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サメ肉は意外とぷりぷりしている

 沖。

 波は穏やかだ。


 俺たちは小舟の上にいる。


「ゲドー様、どうぞです」

「苦しゅうない」


 俺は釣竿を受け取る。

 マホも釣竿を準備する。


 2人で釣り糸を垂らす。


 ……。


「サメはどこだ。釣れんぞ」

「まだ3分しかたっていないのです」


 ……。


「ええい、釣れんではないか」

「まだ5分しかたっていないのです」


 ……。


「くそが。いつになったら釣れるのだ」

「ゲドー様。気付いたのですが」

「何だ」

「釣竿では、サメは釣れない気がするのです」

「ほう」


 盲点であった。

 確かにそんな気がする。


 俺は小舟の上で立ち上がる。


「直接潜って捕まえてくれよう」

「がんばってくださいです」


 俺は頭から海に潜った。


 まだ浅いな。

 潜る。


 魚どもがいる。

 潜る。


 大きな魚どもがいる。

 潜る。


 ん?


 巨大な影が俺のほうに突っ込んでくる。

 でかい。


 開けた大口に鋭い牙が並んでいる。

 サメだ。


 待っていたぞ我が獲物。

 このゲドー様の前に現れたのが不運だったな。

 一撃で仕留めてくれるわ。


 俺は手のひらをサメに向けた。


「がぼごぼがぼ!」


 はっ!?


「がぼごぼごぼぼぼぼ!」


 くそがああああああああ。


 水中だと喋れないから魔法が使えんではないか!


 大口を開けたサメが迫ってくる。


 ああああああああああ。

 俺は全力で逃げ出す。


 浮上だ。

 浮上せねば。


 サメが追ってくる。

 俺は浮上する。


「がぼごぼおおおおおお!」


 サメが俺のケツに噛み付いた。

 ブーメランパンツを持っていかれる。


 貴様あ、ただでは済まさんぞ!


 浮上する。

 全力で浮上する。


 サメが更に大口を開けて俺を飲み込もうと――。


「うおああああああ!」


 派手に飛沫を上げて、俺は海上に飛び出した。

 そのまま小舟に着地する。


「おかえりです」

「くそサメがああああ」

「何で全裸なのです」

「不慮の事故があったのだ」


 突如、小舟に凄まじい衝撃が走った。

 下から突き上げるような衝撃だ。

 サメが突撃してきたのだ。


「ゲドー様。船底に穴が開いたのです」

「人間様に楯突くとは許さんぞこの魚類があああ」


 小舟が沈んでいく。

 俺とマホも沈んでいく。


 サメが俺たちに迫った。

 巨大な口がもう目の前だ。


 ばくん。


 俺は飲み込まれた。


 あああああああああああ。

 この俺が。

 邪悪なる大魔法使いゲドー様が、あろうことか下等な魚類の餌になるとはあああ!


「オテ・オテ・オカワリ」


 マホの詠唱が聞こえた。


「サン・カイ・マワッテ・ニャン・ニャン」


 目の前が暗くなってきた早くしろあああ。


「マスター」


 マホの魔法が完成すると同時に、サメが大人しくなった。

 何だ?


 サメがぺっと俺を吐き出した。

 危なかった。

 この下等生物が、よくもやってくれたな。


「マホ、何をした」

「動物を服従させる魔法なのです」

「何だそのマイナーな魔法は」


 俺の言葉にマホが半眼になった。


「役に立つのです」

「たとえば何だ」

「たとえば私たちの馬車を引いてくれる馬が、戦っていようが悪路だろうが文句も言わずに進んでくれるのはこの魔法のおかげなのです」


 何い、そうだったのか。

 よく訓練された馬だと思っていたが、マホの奴が魔法で飼い慣らしていたのか。


 すっかり大人しくなったサメは、マホに腹を見せて服従のポーズを取っている。


「小舟は沈んでしまったので、この子の背中に乗せてもらって帰るのです」

「よかろう」


 俺たちはサメの背中に乗った。

 サメは浜に向かって泳ぎ始めた。


「くそ魚類のせいで酷い目にあった」

「サメのせいではないですが酷い目にあったのです」



◆ ◆ ◆



 俺たちは砂浜に戻った。


「凶悪なサメを従えているせいで、愚民どもの注目を集めておるわ」

「ゲドー様が全裸なことに起因していると思うのです」


 マホがタオルを俺の腰に巻きつけた。


「ではサメはリリースするのです」

「待て」

「はいです」

「俺はサメを食いたいと言ったはずだ」


 マホが俺とサメを見比べる。


 サメがつぶらな瞳で見つめてくる。

 心なしか震えている気がする。


「食べるのです?」

「このゲドー様に二言はない」


 ズバッ、ズバッ!

 俺はサメを斬撃の魔法で容赦なく卸した。


「サメさん、ありがとうなのです」


 じゅわじゅわ。


 サメ肉に塩コショウをふって、小麦粉をつけて揚げた。

 肉は存外ぷりぷりとして弾力があった。


 肉の味自体は淡泊だが、揚げればまあ悪くない。

 何よりサメを食らっているという達成感もあって気分がいい。


「予想より美味しいのです」


 マホもはむはむと齧りついている。


「俺はまあまあ満足したぞ」

「よかったのです」


 俺たちは砂浜から立ち去った。


 骨だけになったサメが、俺たちの後姿をじっと見つめている気がした。

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