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冒険者オッヒー

 海沿いの町を離れて街道を北上していると、ぱらぱらと人影が目立つようになった。

 しかもその連中はどいつもこいつも武器や防具で武装している。


 よく見ていると、そいつらは街道から外れて林の中に入っていく。


「マホ、何かあるのか?」

「見てくるのです」


 マホが馬車を止めて、そいつらを追って林の中に消えた。

 その間、俺は有象無象どもを観察する。


 どいつもこいつも凡人だな。

 このゲドー様から見れば当然か。


 マホが戻ってきた。


「地下に迷宮があるみたいなのです」

「迷宮だと?」


 500年前にも迷宮はいくつもあった。

 大抵は暇な魔法使いが自分のねぐらとして使っていたものだ。


 そいつらは自分の研究成果やマジックアイテムなどを他人に持ち出されないように、わざわざ複雑な迷宮を作っていたわけだ。


「この人たちが向かっているのは、50階の迷宮と呼ばれているみたいなのです」

「安直な名前だな」


 しかし50階。

 50階か。


 んん……?


 何か昔の記憶に引っかかるものがあるな。


 俺は馬車を降りた。


「ゲドー様、迷宮に興味があるのです?」

「普通ならないがな」


 しかし俺は林の中に入っていく。

 マホがちょこちょこと俺の後をついてくる。


 武装した人間が十数人ほどいた。

 そしてマホの言う通り、古びた入り口にぽっかりと地下への階段があった。


 なるほど、迷宮への入り口だ。


「誰か、ワタクシとパーティを組んでくださいませんか?」


 突然、女の声がした。


「誰かワタクシと、この難攻不落の迷宮に挑んでくださいませんか?」


 どうやら同行者を探している奴がいるらしい。

 まあこのゲドー様ならともかく、凡人が一人で迷宮に挑むのは危険だろうからな。


「あっ、そこのお二方! よろしければワタクシと一緒に迷宮に挑戦しませんか?」


 お二方とは俺たちのことらしい。

 俺は女を見た。


 女は俺たちのほうに近づいてきた。


 金髪。

 見事な縦ロールの女だ。


 どこかで見たことがある。

 具体的には、オッヒー・メッサー・マ・ヒシガッタとかいう名前をしていそうな女だ。


「……あら?」


 女も俺の顔を見つめた。


「よう、雑魚」

「……。あーっ!」


 オッヒーが俺を指さして、ぷるぷると震えている。


「げ、げ、げげ……」

「カエルか?」

「ゲドー! 邪悪な大魔法使いゲドー!」


 俺は目を細めて睨み据えた。


「様をつけろ。死にたいのか?」

「……っ。げ、ゲドー様……」


 オッヒーが別の意味でぷるぷると震えている。


「こんにちはなのです。オッヒー姫様」

「……マンマールの宮廷魔法使い、マホ・ツカーリエ」


 マホの礼儀作法に則った挨拶に、オッヒーは胸を張った。

 どうにかして威厳を出そうとしているようだ。

 出ていないが。


「マホなのです。オッヒー姫様は、どうしてこんなところに?」

「姫はやめてくださいまし……。ヒシガッタ国はもう滅んだのですわ」


 やはり俺が城を吹き飛ばした後、ヒシガッタ国は周辺国に併合されてしまったらしい。

 亡国の姫ということか。

 哀れなものだ。


「ではオッヒー様。とても奇遇なのです」

「本当ですわ。まさかこんな場所で、憎きゲドー……様とマホと会うとは」


 見ればオッヒーは使い込まれた剣で武装している。

 マホの視線に気が付いて、オッヒーは剣の柄を手で撫でる。


「ワタクシも含めて、ここにいる人たちは皆、冒険者ですわ」

「冒険者だと? 何だそれは」


 500年前にはそんな職業はなかったぞ。


「昔の遺跡から宝物を掘り出したり、町人の困りごとを解決して日銭を稼いでいる人々のことなのです」

「何だ、ごろつきのことか」

「せめて盗掘屋と言ってあげてくださいです」

「どっちにしても褒められていませんわ」


 オッヒーがため息をつく。

 物憂げな表情だ。


 王族ということもあり、オッヒーは容姿だけ見れば見目麗しい。

 金髪も木漏れ日を受けてキラキラと輝いており、物憂げな表情は実に絵になっている。


 そして見目麗しい印象を受ける一番の理由は、雰囲気だ。

 以前会ったときのような負け犬然としたオーラではなく、どこか芯が通ったような雰囲気を醸している。


 どうやらこいつ、少しは変わったようだな。

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