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マホ・ツカーリエ

「ゲドー様の推測は当たっているのです」

「やはり人間ではないということか」

「種族は人間なのです」


 マホはベッドの上でぽつぽつと語り始める。

 俺は椅子でふんぞり返っている。


「ゲドー様と似ているのです」

「ほう、つまり」

「200年前から生きているのです」

「魔王大戦のときからか」


 頷くマホ。


「200年前の大戦のとき、魔王を追い詰めた人類は、最後に七神官によって魔王を封印したのです」

「神官か」


 嫌な記憶が蘇り、俺は舌打ちをした。

 神官というのはろくな攻撃魔法を使えないくせに、結界や封印といった術だけは得意な忌々しい連中だ。


 ……んん?

 攻撃魔法を使えず、結界や封印が得意?


 俺はマホをまじまじと見つめる。


「私はその七神官の一人だったのです」

「やはりか」


 どうにも魔法使いらしくないとは思っていたのだ。

 まさか元神官だったとはな。


「魔王は封印しただけなので、そのうち復活することはわかっていたのです」

「当然だな」

「なので七神官のうちの一人を、いつか来る魔王の復活に備えて後世まで生き長らえさせることにしたのです」

「その一人がマホというわけだ」


 マホはまたこくりと頷く。


「他の六神官は力を合わせて、私に成長遅延の魔法をかけたのです」

「つまり?」

「私は100年に1歳くらいしか年を取らなくなったので、200年前から2歳しか成長していないのです」


 なるほどな。

 確かに俺と似ている。


「このまま行けば、老衰で死ぬのは7000年後くらいになりそうなのです」

「種族は人間、と強調した理由はそれか」

「はいです。まるっきり化け物なのです」


 俺はふんと鼻を鳴らし、あごで続きを促す。


「でもゲドー様のように超人的な再生能力はないので、うっかりすると普通に死んでしまうのです」

「なるほど、だから城に閉じこもっていたというわけだ」

「はいです。魔王の復活に備えて、200年間ずっとマンマール城で魔力を蓄えながら生きてきたのです」


 ようやく謎が解けた。


「では貴様が、俺にいくら魔力を供給しても平然としているのは」

「200年間蓄えた魔力なので、まだまだ平気なのです」

「そういうことか」


 たかだか魔王一匹ごときのために、ご苦労なことだ。

 まあ確かに200年分もあれば、この先も魔力の心配はいるまい。


 俺が分け与えた超人的な再生能力がすんなり馴染んだのも、俺と似たような身体だったからだろう。


 しかしそれより。

 

 200年間。

 ずっと。

 城の中で。


「200年の間に、感情も希薄になってしまった気がするのです」


 静かに語るマホを、俺は苛々した目で見つめた。


 そうだ、苛々する。

 200年間、ずっとだと?


 マホは「旅が楽しい」と言っていた。

 そういうことだったのだ。


 くだらん。

 実にくだらん。


 繰り返すが、俺は自己犠牲という奴が大嫌いだ。

 自己犠牲などにうつつを抜かすくらいなら、他人を犠牲にしてでも自分は幸せになるべきだ。


 強者にはその権利がある。


「ゲドー様?」


 マホが首を傾げる。


「なるほどな。マホ、貴様は確かに化け物だろうよ」

「はいです」

「誇れ」

「はいです……え?」


 きょとんとするマホ。


「この俺は誰だ?」

「邪悪なる大魔法使いゲドー様です」

「何年生きている?」

「500年以上なのです」

「これからあと何年生きる?」

「1万年くらい生きそうなのです」


 俺は口角を吊り上げた。


「その通りだ。つまりこの俺は下等な弱者どもと違う、絶対的強者ということだ」


 俺は椅子の上でますますふんぞり返る。


「哀れな凡人どもから見れば、この俺は化け物だろう。言い換えれば強者の証ということだ」


 俺はあごでマホを示す。


「貴様もだ」

「私もです?」

「そうだ。俺に比べれば小物とはいえ、貴様も凡人と比較すれば強者たる資格を持っているということだ。これを誇らずしてどうする」

「でも」

「黙れ」


 俺は立ち上がるとベッドに近寄った。

 マホの胸倉を、ぐいと掴み上げる。


「はいかイエスで答えろ」

「ゲドー様」

「はいかイエスで答えろ」

「はいです」


 俺は額がくっつきそうなほど顔を近づける。


「俺は絶対的強者だ」

「はいです」

「貴様は化け物だ」

「はいです」

「貴様は俺より小物だ」

「はいです」

「だが強者だ」

「……」


 俺は額をがつんとくっつけ、低い声を出した。


「マホ」

「……はいです」

「そうだ。貴様は強者だ」

「はいです」

「俺の横に立つ資格がある」

「はいです」

「貴様は俺のものだ」

「はいです」

「永遠にだ」

「はいです」


 いい返事だ。


 俺はマホをベッドに放り出した。

 マホの身体がぽんとバウンドする。


「……ゲドー様」


 マホがベッドに転がったまま俺を見上げる。


「私は強者なのです?」

「そこらの低俗な凡人どもよりはな」

「本当に、強者だと思っていいのです?」

「無論だ」

「強者だからゲドー様の横に立つ資格があるのです?」

「そうだ」


 マホが一拍置いて、続ける。


「私は永遠にゲドー様のものです?」

「そうだ」


 俺の答えを聞いて、マホは俯いていたが。

 しばらくして、こくんと頷いた。

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