封印解除
「何事です!?」
姫の言葉と同時に、謁見の間に兵士が転がり込んできた。
「ほ、報告いたします! 巨大な翼竜が城の外壁に突っ込んできました!」
兵士の報告を聞いて、謁見の間にいた大臣や騎士どもがざわざわと騒ぎ出す。
「静まりなさい! 騎士をすぐに現場に向かわせるのです」
「はっ!」
鎧姿の騎士どもが、兵士と一緒に謁見の間を出ていく。
「マホ!」
「はいです」
姫の呼びかけに応じて、ローブ姿の少女が進み出る。
小柄な少女だ。
いや幼女と呼んだほうがいいか?
いやぎりぎり少女だろう。
小さいが。
透明感のある青い髪をしており、なかなか可愛らしい容姿をしている。
杖を持っていることから魔法使いだろう。
「ゲドーを連れて、あなたも現場に向かいなさい」
「わかったのです」
「おい待て俺はぐえええ!」
襟首を掴まれて引きずられていく。
枯れ木のような今の俺の身体は、よほど軽いらしい。
通路を引きずられて大広間まで来た。
本来ダンスパーティなどで使用されるのだろう広間は、戦場になっていた。
壁に開いた大穴から、翼竜が入り込んでいる。
長く伸びた鎌首は天井まで届き、全身は硬そうな鱗で覆われている。
「突撃いいい!」
騎士が群れて翼竜に突っ込んでいく。
そこに翼竜が口から、竜巻もかくやという威力の突風を吐き出した。
「ぎょああああ!」
まとめて吹き飛ばされれる騎士ども。
こいつら弱いな。
500年前と何も変わっていない。
翼竜が暴れる。
巨大な翼が壁を壊し、鎌首が天井を突き破り瓦礫をばら撒く。
兵士どもが槍を突き出しているが、硬い鱗に弾き返されている。
こいつら騎士より弱いな。
「無理そうなのです」
マホが無表情で冷静なことを言う。
全くもって同感だ。
「マホとやら。お前が戦えばいいだろう」
「私は攻撃魔法は使えないのです」
「役立たずかよ」
確かに翼竜は、俺にとっては雑魚だが強力な魔物だ。
しかし魔物一匹に王城が翻弄されているとは。
この国やばいんじゃないのか。
「がはあ!」
そんなことを考えていたら瓦礫が飛んできて俺の頭に当たった。
痛いんだよくそが。
「このゲドー様に手を挙げるとは許さんぞ……」
俺は立ち上がってよろめく。
力が入らない。
「おいマホ。俺の封印を解け」
「解いたらあの翼竜を倒してくれるのです?」
「当然だ。やろうぶっ殺してやる」
今の俺は一般人相当だ。
こんな状態では手も足も出ない。
マホは数秒ほど思案していた。
だがその間にも瓦礫は降り積もり、騎士や兵士どもがやられていく。
「わかったのです。1段階だけ解くのです」
「早くしやがれ」
マホは俺の胸に手を添えると、口の中で何事か呟き始める。
また瓦礫が飛んできて、今度はマホの背中を強打する。
が、マホは一度咳き込んだだけで、顔色も変えずに詠唱を続ける。
こいつ小さいくせにいい根性してるな。
マホが詠唱を終えた。
俺の胸のあたりで、何かがパキンと外れる音が聞こえた。