表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/94

口づけ

 俺は床に転がった悪魔の首に近寄った。


「グ……ガ……」


 見上げたことにまだ生きている。

 さすがは悪魔と言ったところか。


「ギ……ググ……」


 首だけの悪魔が引きつった表情を浮かべる。


「た、頼む……。助け」


 俺は悪魔の首を、グシャリと踏み潰した。

 それで終わりだ。


 魔王四天王はこれで3人が死んだ。

 だが今の俺にはどうでもいいことだ。


 俺は床に倒れているマホに目を遣った。

 愚かにもこのゲドー様を庇ったマホ。


 くそったれが。


 貴様ごときが俺の身代わりになるなど、とんだ思い上がりだ。

 下等な人間は脆いのだから、黙って俺の後ろにでも隠れていればよかったのだ。

 出しゃばった挙句がこのザマだ。


 ふざけるな。

 この俺のしもべでありながら、道半ばで死ぬなど許されることではない。

 俺にはまだ貴様が必要なのだ。


「ま、マホ……」


 オッヒーが沈鬱な表情で、真っ赤に染まったマホの上体を起こす。

 仲間意識を感じていたのだろう、目には薄らと涙が溜まっている。


「! ゲドー様!」


 突如オッヒーが声を上げる。


 うるさい。

 黙っていろ。


「まだ生きていますわ!」

「何だと!?」


 俺はマホを覗き込む。

 唇に手のひらを近づけると、ほんの僅かだが呼吸を感じる。


 マホの胸をよく見ると、貫通した傷はかろうじて心臓を外れているようだ。


「でもゲドー様、このままでは!」


 その通りだ。

 生きているのが奇跡のような状態だが、このままではもう間もなく息絶える。


「オッヒー。今すぐここに高位の神官を連れて来い」

「無茶にもほどがありますわ!」


 いずれにせよ大した力もない現代の神官では、この致命傷を治癒できるかどうかも怪しい。


「ゲドー様こそ、伝説の大魔法使いなのですから治癒魔法は使えませんの!?」

「そんな軟弱な魔法は知らん」


 俺は卓越した自己治癒能力を備えているから、そもそも治癒魔法などいらんのだ。


「では、マホはこのまま……」


 打つ手がないとわかると、オッヒーの目から涙が零れそうになる。

 確かに、今この瞬間にマホの命が失われてもおかしくない。


 マホの顔からは完全に血の気が失われている。


「……」


 ちっ。

 このゲドー様が、こんな自己犠牲の一種ともいえる手段に訴えるしかないとはな。

 不愉快だ。


 だが今マホに死んでもらっては困る。


 俺はマホの唇に、自分の唇を重ねた。


「げ、ゲドー様。何を!?」


 オッヒーが目を白黒させているが、無視して唇を重ね続ける。


「えっ。傷が……!?」


 マホの胸の傷が、徐々に塞がっていく。


 程なくして傷が塞がり出血が完全に止まる。

 だが俺はまだ唇を離さない。


 そのうちマホの顔に、僅かながら血色が戻ってきた。


「……ふん」


 俺はようやく顔を上げた。


「マホ……。助かりそうですわ」


 オッヒーが今度は嬉し涙を流しそうになっている。

 全く難儀な奴だ。


「ゲドー様、あんなことを言ってやはり治癒魔法を使えるんですのね」

「そうではない」

「でも、傷が塞がって」

「俺の超人的な再生能力を、少しばかり分け与えてやった」


 言い方を変えれば、俺自身の再生能力が減退したということだ。

 俺の超人的な力の一部を、マホのために犠牲にしてやったということだ。


 こんな手段を取るしかないとは胸糞悪い。

 俺は自己犠牲という言葉が大嫌いなのだ。


 俺はマホの顔色を見た。

 相変わらず青白いが、死の淵からは脱したようだ。


 当然だな。

 俺のしもべともあろう者が、こんなところで死んでいいはずがない。

 ましてこのゲドー様が再生能力を分けてやったのだから、この結果は当たり前だ。


 そう。

 これは当然の結果なのだ。

 だからこの俺が、安堵などという惰弱な感情を抱いているはずがない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