大いなる力の広間
「お二人を付き合わせているワタクシが言うのも何ですけれど」
最下層を進みながら、先頭のオッヒーが口を開いた。
「ゲドー様とマホは、何の目的で旅をしているのか聞いてもよろしくて?」
「何だ。ヒシガッタ城で大臣から聞かなかったのか」
「ワタクシが聞いたのはあなた方の名前と、地下牢に連行しろという大臣の命令だけですわ」
「魔王討伐に行くのです」
「えっ!?」
オッヒーが足を止めて俺たちを振り返る。
「魔王って、魔王ヴァルマ・ゲドンのことですの?」
「他に魔王はいないのです」
「……そうですの。復活したらしいという噂は聞いていましたけれど、どうやら本当でしたのね」
「本格的に動き出す前に倒したいのです」
オッヒーが驚きから立ち直り、なるほどと頷く。
「魔王討伐という壮大な目的があったからこそ、我が城に閉じ込められるわけにはいかず、やむなく城を吹き飛ばしたんですのね……。そもそも不当に拘束しようとした大臣に非があったのですけれど……」
一人で納得している。
マホが「城を吹き飛ばしたのはやむなくではないのです」とでも言いたそうな表情をしている。
しかし魔王の名前はヴァルマ・ゲドンというのか。
ふむ。
そうか。
ヴァルマ・ゲドンな……。
「そういうことでしたら、ワタクシも魔王討伐に同行いたしますわ」
オッヒーが拳をぐぐっと握り締める。
「魔王と言えばこの大陸の全人類の仇敵。見過ごすわけにはいきませんわ」
「いらん」
「そんな容赦なく」
「足手まといは邪魔だ」
「くっ……」
オッヒーが歯噛みする。
自分が俺たちの足手まといという自覚はあるようだ。
「で、でしたら足手まといでなければいかがですの?」
「あん?」
「首尾よく大いなる力を手に入れて、ワタクシが役に立つくらい強くなったら、もう足手まといではありませんわ」
「ほう、よかろう。本当にそんな力が手に入ったなら、お前の同行を許可してやる」
「その言葉、間違いありませんわね」
「このゲドー様に二言はない」
まあ魔王ごとき、俺一人いれば充分だがな。
ふと見ると、オッヒーは先頭を進みながら何やら紙に書いている。
「それは何だ?」
「何って、マッピングですわ。迷わないように、進んだ道の地図を書いていますの」
「地図だと。いかにも凡人らしい発想だな」
「マッピングは迷宮探索の基本ですわ」
オッヒーがふてくされる。
「ゲドー様だって、帰り道がわからなくなったら困るでしょうに」
「天井に穴を開けて地上に戻ればよかろう」
「……ゲドー様、さすがですわ」
オッヒーが頭痛をこらえるような仕草をする。
「ゲドー様、オッヒー様、魔物なのです」
◆ ◆ ◆
俺たちは通路を進み、何度も魔物をぶちのめした。
主に俺の力でな。
まあマホとオッヒーも、小指の爪の先くらいは役に立ったかもしれんが。
「恐らくここが最奥ですわ」
金属製の巨大な門があった。
全く錆びていないことから、保護の魔法がかけられているのだろう。
「さっさと開けろ」
「言われなくても……というか、ゲドー様も手伝ってほしいですわ」
「俺を些事に煩わせるな」
「ずるいですわ……」
マホとオッヒーが一生懸命、扉を押し開ける。
マホは小柄なので、身体全体でよいしょよいしょと押している。
やがて扉が開いた。
「つ、疲れましたわ……」
「オッヒー様、がんばったのです」
マホがオッヒーの頭をナデナデする。
オッヒーは自分より小柄な子に頭を撫でられて、何ともいえない表情をしていた。
オッヒー、マホ、俺の順で扉をくぐる。
その先は、広間だった。
「……何もありませんわ」
何もなかった。
ただ、朽ちた魔法陣の残骸が床に描かれているだけだ。
後は本当に何もない。
「何もないのです」
「大いなる力はどこですの?」
マホとオッヒーがきょろきょろしている。
俺は2人を無視して、広間の中央まで歩いた。
ふん。
やはりそうか。
俺は500年前、ここに来たことがある。




