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もじもじキシリー

 炎を受けて崩落した建物に巻き込まれ、俺たちも落下した。

 だがもちろん、馬鹿正直に地面に激突してやる義理はない。


「フワリィ」


 俺は浮遊の魔法を唱えて落下速度を減退させた。


 キシリーを胸に抱いて、優雅に着地する。

 マホは俺の足にしがみついている。


「うわああ……っ。うわああ……あれ?」

「やかましいわ、たわけ」


 キシリーは俺の腕の中できょときょとした。


「あ……」


 そして俺に抱かれていることに気づくと、顔を赤らめた。


「す、すまない……。上位竜を初めて見て、気が動転してしまって……」

「あの程度で動揺するとは、だから貴様は雑魚騎士なのだ」

「か、返す言葉もない」


 俺は上空を見上げる。

 竜はもういない。


「飛び去ったようなのです」

「ふん。大方、生贄とやらを求めて次の都市に行ったのだろう」


 マホは埃っぽくなったローブをぱたぱたと払っている。

 炎に巻かれたせいであちこち焦げ目がついている。


「ゲドー様の大魔法が通用しなかったのです」

「最上位の竜だろうが、この俺のザンデミシオンが弾かれることなどあり得ん」

「では」

「そうだ。トロルのときと同じだろうな。恐らくはロード種の竜だ」


 トロルですらロード種となればそれなりの力を持っていた。

 竜のロード種であれば、それは大層強力に違いあるまい。


 無論、このゲドー様の敵ではないがな。


「あ、あの、ゲドー様……」

「何だ」

「そ、その……。わ、私はもう大丈夫だ……」


 見ると、キシリーは俺の腕の中でもじもじしていた。

 顔も赤いままだ。


「何だ、騎士の分際で男に耐性がないのか。軟弱者が」

「そ、そう言われても、あまり殿方と触れ合う機会がないのだ……」


 俺が解放してやると、キシリーは安堵の息をついた。


「ともかく助かった。あのまま落下しては命にかかわったことだろう。ゲドー様は命の恩人だ」

「よい。もっと敬え」

「ふふっ……。ああ、さすがはゲドー様だ」


 うむ。

 羨望の眼差しというのはよいものだ。

 まあ一番は、恐怖に塗れた目つきだがな。


「それよりゲドー様、竜のことだが」

「追うのです?」

「当然だ。この俺に舐めた真似をした奴は、もれなくこの地上から消し去らねばならん」


 このゲドー様の魔法を弾いた挙句、あろうことか炎を吐きかけたのだ。

 しかもこの俺を上から見下ろしてだ。


 死刑以外の判決はない。


「では急がなければ。次の町が危ない」

「町なんぞどうでもいい。あの蚊トンボをぶちのめすだけだ」

「竜は魔力を持つ生贄をほしがっていたのです」

「どうせまた魔王に献上するためだろう」


 これだけ魔力をたんまり集めていれば、魔王もさぞかし腹いっぱいだろうな。


「しかしゲドー様。魔王四天王は、あれが最後の1人なのだろう?」

「本当に4人しかいなければ、そうだ」

「つまりあの竜を倒せれば、残るは魔王だけということに」

「そうなるな」


 ククク。

 ようやくだ。


 ようやく魔王をぶち殺すときが迫ってきた。

 言い換えれば、邪悪なる大魔法使いゲドー様が完全復活するときということだ。


「しかし今からあの竜を追って、果たして間に合うか……」

「うつけが。この俺を誰と心得る。マホ」

「はいです」


 マホが俺の手を握り、魔力を供給してくる。


 俺は指先で宙に印を描く。


「エア・エア・ジア・エア・エア・リータス」


 俺の身体がごうと風を纏い、ローブが大きくはためく。


「ゲドー様に捕まるのです」

「ま、待ってくれ!」


 マホとキシリーが、慌てて俺にしがみつく。


「アイ・キャン・フライ」


 俺たちの身体が宙に浮かび、そのまま飛翔した。


「うわああ……っ!」


 ぐんぐん上がる高度に、キシリーが叫び声を上げる。

 マホは俺にぎゅ~っと抱きついている。


「飛んでいるだけだ。いちいち騒ぐでないわ、俗物が」

「お、おお……!」


 眼下に町並みや街道が、小さく見える。

 どんどん流れていく風景に、キシリーは恐怖も忘れて感動していた。


 まあ凡人は空を飛ぶ機会などないだろうからな。


 俺たちは竜が去って行った方向へ飛んでいく。


「ゲドー様」

「何だ」

「飛翔の魔法を使えるのに、今まで浮遊の魔法を使っていたのはなぜなのです?」

「ふん、そんなことか」


 もちろん、今の俺では魔力が限られているからに決まっている。


