ぎゅっ
「魔王討伐に連れて行ってほしいですわ!」
「邪魔だ」
「そこを何とか」
「足手まといだ」
「でも」
「同行の条件は、大いなる力を手に入れたらという話だったはずだが?」
「……その通りですわ」
ぐうの音も出なくなったオッヒーは、俺たちの馬車から離れた。
「オッヒー様」
「何ですの?」
「魔王は無理ですが、きっとまた一緒に戦えるのです」
「マホ……」
オッヒーは名残惜しそうにマホの手を取った。
「あなたならできますわ。絶対に魔王を倒して、この大陸に平和をもたらしてくださいまし」
「がんばるのです」
「ゲドー様も」
「誰にものを言っている」
俺の言葉に、オッヒーはふふっと笑った。
「それでは、ワタクシは宿に戻りますわ。お二人ともお元気で」
オッヒーは手を振って去って行った。
「最後まで鬱陶しい奴だったな」
「オッヒー様は変わったのです」
「以前会ったときより、多少マシになったことは認めてやらんでもない」
俺は馬車に乗り込む。
マホがじぃ~っと俺を見つめてきた。
「何だ」
「ゲドー様、御者台に座ってほしいのです」
「何い。貴様、この俺に御者をやらせる気か」
「御者は私がやるのです」
意味がわからん。
とりあえず俺は御者台に座った。
マホも御者台、俺の隣に腰を下ろす。
と、マホが俺にぴとっとくっついた。
「何だ」
「何でもないのです」
マホは馬を繰り、馬車を出発させる。
がらごろ。
「おい」
がらごろがらごろ。
「おい」
マホは俺にくっついたままだ。
「邪魔だ」
「旅は順調なのです」
マホは始終、ご満悦な表情をしていた。
◆ ◆ ◆
次の町に着いた。
そこそこ大きな、しかし特徴のない普通の町だ。
馬車を預り所に預ける。
「ゲドー様。食料品や日用品を補充して、宿を取るのです」
「そうしろ」
「はいです」
マホは俺の腕にぎゅっとしがみついた。
「おい」
「行くのです」
マホは俺を引っ張って買い出しをする。
やはり意味がわからん。
まあいい。
大いなるゲドー様は細かいことは気にしない。
「塩やコショウは一番高いのを買え」
「はいです」
調味料は基本的に値が張るが、俺たちの財力であれば何の問題もない。
何よりゲドー様の口に入る料理だ。
食材や調味料に手を抜くなど許されることではない。
りんごのはちみつ漬けが売っている露店があった。
マホがじっと眺めている。
「惜しむな」
「え?」
「強者は惜しまない」
「はいです」
マホはりんごのはちみつ漬けを2つ買うと、1つを俺に手渡した。
「いらん」
「美味しいのです」
「ちっ」
俺は1つを口に放り込む。
ん?
悪くはないな。
甘いのは敬遠していたが、まあまあと言ったところか。
俺のそんな様子を見てから、マホもりんごのはちみつ漬けを口に運ぶ。
何やらほくほくした表情をしている。
そんなに美味いのか。
幸せな奴だ。
マホは相変わらず表情に乏しい。
しかしマンマール城を出発した当初と比べると、いくらか感情を表に出すようになっているように見える。
特に変化があったのは今朝からだ。
いや、昨日の夜からか?
ともかくマホはいつになく嬉しそうだ。
理由は知らんが、強者としての自覚が出てきたのならばいいことだ。
この俺と比較すれば小物もいいところだが、それでも一山いくらの凡人よりは遥かにマシだからな。
◆ ◆ ◆
宿はもちろん一番豪華なところを取った。
風呂付きだ。
「マホ、背中を流せ」
「はいです」
バスタオルを巻いたマホが、俺の背中を流す。
ざばーっ。
ごしごし。
ごしごし。
うむ。
上達している。
「褒めてつかわす」
「ありがとうなのです」
俺の言葉にマホは嬉しそうにした。
湯船に浸かる。
温かい。
いい気分だ。
俺は元から海よりも雄大な存在だが、より雄大な気分になる。
マホもはふぅと息をついている。
気持ちよさそうだ。
マホがぺたぺたと自分の胸を触る。
肩を落としている。
不憫な奴だ。
マホは成長遅延の魔法のせいで、100年で1歳しか年を取らないと言った。
つまり数年後に立派なプロポーションに成長するとしても、それは年月でいえば数百年後ということだ。
まあこれ以上、成長しないかもしれんが。
「マホ」
「はいです」
「強者は自分を卑下しない」
「はいです」
「今の自分を誇れ」
俺の言葉に、マホがもう一度自分の胸をぺたぺたする。
「誇るのです?」
「そうだ。ぐだぐだと言い訳をせず、今の自分を誇れる奴が強者だ」
「わかったのです」
あとはマホも風呂を楽しんだようだ。
◆ ◆ ◆
風呂上りはいい気分だ。
多少涼んだ後、俺は大きなベッドに入る。
もぞもぞ。
横を見ると、マホも同じベッドに潜り込んできた。
「邪魔だ」
「ゲドー様は最強なので、誰かを侍らせているくらいがちょうどいいのです」
「うむ、それもそうだな」
最強だからな。
女を侍らせて当然ということだな。
「寝るぞ」
「はいです」
ブランケットの中で、マホがぎゅっと腕にしがみついてきた。
「おい」
「おやすみなのです」
ちっ。
以前も思ったが、猫のような奴だ。
まあいい。
マホの妨害ごときを意に介するゲドー様ではない。
ふとマホを見下ろす。
穏やかな表情ですやすやしていた。
ふん。
しもべの分際で幸せそうな顔をしおって。
俺はマホの頬を突っついた。
マホはむにゃむにゃした。
ククク、いいザマだな。
俺はもう一度突っついた。
「んにゅ……」
マホはくすぐったそうにした。
クククク、我が手の内で悶え苦しむがいい。
俺はもう一度突っついた。
がぶ。
ああああああ。
噛み付きおった。
くそが。
俺もさっさと寝た。




