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強者の特権

 大きな長テーブルに並ぶ豪華な食事。

 大量の肉、野菜、果物、パン、スープ、ワイン。


 座っているのは俺と姫だけだ。

 数人のメイドが壁際に控えている。


「マホ、今日はあなたも一緒に」

「わかったのです」


 マホも椅子に腰を下ろす。

 微妙に足が床についていない。


「今日はお疲れ様でした。遠慮なく召し上がってください」


 もちろん遠慮する気はない。

 俺は肉にフォークを突き刺すと、そのまま齧る。

 お上品にナイフで切り分けるようなことはしない。


「ワイルドですのね」

「俺は好きに食べるのが好きだ」


 姫はスプーンで優雅にスープを口に運ぶ。

 そしてやはり優雅な所作でナイフとフォークを使い、肉を切り分ける。


「いただくのです」


 姫が食べ始めたのを見て、マホも食事を開始する。

 こちらもお上品なマナーだ。


「悪くない」


 それどころか美味い。

 500年ぶりの食事としては満足のいくものだ。

 さすが王族が食すものは一級品だな。


「で、姫。いくつか聞きたいことがある」

「何なりと」

「まず名前だ」

「……名乗っておりませんでしたか?」

「俺を前にして名乗りもしないとは、無礼な奴だと思っていたぞ」

「大変失礼いたしました」


 まあ本音を言えば、俺がこいつのことを姫と呼びたくないだけだ。

 この俺が他人を敬っているように聞こえて気分が悪い。


「ヒメール・アンダルシア・デ・マンマールと申します」


 つまりこの国の名前はマンマール王国だ。

 このゲドー様を謀った憎きマンマール。


「ならヒメールと呼ぶ。ムーンカシーナは?」

「ムーンカシーナ姫は500年前のご先祖様のお名前です」

「血を引いているわけだな」

「仰る通りです」


 俺は忌々しげに肉を噛み千切った。

 その仕草をヒメールはじっと見つめている。


「恨んでおいでですか?」

「当然だ。できれば俺の手で八つ裂きにしてやりたかった」

「この国も?」

「当たり前だ」


 言うまでもない。

 この大魔法使いゲドー様が、500年も封印されていた恨みを晴らさずに捨て置くとでも思うのか。


「……わかりました。ですが、魔王のことは」

「たかだか200年程度しか生きていない魔王など、俺の敵ではない。間違いなく消し炭にしてやる」

「頼もしいお言葉です」


 だが、そう。

 聞きたかったことがある。


「なぜこんな一国の王都に、翼竜のような魔物がやってくる。今の時代は魔物が町を跳梁跋扈しているような世界なのか?」

「それについては、マホ、説明を」

「んむ……。はいなのです」


 リンゴのはちみつ漬けを頬張っていたマホが、こちらを向く。


「文献によれば200年前と同じなのです。魔王の存在には、魔物を活性化させる力があるのです」

「活性化だと?」

「はいなのです。理由はわからないのですが魔王が存在しているだけで、大陸各地の魔物は勝手に活発になって狂暴になるのです」


 意味が分からん。

 少なくとも500年前までは、一部を除けば魔物なんて脅威でも何でもなかった。

 この時代は違うということか。


 まあこの俺にかかればどんな魔物だろうと雑魚に過ぎんがな。


「その魔王とやらは何者だ」

「文献によれば魔物の王とされているのです。毛むくじゃらで巨大、その一息は竜のブレスを凌駕し、体躯はあらゆる魔法を弾き、剛腕は山をも砕くと記載されているのです」

「ほう……」


 200年前の文献だ、どこまで信憑性があるのか怪しい。

 しかしそうは言っても、魔王との戦いでは大陸全体が窮地に陥ったという話だ。

 少なくとも魔物の最上位に位置する竜族より、更に強大なのだろう。


 まあこの俺にかかれば竜族だろうと雑魚に過ぎんがな。


「満足した」

「よろしゅうございました」

「風呂も用意させろ」

「わかりました」



◆ ◆ ◆



 大浴場だ。

 入るのは俺一人。

 悪くない気分だ。


 数人の侍女が同伴して、俺の身体に湯をかけながら洗う。

 ヒメールなりのサービスだろう、侍女はいずれも薄着で肌が透けて見える。


 まあまあの光景だが俺の食指は動かない。

 俺の好みはこういう女ではないし、何より今は500年ぶりの風呂を満喫したい気分だ。


 改めて自分の身体を見下ろす。

 鍛え上げられて程よく筋肉がついており、肌も若々しい。

 闇を具現化したような黒髪も俺のお気に入りだ。


 大魔法使いとして不老不死に近い境地にいる俺は、生きていればあと何百年もこの容姿のままだろう。


 湯に浸かる。

 泳げそうなほどの大きな浴槽。


 身体が温まって心地よい。

 やはり風呂はいい。


 心地よさはもちろんだが、風呂とは強者の象徴だ。

 弱者や貧乏人は決して風呂に入ることなどできない。


 強者の特権だ。

 それがいい。


 俺は強者だ。

 だから俺がやりたいことは全て許される。

 許されなくてはならない。

 強者とはそういうものだ。


 ふはははは。

 俺が王だ。

 最強だ。


 俺は500年ぶりの風呂を心行くまで満喫した。

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