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俺はケツを蚊に食われてむしゃくしゃしていた

 記憶の片隅に引っかかっていたことを、ようやく思い出した。

 俺は500年前、ここに来たことがある。


 オッヒーが広間を右往左往している。

 壁や床を調べている。


 が、何も見つからないようだ。


「大いなる力は? 力はどこですの!?」

「オッヒー様、床の魔法陣にヒントがあるかもなのです」

「でもこれ、とっくに朽ちていますわ。何の魔法陣かわかりますの?」

「魔法陣ということしかわからないのです」


 話をしている2人を眺め、俺は鼻を鳴らした。


 なるほど、大いなる力とはよく言ったものだ。

 確かにこれは力かもしれんな。


「よく聞け愚民ども。この朽ちた魔法陣は、召喚の陣だ」

「召喚……ですの?」

「どうしてわかるのです?」

「俺が実際に使用した」


 オッヒーの目が点になっている。

 マホも首を傾げている。


「教えてやる。500年前の話だ」


 俺は懐かしさに目を細める。


「あの日、俺はケツを蚊に食われてむしゃくしゃしていた」

「……はい?」

「虫の居所が悪かった俺は、奈落から悪魔を呼び出すことにした」

「その理屈はおかしいですわ!」


 うむ。

 懐かしいあの日だ。


「俺はこの迷宮の所有者を消し飛ばして、この召喚陣を拝借した」

「それは拝借ではないのです」

「そして奈落から一匹の悪魔を呼び出したわけだが、その悪魔の名前がヴァルマ・ゲドンだったな」

「魔王と同じ名前ですわ」


 うむ。

 うむうむ。


 そうだな。


「どうやら俺が500年前に呼び出した悪魔が、300年ほど力を蓄えて、大陸全土を戦火に陥れるほど強大な力を身に着けたようだな」

「あ、あ、あ……」


 ヴァルマ・ゲドンも魔王と呼ばれるほど立派に成長したわけだ。

 召喚主冥利に尽きるな。


「あなたのせいでしたのーっ!?」

「ふははははは! どうやらそのようだな」

「魔王がどこから現れたのか、誰もがずっと疑問に思っていましたのよ!」

「俺が召喚した」

「今聞きましたわ!」


 オッヒーは俺に指を突き付けてぷるぷる震えている。


「ゲドー様。今の話は本当なのです?」

「無論だ」

「魔王が現れたのも、200年前に大陸全土が甚大な被害にあったのも、今回魔王が復活したのも、元を正せばゲドー様が原因なのです?」

「そうなるな」


 俺は広間の中心で仁王立ちした。


 うむ。

 間接的にとはいえ、俺の力が大陸全土を恐怖に陥れたわけだ。

 そう考えると、悪くない気分だな。


 マホがじとーっと俺を見つめている。


「ゲドー様、どうなさるつもりですの?」

「どう? やることは変わらん」

「そうではなくて、どう責任を取るつもりですの!」

「責任だと?」


 俺はオッヒーを見下ろした。

 オッヒーは気圧されたように後ずさる。


「面白いことを言うな、オッヒー。何の責任だ?」

「で、ですから魔王を召喚して、大陸全土を戦火に巻き込んだ責任ですわ」

「その責任を、なぜ俺が取らねばならんのだ?」

「だって、召喚したのはあなたでしょう?」


 召喚したのはその通りだ。

 だが。


「くだらん。実にくだらん」

「何、何ですの……?」

「責任だと? いかにも凡人弱者が、自分より強い者に対してほざきそうな言葉だなあ」


 俺は笑った。

 くだらなさすぎて笑えるわ。


「200年前の有象無象どもが仮に強ければ、ヴァルマ・ゲドンごとき退けられたはずだ。弱いからこそ散々な目にあった」


 俺は腕を振る。

 少しは変わったと思ったが、オッヒーは根本的なところで温室育ちだ。

 やはり何もわかっていない。


「弱い奴が悪い。強ければ何も問題はなかった。それだけだ」


 オッヒーは口をぱくぱくしている。

 言葉が出てこないようだ。


 マホはいつもの無表情で黙っている。

 と思いきや、こめかみに指を当てて「む~っ」と唸っている。

 どうやらマホにも思うところがあるらしい。


「で、でも、でしたら魔王が現れた責任は、誰が取れば……」

「取る必要などない。そもそも責任を取るということ自体が、弱者の発想なのだ」


 弱者ほどすぐに責任という言葉を口にしたがる。


 だが真の強者には責任を取るという発想などない。

 降りかかる問題を全て自分で解決できれば、そもそも責任を追求する必要がないからだ。


 そして俺は強者だ。

 誰かに責任を追求するという発想自体が、くだらん弱者の理屈に過ぎん。


「いいか。俺は魔王を倒してやる」


 俺はオッヒーに詰め寄る。


「だがそれは貴様の言う弱者の理屈からではない。ただ純粋に俺のためだ。俺は俺のためにヴァルマ・ゲドンをぶちのめす。それだけだ」


 俺に詰め寄られて、オッヒーの顔が青くなっている。


「理解したなら、二度とくだらん弱者の理屈をほざくな。俺は心根まで惰弱に成り下がった雑魚が嫌いなんだ。わかったな?」


 俺の眼光を受けて、オッヒーが涙目でこくこく頷く。

 頷かないと殺されると思ったのかもしれんが、まあどうでもいい。


 俺がオッヒーから離れると、オッヒーは床にへたり込んだ。


「オッヒー様」


 マホが声をかける。


「ぐすっ……。な、何ですの……」

「どちらにしても、ゲドー様は魔王を倒してくれるのです」

「そ、それはそうですけども……」

「納得はしなくていいのです。魔王を倒すことは結果的に、私たちの利益になるのです。損得で考えれば得になるので、ひとまずそれで良しとするのです」

「……」


 オッヒーはしばらく俯いて、それから顔を上げた。


「マホは強いですのね」

「ゲドー様には負けるのです」


 マホの言葉に、オッヒーはくすっと笑った。


「……そうですわね。ひとまず魔王が討伐されるなら、動機はどうあれよいことですわ」


 納得はしていないようだが、オッヒーは心の落とし所を見つけたようだ。

 ふん、小物は納得の仕方一つとっても面倒なことだな。


「でも、これはこれで朗報でもあるのです」

「……何がですの?」

「魔王ヴァルマ・ゲドンを召喚したのがゲドー様ということは、ゲドー様は敵である魔王のことをよく知っているのです」

「なるほどですわ。魔王と戦う際に、大いに有利になりますわね」

「はいです」


 マホはオッヒーに頷いてから、俺を見上げた。


「そういうわけで、魔王ヴァルマ・ゲドンのことを教えてほしいのです」

「ふん、よかろう」


 俺に比べれば雑魚とはいえ、ヴァルマ・ゲドンは強大だ。

 こいつらも知っておいて損はあるまい。

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