げどーさまのおつかい
町に着いた。
全体的に雰囲気の暗い町だ。
だがそんなことはどうでもいい。
俺は腹が減った。
馬車を預り所に預ける。
「マホ、宿を取れ」
「はいです」
「それからカレーを食いたい」
「以前たくさんもらったミノ牛カレーがあるのです」
メッチャバクバク選手とやらをぶちのめしたときの賞品だな。
「それにしろ」
「具材がないのです」
「肉が入っていればいい」
「そういうわけにはいかないのです」
細かい奴だ。
俺たちはちょうどいい町がないときは、テントを張って野宿をしている。
当然、料理はマホの担当だが、こいつはなかなか腕がいい。
唯一の欠点は雑な料理を作らないところだ。
俺は肉があれば構わんというのに、こいつは頑なに野菜を入れようとする。
まあ味はいいから許してやっているが。
「ゲドー様。私は宿を取ってくるので、具材の買い出しをお願いしたいのです」
「貴様、雑事にこの俺の手を煩わせる気か」
「ゲドー様は最強なのです」
「無論だ」
「伝説に名を連ねるほどのお方なので、買い出し程度は赤子の手を捻るようなものなのです」
「まあな。この俺にかかれば買い出しごとき一撃で粉砕してくれる」
当然だな。
この俺は最強だからな。
「これを買ってきてほしいのです」
マホが俺に、金貨10枚とメモを渡してくる。
「本当は金貨1枚でもお釣りがくるのですが、たった1枚では偉大なるゲドー様に釣り合わないのです」
「任せておけ。そしてこのゲドー様の偉大さを思い知るがよい」
「さすがなのです、ゲドー様」
「ふははははは! 出陣だ」
俺はマホと別れて商店街に赴く。
しかし町に入ったときもそうだったが、やはり町全体の雰囲気が暗い。
「おい、そこの凡人」
俺は通行人に話しかける。
「ん? 何だい?」
「貴様らはなぜ揃いも揃って暗いのだ」
「ああ……。この町は癒着が酷いのさ」
癒着だと?
「治安維持を司るべき憲兵団と、悪徳な高利貸しが手を組んで、町の経済を吸い上げてやがるのさ。おかげで俺たち庶民は干上がりそうだよ」
「そうか」
どうでもいいな。
弱者が搾取されるのは世の真理だ。
それが嫌なら強者になればいいだけの話だ。
そんなことより買い出しだ。
ミノ牛カレーが俺を待っている。
「まずは玉ねぎか」
この俺にかかれば余裕の一言に尽きる。
「皇帝玉ねぎー。皇帝玉ねぎはいらんかねー。甘くてとろとろの最高級玉ねぎだよー」
ほう。
皇帝か。
まさしくこの俺の口に入るに相応しい。
「皇帝玉ねぎとやらをよこせ」
「金貨10枚になりやす」
「よきにはからえ」
チャリンチャリン。
俺は皇帝玉ねぎを手に入れた。
「さて、次はニンジンか」
ん?
おい、もう手持ちの金がないぞ。
どういうことだ、ふざけるな。
これでは残りの具材を買えんではないか。
面倒だな。
力で奪うか。
んん?
ある看板が俺の目に入った。
『良心的金貸し屋トイチ』
ほう。
おあつらえ向きだな。
このゲドー様ともなれば、金のほうからやってくるのだ。
俺はその建物に入った。
「いらっしゃいませ」
「金を借りてやる」
「へい。いくらご入り用ですか?」
マホからもらったのは金貨10枚だったな。
だが強者はけちけちしない。
「金貨100枚よこせ」
「かしこまりました。こちらの契約書にサインを」
俺は書類に、邪悪なる大魔法使いゲドー様とサインをした。
「利子は1時間で10割になりやす」
「よきにはからえ」
チャリンチャリン。
俺は金貨100枚を手に入れた。
ククク。
向かうところ敵なしとはこのことだ。
「王様ニンジンー。王様ニンジンはいかがですかー」
「クイーンじゃがいも美味しいよー」
「全部よこせ」
「まいどありー」
最高級の具材が手に入って俺は満足した。
金貨100枚は使い切ったが、このゲドー様に使われたのだ、金貨どもも喜んでいるだろう。
俺はしばし町を散策してから宿に戻った。
「おかえりなのです」
いつものローブではなくエプロン姿のマホが、パタパタと出迎えてきた。
「俺にかかればこんなものだ」
手に入れた高級食材をマホに手渡す。
「ありがとうなのです。さすがゲドー様なのです」
「当然だな」
理由はわからんが、何やらマホは嬉しそうだ。
「宿の調理場を借りて、ミノ肉の下処理は済ませたのです。早速カレーを作るのです」
「そうしろ」
カレーは準備に時間がかかる。
そして時間をかけたほうが美味い。
それを知っている俺は、寛大にもしばらく待ってやることにした。
ふはははは。
覚悟しておくんだな、ミノ牛カレーよ。
このゲドー様が残らず平らげてくれようぞ。




