キシリーと騎士団
馬車で街道を進んでいると、人の群れが見えた。
何かと思えば騎士団だ。
100人規模の騎士団がぞろぞろと行進している。
「マホ、何事だ」
「わからないのですが、見覚えがあるのです」
確かに。
こいつらはあれだ。
王城でロード種のトロルと戦ったときにいた連中だ。
毛ほどの役にも立っていなかった有象無象どもだ。
「おお、ゲドー様にマホではないか!」
一頭の馬が近寄ってきた。
乗っているのは凛とした雰囲気の女騎士だ。
「キシリーさん」
「何だ、雑魚騎士か」
「酷い言い草だな、ゲドー様」
キシリーは俺たちを見て顔を綻ばせた。
「こんなところで再会できるとは奇遇だ。また会えて嬉しい」
「私もなのです」
「トロルのときといい、飛竜のときといい、2人には世話になった」
「貴様ら騎士団が何の役にも立たんからだ」
「いや、返す言葉もない」
キシリーは苦笑した後、懐かしそうに目を細める。
「ところで2人はなぜここに? 北の魔王討伐に直行したものと思っていたが」
「野暮用で寄り道したのです」
「そうか。まあ伝説の大魔法使いゲドー様がいれば、魔王といえど討ち果たせると信じている」
「当然だな」
「ゲドー様は最強なのです」
「当たり前だ」
うむ。
こいつらも話がわかるようになったな。
褒めてつかわす。
「キシリーさんと騎士団の皆さんは、どこに向かっているのです?」
「我々は定期的に、同盟国と合同訓練を行っていてな。その同盟国に向かっている最中なのだ」
「合同訓練です?」
「ああ。いくつかの訓練メニューがあるが、特に騎士団同士がぶつかる模擬戦は壮観だぞ。2人も時間が許すならば、見ていくといい」
「私たちも、この先の国で宿を取る予定なのです」
「おお、ならばちょうどいい」
キシリーは嬉しそうにした。
どうやらずいぶんと再会を喜んでいるようだ。
騎士団の行進に続いて、俺たちも馬車を進める。
実戦に駆り出されるわけではないので、騎士連中は和やかな雰囲気だ。
キシリーも楽しそうにマホと会話を弾ませている。
「何と! では魔王四天王をもう3人も討ち取ったのか」
「はいです」
「ゲドー様はさすがだが、マホもがんばったのだな」
「がんばったのです」
「ふふっ」
端から見ていると姉妹のようだ。
マホもあまり表情には出ないが、キシリーとの再会は嬉しいようだ。
「同盟国はどんな町なのです?」
「立派な城塞都市がある国だ。こう、城壁に囲まれていてな」
キシリーが馬に乗ったまま、器用に身振り手振りで説明する。
「恥ずかしながら脆弱な我が国と違って、堅牢で強固な防衛力を誇る都市なのだ。ひとたび戦となれば、何者をも寄せ付けぬ堅牢な砦となる」
「それはすごいのです」
「ああ。我が国も見習わなければな」
そんな会話をしていると、行進している騎士団の前方が、何やら騒然とした。
「なっ、何だ……!?」
「あれはいったいどうしたことだ!」
ざわざわ。
「どうしたのです?」
「さて、いったい何が……。な、何……!?」
遠目に前方を確認して、キシリーが驚愕の表情を浮かべた。
マホも同じく仰ぎ見る。
「ゲドー様、あれを」
「何だ」
遠く前方に、城塞都市と思しき城壁があった。
そして燃えていた。
遠目にもわかるほど、堅牢なはずの城塞都市が天まで上るほどの炎に包まれていた。
外から見てこれなのだ。
城壁の内部は凄まじい惨状になっていることだろう。
「そっ、総員急げ! 救援に向かうのだ!」
騎士団を率いる隊長が、慌て声で号令を出した。
それに合わせて、騎士団が行進を早める。
「くっ! いったい何が起こっているのだ……!」
キシリーも馬足を速める。
「私たちも急ぐのです?」
「その必要はない。急げば馬車が揺れて快適ではなくなるだろうが」
「わかったのです」
俺たちの馬車は並足だ。
この俺はゲドー様だ。
すなわち強者だ。
強者は急がない。
俺たちは慌てる騎士団の後を追って、燃える城塞都市にゆっくりと向かった。




