うさうさメイド☆しーりぃの薬屋さん
シーリィの店には問題点が多すぎる。
そこを最強コンサルタントのゲドー様が、いい感じに改善してやる。
「内装だ。壁紙を張り替えろ。可愛い系にだ」
「は、はい……!」
「棚も取り替えろ。自然を生かした木々の色合いなど地味なだけだ」
「うんっ」
「商品の陳列に気を使え。何がどこにあっていくらするのか、一目でわかるようにだ」
「はいです」
次は外観だ。
「外壁を塗り直せ。明るい色にだ」
「は、はいぃ……!」
「看板を作り直せ。ポップでヴィヴィッドな感じだ」
「う、うんっ」
「ビラを作れ。1000枚だ」
「はいです」
一週間かけてみっちり仕上げた。
「も、もうダメですぅ……」
「ぼ、ボクも限界……」
「疲れたのです」
3人ともくたばっていた。
軟弱者どもが。
◆ ◆ ◆
新装開店当日。
「ね、ねえ。ほんとにこれ着るの……?」
「さすがに恥ずかしいのです……」
「がたがた抜かすな」
店の奥からエルルとマホが現れた。
バニーガール姿だ。
それも色気を強調した黒色ではなく、清潔感と可愛らしさを押し出した白色だ。
「ゲドー様、肩がすーすーするよ」
ウサ耳がぴょこぴょこ揺れている。
「チョイスを間違えている気がするのです……」
寂しい胸元をぺたぺたして、マホがしょんぼりしている。
うさ耳が垂れ下がっている。
「マホが買い出してきたのって、これだったんだね」
尻尾のポンポンがふりふり揺れている。
「探すのに苦労したのです」
うむ。
可愛らしく愛らしく、しかもがんばって色気を出そうと背伸びしている感を与える衣装だ。
これなら合格点と言えよう。
「あ、あの……」
そこでシーリィが奥から姿を現した。
白と黒を基調としたメイド服だ。
「こ、この格好は……」
あくまでシックなメイド服調ながら、各所にふりふりレースを増量してなおかつスカートを若干短めにしてある。
奥ゆかしい可愛らしさを演出した衣装だ。
うむ。
これも合格点だな。
俺の視線を受けたシーリィは、恥ずかしそうにしている。
「ねえゲドー様。この衣装、何か意味があるの?」
「あるに決まっておろう」
「どんな?」
俺はふんと鼻を鳴らした。
こいつらは何もわかっていない。
「いいか。ライバル店はどのように繁盛していた」
「女性客をいっぱい取り込んでたよ!」
「その通りだ」
「あっ、もしかして私たちは男性客を……?」
シーリィはいいところに目を付けたな。
その通りだ。
「いいか、よく聞け愚民ども」
俺は愚民A、B、Cに指を突き付ける。
「世の男どもはバニーとメイド服に目がない」
「ええーっ?」
「そ、そうなんですか……?」
「疑うな雑魚ども。この俺がそうだと言ったらそうなのだ」
エルルはまだ恥ずかしそうにもじもじしているし、マホは胸を気にしている。
全くこいつらはなっとらん。
シーリィを見ろ。
可愛らしいメイド服を案外気に入ったようで、拳をぐっとして気合を入れ直している。
「エルル」
俺はエルルにビラの束を渡す。
「えっ、ボク!?」
「表通りで客引きしてこい」
「そ、そんなのやったことないよ」
「ならば貴様は友達とか抜かしたシーリィを見捨てるというのだな」
俺の言葉に、エルルはシーリィと俺を見比べた。
「ゲドー様。ボク、がんばってくる!」
「よし、行ってこい」
エルルはビラを抱えて店から出て行った。
ふわふわ尻尾をふりふりしながら。
「マホ、店の前で客引きと客の誘導をしろ」
「でも」
マホウサも何やら恥ずかしがっている。
「マホ」
「はいです」
「俺は貴様に自信を持てと言ったはずだ」
「言われたのです」
俺はマホに顔を近づける。
「いいかウサ」
「マホなのです」
