「貴様がどう思おうが構わんが、この俺を英雄扱いするな。俺は邪悪なる大魔法使いゲドー様だ」

「……ゲドー様はそういうお方ですわね。でもすごいことに変わりはありませんわ」

「それは当然だな」


 俺はすごい。

 当たり前すぎて言葉にするまでもないことだ。


「……ところでエルルは、首ゲドー様を抱えてどこに行きますの?」

「なんかね、北にいるマホのところまで運んでほしいんだって」

「そうなんですの」


 オッヒーは少し考え込んだが、ぐぐっと拳を握った。


「わかりましたわ。ワタクシもお手伝いしますわ!」

「邪魔だ」

「ほんと? わーい、ありがとうオッヒー!」

「おい、勝手に決めるな」

「えーっ、いいじゃん。ボクも一人より二人のほうが安心だよー」


 全くこれだから軟弱な雑魚は。


「そうと決まれば、よろしくね。オッヒー!」

「おい貴様ら、決まっておらんぞ」

「ええ。よろしくですわ、エルル」


 2人はまたも握手を交わす。


 こいつら。


「でもどうしよう。ボクたちのロバ、オッヒーまで乗れるかなあ」

「心配しないでくださいまし。ワタクシもちゃんと馬を連れているのですわ」

「そっかあ、よかったー」


 エルルがえへへーと笑う。


「ゲドー様、仲間が増えてよかったね」

「足手まといを増やすな雑魚が」

「オッヒーはいい人だよー。ボク、人を見る目には自信あるんだ」

「あら、エルルもいい人ですわ」


 エルルはにこにこしている。

 オッヒーもまんざらではなさそうだ。


 こうして同行者が増えた。


 くそが。

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