「どっちも発動中は魔力を消費し続けるタイプの魔法だが、飛翔のほうが魔力消費が激しいのだ」

「さすがゲドー様、魔法の取捨選択も一流なのです」

「当然だな」


 何といっても最強の大魔法使いゲドー様だからな。


 俺たちはぐんぐん飛んだ。



◆ ◆ ◆



 隣の国の上空まで着いた。

 眼下に王城が見える。


「ゲドー様、どうするのだ? 見える範囲に竜はいないようだが……」

「あの城で聞くのが早かろう」

「なるほど。では謁見許可を」

「いらん」


 俺は飛翔の魔法をコントロールし、王城の窓から突入した。


「そ、そんな無茶な……」

「ふはははは! このゲドー様は許可を与える立場であって、許可をもらう必要などない」


 突入した先は、都合のいいことに謁見の間だった。

 国王や大臣や騎士どもがざわざわしている。


 ざわざわ。


 俺たちが乱入したせいではないようだ。


「あっ! だ、誰だ! 曲者っ!」


 ようやく騎士の一人が俺たちに気づいた。

 遅いわ。


「静まれい、凡俗どもが!」


 俺の一喝で謁見の間は静まり返った。


「だ、誰じゃ」


 国王が狼狽えている。


「私たちはマンマール王国の魔法使いなのです。竜を追ってきたのです」

「な、何と。ちょうど先頃、竜がこの王城の上空に来たところじゃ」

「なるほど。やはり竜のせいで混乱していたのだな……」


 大臣と騎士どもが一斉に頷く。


「竜が言うには、明日までに魔法使いの生贄を1000人用意しろと。できなければこの国を滅ぼすと」

「無茶苦茶なのです」

「左様。1000人どころか、魔法使いなど初級レベルの者を含めても100人もおらんのじゃ……」


 国王も大臣も頭を抱えている。


 キシリーが、カッとかかとを鳴らして進み出た。

 騎士の礼を取る。


「国王様、ご安心ください。その竜は必ずや、我々が討ち取ります」

「な、何と。しかし竜相手にそなたら3人だけでは……」

「ご安心ください。こちらのゲドー様にマホは、かの魔王四天王をすでに3人も打ち倒した猛者にございます」

「ま、まことか……!」


 謁見の間が再びざわざわする。

 やかましい連中だ。


「我が国に、あれほどの竜と戦える戦力はない……。マンマールの魔法使い殿、すまぬが頼めるかの?」


 国王の懇願に、俺は鼻を鳴らした。


「貴様に言われるまでもない。いかなる竜とて、このゲドー様の敵ではないわ」

「おお……」

「だが、竜は当然、明日この城下町に戻ってくる。生贄を引き取りにな」

「そ、そうじゃな」

「つまりこの町は明日、戦場になるということだ」

「な、何じゃと……!」


 ざわざわざわざわ。


 うぜえ。


「俺はこの城下町など知ったことではない。死にたくなければ明日までに避難しておくんだな」

「し、しかし……。全住民を避難となると」

「二度は言わん。死にたければ好きにしろ」

「む、むう……」


 国王は何やら唸っていたが、やがて大臣に指示を出した。


「全住民をすぐに隣町に避難させろ。騎士団と兵士を全て動員させて構わん」

「は……はっ!」


 指示を受けた騎士どもは、慌てて謁見の間から出ていく。


「国王陛下も避難を」

「そ、そうじゃな」


 国王は俺たちを見た。


「早く消えろ」

「……た、頼んだぞ。マンマールの魔法使い殿」


 国王と大臣が避難し、謁見の間には誰もいなくなった。

 しばらくすればこの城も無人になるだろう。


「有象無象どもが消えてやりやすくなったな」

「今日はこの城に一泊させてもらうのです」

「城の設備を勝手に使って、後で怒られないだろうか……?」

「構わん。この俺が許可する」


 明日は竜との決戦ということで、キシリーは緊張しているようだ。

 マホはいつも通りだ。


 無論、この俺に緊張の二文字などない。


「マホ、キシリー。貴様らに一泊の準備を命じる。このゲドー様が快適に過ごせるよう整えておけ」

「はいです」

「わ、私は騎士なのだが……」


 キシリーはマホに引っ張られながら、謁見の間から出て行った。


 俺は玉座にどかっと腰を下ろした。


「ククク。ちょっと鱗が生えている程度で勘違いした羽虫風情が。明日は目にもの見せてくれるわ」


 ロード種の竜か。

 俺にとっては雑魚とはいえ、悪くない相手だ。


 ふはははは。

 このゲドー様の最強ぶりを、たっぷりと証明してやるとしよう。

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