表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/94

お城でお泊り

 俺たちは王城に一泊している。


 まずはディナーだ。


「ほう」


 大きな食卓には豪華な食事がずらりと並んでいる。

 マホとキシリーが腕によりをかけたらしい。


 俺の好物である肉が主菜で、ステーキや唐揚げ、焼き物、炒め物などが目の前に鎮座している。

 そしてレタスやニンジン、トマト、ポテトサラダなどの野菜も充実している。

 こいつは絶対にマホのこだわりだな。


 もちろんパンやスープ、フルーツ、葡萄酒なども完備している。


 うむ。

 このゲドー様の口に入るものとしては、まず合格点といえる内容だろう。


「食材はいっぱいあったので、使わせていただいたのです」

「いや、マホはすごいな。これほど料理ができるとは……」

「キシリーさんも作ったのです」

「私は少々手伝っただけだ」


 上座には俺が着席し、両側にそれぞれマホとキシリーが座る。


「食うぞ」

「はいです」

「いただこう」


 俺は肉を食う。

 次に肉を食う。

 その次にも肉を食う。


 ほう。


 うむ。

 悪くない。


 常々思っていたが、マホの奴は宮廷料理人としてもやっていけそうな腕を持っている。


 キシリーも感動している。


「マホ。このステーキ、とても美味しいな。焼き加減が絶妙で、こう、口の中でじゅわっと……」

「よかったのです」


 褒められたマホもまんざらではなさそうだ。


 俺は食う。

 食う。

 食う。


 俺は大食いだから、この程度ならば問題なく完食できる。


「ゲドー様、野菜も食べないとだめなのです」


 マホがフォークに刺したトマトを差し出してきた。


「ふん、よかろう」


 俺はそのトマトを食いちぎるように口に入れる。

 肉汁で満たされた口内にトマトの新鮮な香りが広がり、また肉への食欲が増進される。


「げ、ゲドー様。これは私が揚げてみたのだが……」


 反対からキシリーが、おずおずとフォークに刺した唐揚げを差し出してきた。


 俺はそれにかぶりつく。


「ほう」

「ど、どうだろうか……?」

「悪くない。褒めてつかわす」

「そ、そうか」


 キシリーが嬉しそうにはにかんだ。

 マホの力あってこそだろうが、キシリーも料理の腕はまずまずのようだ。


「ゲドー様、次はニンジンを」

「うむ」

「げ、ゲドー様。こっちの肉の薄焼きも」

「うむ」


 右から左から交互に差し出される肉と野菜を、俺は食らう。


 なるほど。

 こうしてみると、肉ばかりでなく野菜も食すことで、ますます食欲が刺激される。

 野菜の役割も馬鹿にできんわけだ。


「ゲドー様、あーんなのです」

「げ、ゲドー様。あ、あーん」


 マホは何やらじ~っと俺を見つめている。

 キシリーは恥ずかしそうにフォークを差し出している。


 俺はそれらを躊躇なく食らう。


 うむ。

 美味いうえに、マホもキシリーもこのゲドー様への接し方を心得ているようだ。


 苦しゅうない。


 しかし。

 しかしだ。


「ゲドー様」

「ゲドー様」

「ええい、いい加減鬱陶しいわ! 自分のを食え雑魚ども」



◆ ◆ ◆



 次は風呂だ。


「キシリー」

「ん? 何だ、ゲドー様」

「貴様に俺の背中を流す栄誉を与えてやる」

「つまり?」

「一緒に入れ」

「な……っ!?」


 キシリーが真っ赤になって硬直した。

 何と不甲斐ないことか。


「い、いやしかし、ゲドー様……」

「しもべの分際で異論は許さん」

「しもべではないのだが」


 キシリーは赤い顔のまま、ぶんぶんと首を振った。


「そ、そういうことはだな。例えば愛を誓い合った恋人同士とか……」

「やかましい。行くぞ」

「ひいい、待ってくれ! 心の準備がまだ……!」

「がんばってくださいです」


 マホに手をふりふり見送られ、俺たちは風呂場に行った。



 俺は浴室に入る。

 無論、全裸だ。


 このゲドー様が誇る最強の肉体に、隠すべきところなど一片もない。


「げ、ゲドー様……」


 遅れてキシリーが、身体にバスタオルを巻いて入ってきた。


「ほう」


 改めて見るとキシリーのプロポーションのよさがわかる。


 胸は窮屈そうにバスタオルを押し上げており、腰回りは程よく引き締まっている。

 それに職業柄だろう、背筋がすらりと伸びて姿勢がいい。


「あ、あの。あまり見ないでもらえるか……」


 俺が観察していると、キシリーは恥ずかしそうにもじもじした。


「何を言う。誇れ」

「ほ、誇れと言われてもだな……」


 キシリーはどこか自信のなさそうな表情をした。


「ずっと騎士一辺倒でやってきたせいで、自分に女としての魅力が欠けていることはわかっているのだ」


 キシリーは自分の髪を、指でくるくるしている。


「せめてもっとこう、ドレスの似合う女らしい振る舞いでもできれば……」

