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I can fly

 城の屋上は見張り台を兼ねているため、普通に登ることができる。


 翌日。

 俺、マホ、キシリーの3人はそこにいた。

 すでに魔力は供給済みのため、俺の身体には力が漲っている。


 俺はローブを風に靡かせながら、腕を組んで立っている。

 我ながら絵になると言えよう。


「ゲドー様、かっこいいのです」

「そうだろう」

「これなら竜などイチコロなのです」

「ふはははは。その通りだ」


 マホはよくわかっている。


「しかしゲドー様、あの鱗は」

「確かにな」


 キシリーの憂慮はもっともだ。


 昨日の邂逅で、あのくそ竜は俺の必殺ザンデミシオンを弾いた。

 ロード種の竜鱗はそれだけ魔法耐性が別格ということだ。


「ゲドー様」


 そんなことを考えていると、キシリーが何かを決意した目で話しかけてきた。


「実は、私に考えがあるのだ」

「ほう」

「相手は竜だ。恐らく空中戦になるのだろうが、私も連れていってほしい」


 俺はキシリーを見据える。

 強い意志を湛えた目をしている。


 なるほど、確かに何らかの考えがありそうだ。


「雑魚騎士。はっきり言って貴様は足手まといだ」

「そ、それは……反論はできない」


 キシリーはいったん俯くが、すぐに顔を上げた。


「だが、私とてゲドー様やマホと共に戦いたいのだ」

「ふん、竜を倒す名誉のおこぼれでも欲するか」

「正直に言えば、それもないことはない。しかし」


 キシリーはぎゅっと拳を握り、一歩踏み出してきた。


「私は最初にゲドー様たちに会ったときから、魔王討伐の力になりたいと考えていた」


 そういえば、確かにこいつは魔王討伐の同行を申し出ていた。

 邪魔だから断ったが。


「その意志は今でも変わっていない。魔王本人ではなくとも、せめて四天王を倒す力にくらいはなりたい」


 キシリーはもう一歩、ずいっと踏み出してきた。


「頼む。私はゲドー様やマホの力になりたい。私でも2人の力になれることを証明したいのだ」


 なるほど。

 力の証明か。


 俺とて強大な力を振るって、このゲドー様が最強であることを証明してきたからこそ、伝説の大魔法使いとして呼ばれるに至ったのだ。


 己の力を証明したいという意志は、強者あるいは強者に成らんとする人間に共通するものだ。

 いくら自分は強者だと喚いたところで、それをきちんと証明できなければただの勘違い野郎だからな。


「よかろう」


 俺の返答に、キシリーがぱっと顔を明るくする。


「だが俺の足を引っ張れば、容赦なく見捨てる」

「ああ、それでいい」


 キシリーが力強く頷く。


「キシリーさん」


 マホがキシリーに向かって、小さな拳を差し出した。


 キシリーは一瞬きょとんとしたが、すぐに自分の拳をコツンと合わせた。


「一緒にがんばるのです」

「ああ」


 キシリーは力強く頷いた。



「グオオオオ――!」


 突如、地響きのような咆哮が響いた。

 見上げると、遥か上空に巨大な竜が舞っていた。


「来たのです」

「ふん、羽虫トカゲがこの俺にぶちのめされるために、わざわざご苦労なことだ」


 俺は口角を吊り上げ、飛翔の魔法を詠唱する。


 ローブがぶわっと浮き上がる。


 マホが俺の背中にぴょんと乗っかる。

 はっきり言って邪魔だ。


「わわっ」


 俺はキシリーを自分の肩に担ぐ。


「げ、ゲドー様。さすがにこの格好は……」

「アイ・キャン・フライ」


 俺はキシリーの抗議を無視して、飛翔の魔法を発動させた。


 俺たちは飛んだ。

 竜のいる上空へと、ぐんぐん飛翔していく。


「グオオオオ――! 生贄を受け取りに来たぞ――」


 竜の咆哮が辺りに響き渡る。

 うるせえな。


「メガトン」


 竜に近づいた俺は爆発魔法を叩き込んだ。


「グオオオオ!」


 竜が雄叫びを上げる。

 そしてやはり無傷だ。


 忌々しいが全身を覆うあの竜鱗をどうにかしない限り、今の俺の魔法では通用しないだろう。


「ゲドー様。私を竜の背中に下ろしてくれ!」

「落下したら死ぬぞ」

「そのときは見捨ててくれて構わない」

「よかろう」


 俺は竜の頭上まで飛翔して、キシリーを放り出した。


「いたっ! も、もうちょっと優しく……」


 キシリーは無事に竜の背中に落ちた。


「グオオオオ! 人間が、生意気にも我ら竜のテリトリーまで飛んできて何の用だ」

「思い上がるなよハエが。空が竜のものだと誰が決めた」

「人間風情が、我に楯突く気か……」

「貴様こそ、この俺を誰と心得る。芋虫のように地べたにひれ伏せば、命だけは助けてやるぞ」

「グオオオオ――!」


 竜が怒りの咆哮を上げる。

 距離が近いからやかましい。


「木っ端屑のように散れ、人間――」


 竜がその巨大な爪を繰り出す。


 無論、わざわざ当たってやる義理などない。

 飛翔の魔法をコントロールして避ける。


 すかさず竜が、もう片方の爪を繰り出す。


「ルシーダ」


 背中のマホが魔法の盾を発生させて、その爪を押し留めた。


「マホ、攻撃が来たら防御しろ」

「はいです」


 マホにそう告げて、俺は詠唱する。


 竜が立て続けに爪を繰り出すが、マホが的確に盾を作り出して寄せ付けない。


 とはいえ頑強なはずの魔法の盾も、爪の一撃ごとに粉砕されている。

 俺はともかく、当たればマホは即死だろう。


「ザンデミラー」


 俺が竜を指さすと、無数の雷が雨のように、バチバチと竜の顔面を打ち据えた。


「グオオオオ――。小賢しい真似を」


 もちろん効いてはいない。

 ただの目くらましだ。


 キシリーが竜の背中で何かやっている。

 そして竜は、そんなキシリーに気づいていない。


 あの巨体だ、人間が背中に張り付いても蚊が止まった程度にしか感じていないのだろう。


 まあ俺の独力でも竜ごとき余裕だが、ここはキシリーの意志を尊重してやるとしよう。

 俺は寛大だからな。


 突如、竜がガパッとアギトを開いた。


「マホ」

「トラエルシーダ」


 マホが俺たちを結界で覆う。

 その直後、竜が炎を吐き出した。


 凄まじい熱量の炎だ。

 結界越しでも焼け付く空気が、肌をちりちりと焦がしてくる。

 直撃すれば骨も残るまい。


 炎が収まった後には、あちこち焦げた俺の姿。

 火傷は放っておけば治るが、それはそれとして熱いんだよ。


「ゲドー様、見事なアフロなのです」

「殺すぞ」


 このくそ竜が、ただでは済まさん。


「グオオオオ――! 我が紅蓮の炎を防ぐとは小賢しい者どもよ」


 竜が怒り狂っている。

 まあ最強の攻撃手段であるブレスを防がれたのだ。

 当然の反応だろうな。


 ……ん?

 ほう。


 キシリーを見ると、何やらがんばっている。

 そういうことか。


 ならば俺も、せいぜい付き合ってやるとしよう。


 ククク。

 竜の吠え面がどんなものか見ものだな。

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