「ウサに変身したマホは、俺が合格点をくれてやる程度には可愛らしい」
「……」
マホは少し顔を赤くした。
「自信を持て。行け」
「はいです」
マホもウサ耳を揺らしながら出て行った。
「シーリィ」
「は、はい」
「客には必ず笑顔だ。接客の基本を忘れるな」
「が、がんばります……!」
外には一新した看板。
『うさうさメイド☆しーりぃの薬屋さん』
クハハハハ。
完璧だ。
我ながら非の打ちどころがないネーミングセンスだ。
では開店だ。
◆ ◆ ◆
大通りの様子を見に行った。
「しーりぃの薬屋さん、本日開店でーすっ」
バニー姿のエルルが元気に声を張り上げている。
「うさうさメイドの薬屋さん、よろしくお願いしまーすっ」
よく通る声だ。
やはり奴に客引きを任せたのは正解だな。
うさ耳がぴょこぴょこ揺れている。
そして通行人の男どもがぞろぞろと群れている。
「おおっ、バニーだ」
「バニーちゃん可愛い!」
「ウサギちゃん一枚くれ!」
人目を引くのは当然だ。
こんな斬新な客引きをしているのはエルルくらいだからな。
このゲドー様のプロデュースが目立たんはずがない。
しかしバニーエルルは男だけではなく、一部の女にも気に入られているな。
色気を控えめにして、愛らしさを前面に押し出したのがを奏したのか。
そして菓子に向かうアリの群れのように、人の列がぞろぞろとシーリィの薬屋に向かっている。
ククク。
順調だな。
凡人どもが何も知らず俺の手のひらで踊っておるわ。
人の列を追っていくと、店に辿り着く。
「いらっしゃいませです」
店の外ではバニーマホが誘導を行っていた。
「しーりぃの薬屋さん、本日開店なのです」
エルルに比べると控えめな声だ。
「おおっ、ミニバニーだ」
「クールそうなのがいい!」
「小さいのがいい!」
こっちも男どもがわさわさと群がっている。
大人気だ。
この俺が見立てたのだから当然だな。
「ひゃっ」
マナーのなっとらん男がマホの尻を触った。
「おい」
俺は男の頭を鷲掴みにした。
「ウサギさんはお触り禁止だ。死にたいのか?」
メキメキ。
「あぎゃあああ……! ごべんなざい……!」
男は脱兎のごとく逃げ去った。
ゴミが。
「あ、ありがとうなのです」
「いいから働け」
「はいです」
そして俺は長蛇の列をすり抜けて店内に入った。
「いらっしゃいませ」
メイドシーリィが忙しそうに接客していた。
「いらっしゃいませ。何をお求めですか?」
「おおお、メイドさんだ!」
「あ、あの……」
「メイドさん可愛い!」
「あ、ありがとうございます」
「お帰りなさいませって言ってくれー!」
「ひいい……」
よきかな。
クククク。
愚かな群衆どもは、全て我が手の内だ。
そして二日目も。
「バニーちゃんビラもっとくれ!」
「どぞどぞーっ」
バニーエルルが尻尾をふりふり。
三日目も。
「バニーちゃんウサギのポーズしてくれ!」
「にゃんにゃんなのです」
バニーマホがウサ耳をぴょこぴょこ。
四日目も。
「メイドさん、ご主人様って言ってくれ!」
「は、はいぃ……」
ははははは!
笑いが止まらんわ。
大繁盛とはこのことだ。
エルルは忙しそうに客引きしている。
マホもクールに誘導している。
何よりシーリィががんばっている。
「お、お帰りなさいませ、ご主人様」
恥らいながら笑顔を振りまくシーリィに、客どもは大盛り上がりだ。
勝ったな。
もはやライバル店など勝負にもならん。
……ん?
今、誰かが遠巻きに様子を窺っていたな。
この場にそぐわぬ剣呑な視線だった。
まあいい。
たとえ誰であろうがこのゲドー様の覇道を妨げることなどできぬわ。
以前、感想欄でリクエストをいただいた回になります。