「たわけ」


 俺は一喝した。

 キシリーがびっくりしている。


「このゲドー様が誇れと言ったその意味がわからんか?」

「ど、どういうことだ?」

「貴様は女として、誇るに値する水準に達しているということだ」

「誇るに値する……」


 キシリーは自分の身体を見下ろしている。


「そのあたりの愚昧な凡人どもではなく、他ならぬこの俺が評価してやっているのだ。すなわち胸を張ってよいということだ」

「……」


 キシリーは自分の身体をぺたぺたと触っている。

 騎士として鍛えているだけあって、無駄な贅肉はあまりない。


 そのうえで出るところはしっかり出ているのだから、女としては上等な部類に入るだろう。


「……ほ、誇っていいのだろうか?」

「少なくとも俺は、自分を誇ることすらできん弱者と共に戦うつもりなどない」

「……そうか」


 キシリーはしばらく、自分の手を握ったり開いたりしていたが、やがて顔を上げた。


「ゲドー様、ありがとう」

「ふん。それよりさっさと俺の背中を流せ」

「ああ、そうしよう」


 俺は座る。

 キシリーは俺の背中に湯をかけて、泡立てたスポンジでこすり始めた。


 ごしごし。


 うむ。


 ごしごしごし。


 うむ。


 上手くはない。

 男の背中を流すなど初めての経験なのだろう。


 だが女に背中を流させるというのは強者の特権といえよう。

 そういう意味で、俺は満足だ。


「……ゲドー様は逞しいな」


 キシリーがぽつりと呟いた。


「魔法使いだから貧弱な肉体をしているとでも思ったか」

「いや。身体もそうなのだが、心の在り方がな」


 心の在り方だと?

 くだらん。


「当然だな。このゲドー様は最強だ。つまりこの大陸で最も逞しい存在ということだ」

「ふふっ……。ああ、そうだな。ゲドー様は最強だ」


 キシリーは可笑しそうに笑った。


「そんな最強の存在であるこの俺に評価されたのだ。貴様も一山いくらの凡俗どもよりは、いくらかマシと心得よ」

「そうか……。きっと、喜んでいいのだろうな」

「無論だ。貴様はそれなりにいい女だ」

「そ、そうか……」


 キシリーは顔を赤らめた。


 何度も赤くなって忙しい奴だ。


 身体を洗った後は、湯船に浸かる。


「うむ。よい」

「ああ……。気持ちいいものだな」


 キシリーもふんわりとした表情で温かさを堪能している。


「騎士は風呂に入らんのか?」

「一介の騎士はそこまで裕福ではないのだ」

「財力的にも雑魚騎士ということか」

「うぐ……。は、反論したいがその通りだ」


 キシリーは目を閉じている。

 頬を上気させて、風呂を楽しんでいるようだ。


「……ゲドー様」

「何だ」

「私は、ゲドー様と共に戦えることを誇りに思う」

「ふん。いい心がけだ」


 俺は湯船の中でふんぞり返る。

 キシリーは目を細めてそんな俺を見て、微笑んだ。



◆ ◆ ◆



 寝室にはでかいベッドが一つ。


「な、なあマホ。ここは国王陛下の寝室ではないのか?」

「そうだと思うのです」

「勝手に使って怒られないだろうか」

「構わん。この俺が許可する」

「そ、そうか……」


 俺はベッドに入る。


 うむ。

 ふかふかしている。

 間違いなく上等なベッドだ。


 このゲドー様の安眠を存分にサポートするがいい。


「マホ。来い」

「はいです」


 マホがもぞもぞと潜ってきた。

 俺の腕の下に収まる。


「2人は一緒に寝るのか?」

「何を言っている。貴様もだ」

「わ、私もか……!?」


 キシリーがおたおたしている。

 いちいち面倒な奴だ。


「何度も言わせるな。来い」

「……わ、わかった」


 キシリーもベッドに潜ってきた。

 マホとは反対側だ。


「そうではない。こうだ」


 つかず離れずの距離を保つキシリーを、俺はぐいと引き寄せた。


「ひうっ」

「これでいい」


 うむ。

 やはりこうだ。


 強者の証とはこういうことだ。

 左右に女を侍らせずして、何が強者か。


 何やらキシリーが固まっているが、まあ構うことはない。


 マホは相変わらず、猫のように丸くなっている。

 こいつは腕の中で収まりがいいから、このままでいい。


「寝るぞ」

「おやすみなのです」

「あ、ああ。おやすみ、2人とも」


 俺は目を閉じた。


「ゲドー様」

「何だ」

「3人で寝るの、楽しいのです」

「ふん、くだらん」


 俺の安眠を妨害するな。


「嫁入り前の女が、はしたないことを……いやしかし、ゲドー様は逞しいし……私としてもやぶさかでは……」


 キシリーが何やらぶつぶつ呟いている。

 やかましいなこいつ。


 こういうときはあれだ。

 偉大なる存在を数えるのだ。


 邪悪なる大魔法使いゲドー様が1人、邪悪なる大魔法使いゲドー様が2人スヤァ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