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 俺はじろじろと無遠慮にオッヒーを観察する。

 その視線を受けて、オッヒーが口を開く。


「ゲドー様。ワタクシの国を滅ぼしたあなたは、憎き仇ですが……。今なら少しだけあなたの言葉の意味がわかりますわ」

「どの言葉だ?」

「弱い奴が悪い」


 ほう。


 それを言うオッヒーの目は、ぬるま湯に浸った世間知らずの姫のものではない。


「ワタクシは確かに弱かったのですわ。城が吹き飛んだ恐怖から逃げ出し、仇であるはずのゲドー様から逃げ出し……」

「冒険者になったのです?」


 マホの言葉にオッヒーは頷く。


「仇を討つために、それに何よりも生きるために、強くならなければと思ったのですわ。ワタクシ恥ずかしながら城から出て初めて、この世界は弱ければ生きていけないということを知ったのですわ」


 俺から言わせればそんなことはない。

 500年前の世界と比べれば、この時代は弱者に優しい。

 弱さゆえに搾取されることさえ受け入れれば、弱いままでも生きていけるからな。


「城にいた頃、吟遊詩人が語る冒険者の英雄譚に憧れたこともありましたの。それで強くなりたいなら冒険者になればいいと思い立ったのですわ」

「安直なのです」

「うぐっ……。え、ええ、安直でしたわ。冒険者とはまさに、実力第一の厳しい世界でしたもの」

「でもオッヒー様は今ここで、冒険者をしているのです」


 マホの言葉に、オッヒーは少しだけ誇らしげに胸を張った。


「まだ未熟ではありますけれど、ワタクシも一人で生計を立てられる程度には冒険者としてやっていけているのですわ」


 マホがぱちぱちと拍手をする。

 オッヒーは嬉しそうな顔をしたが、こほんと咳払いをした。


「ですがさすがに難攻不落と謳われるこの50階の遺跡に、一人で入るのは無謀とわかっておりますので」

「同行者を探していたのです?」

「ええ」

「だが見たところ、誰も貴様を相手にしていないようだが」

「え、ええ……」


 オッヒーが呻く。


「大半の方はすでに同行者が決まった状態でここに来ますの。現地で探すのは手遅れでしたわ」


 オッヒーは顔を上げると、きっと俺を見た。


「ゲドー様、それにマホ。ワタクシに同行してくださいまし」

「邪魔だ」

「くっ……」


 確かに俺はこの迷宮に潜るつもりだ。

 少々、記憶に引っかかることがあるからな。


 だが足手まといはいらん。


「そもそも俺は、王族もろとも城を吹き飛ばした張本人だぞ。この俺が憎いのだろう?」

「もちろんですわ。けれど今のワタクシでは、伝説の大魔法使いであるゲドー様にはとても勝てません」

「当然だな」

「ですから、ワタクシはもっと力をつけます。この迷宮に挑むのも、そのためですわ」


 オッヒーは拳を握りしめて言葉を続ける。


「いつかワタクシに倒されるために、力を貸してくださいまし」


 ほう。

 こいつは驚いた。

 このセリフをこうまで堂々と言えるとは、オッヒーは確かに成長したようだ。


 だが、この程度では足りんな。

 俺は腕を組む。


「このゲドー様にものを頼むにしては、図が高いのではないか? ん?」

「く……」


 やはり悔しいのか、オッヒーが唇を噛む。


「親を殺した憎き仇に、頭なんぞ下げられないだろう? 諦めるんだな」

「……」


 オッヒーは俯いている。

 もちろん待ってやる義理などない。


「マホ、行くぞ」

「はいです」

「ゲドー様!」


 見ると、オッヒーが頭を下げていた。

 それも頭頂部が見えるほど深々と。


「お願いします。ワタクシに力を貸してくださいまし」


 俺はオッヒーを見下ろしている。


「ワタクシはどうしても、この迷宮を攻略したいのですわ」


 オッヒーは頭を上げない。


「お願いします」


 ……。


「お願いします……」


 ふん。


「マホ、行くぞ」

「はいです」

「あ……」


 オッヒーが悲しげな声を上げる。


「何をしている。置いていくぞ、オッヒー」

「……!」


 オッヒーの顔がぱっと明るくなった。


「はい!」

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