ゲドー様はコソコソしない
「お前、ムッチャボコボコに改名しろ」
「いやなのです」
ここは宿だ。
俺の部屋には3人いる。
俺、マホ、そして捕まえた賊だ。
賊はロープで縛りあげてある。
被っていたフードを剥ぐと、貧相な男の顔が現れた。
「起きてくださいです」
マホが賊を揺り起こす。
「ん……? ひっ、ひいい!?」
目を覚ました賊は置かれている状況を理解したようだ。
だがこんな小物に長々と時間を割いてやる気はない。
「おい賊。今からこの俺が質問してやるから速やかに答えろ。わかったな?」
「なっ、何をひぎい!?」
俺は賊の指を一本へし折った。
「わかったな?」
「ひいああ……いぎゃああ!」
返答がないので指をもう一本へし折った。
「わかったな?」
「ひ、ひぎい……わかりまひた……」
賊は涙と鼻水を流して頷いた。
汚えな。
「この小瓶で町の魔法使いどもの魔力を吸い取っていたのか?」
「そ、そうでしゅ……」
「誰に頼まれた?」
「そ、それは……ぴぎゃあああ!」
指をもう一本へし折った。
この俺に手間をかけさせるな下等生物が。
「誰に頼まれた?」
「だ、大臣れしゅ……」
「城にいる大臣か?」
「そうれふ……」
賊は失神寸前だ。
気の弱い奴だな。
「魔力を集めていた目的は何だ?」
「し、知らないでしゅ……あべしゃああ!」
指をへし折った。
「目的は?」
「ゆ、ゆるひてくらひゃい……本当に……」
目的までは聞かされていないか。
まあ小物のようだしな。
こいつはもう用なしだ。
「情報提供、大義であった」
俺は賊の首をへし折った。
賊は息絶えた。
マホは無表情でそれを眺めた後、賊が持っていた小瓶を取り出した。
「これの使い方を聞かなくてよかったのです?」
「魔力を吸い取る小瓶か。ふん」
くだらん。
「破壊しろ」
「いいのです?」
「いかにも小物が好みそうな小道具だ。そんなものに頼らざるを得ないのは、そいつが弱いからだ」
絶対的強者である俺はつまらん小細工など必要としないのだ。
「わかったのです」
マホが小瓶を床に置いて、杖を振り下ろした。
小瓶は砕け散った。
「さて、そんなことより大臣が黒幕のようだな」
「城に忍び込むのです?」
「馬鹿め、なぜ俺がそんなコソコソしないといかんのだ」
「どうするのです?」
俺は胸を張った。
「城ごと吹き飛ばす」
「待ってくださいです」
「何だ」
「大臣がたまたま不在だった場合、ゲドー様のせっかくの大魔法が無駄になるのです」
なるほど。
それはつまらんな。
「やはり城に忍び込んで、大臣を探すのです」
「却下だ。このゲドー様ともあろう者が、下等な盗賊のような手段を取ると思うか」
「ではどうするのです?」
「簡単な話だ」
俺は口角を吊り上げた。
◆ ◆ ◆
マホにたっぷり魔力を供給させてから、王城にやってきた。
城門がある。
門番もいる。
「あー、君たち。アポのない者は立ち入」
「メガトン」
城門と周囲の城壁と、ついでに門番が吹き飛んだ。
「ははははは! 邪魔だ退け」
「正面から乗り込むとは思わなかったのです」
「この俺が正面以外のどこから行くというのだ」
瓦礫と化した城門を乗り越えて、城内に立ち入る。
ゆっくり堂々と歩いていく。
大魔法使いゲドー様は急がない。
急ぐ必要がない。
後ろからマホが無表情でついてくる。
「曲者だーっ!」
「であえであえーっ!」
兵士がわらわらと集まってくる。
「賊ども! たった2名で乗り込んでくるとはいい度胸だ!」
「大人しく投降しろ!」
ぞろぞろと槍を突き付けてくる。
うぜえ。
「キロトン」
正面の兵士どもが吹き飛んで道が開く。
俺たちは真ん中を堂々と歩いていく。
「賊は魔法使いだ!」
「ものどもかかれーっ!」
ぞろぞろぞろ。
「ザンデ」
俺の放った稲妻の魔法が兵士どもを薙ぎ払う。
有象無象が虫けらのように倒れていく。
いい気分だ。
俺はズタボロになっている兵士の胸倉を掴み上げた。
「大臣はどこだ」
「ひいっ! さっ、3階です……!」
俺は兵士を放り出すと、中庭を進む。
また兵士の群れがやってくるが、爆発魔法で吹き飛ばす。
「いったい何事だ!」
そこへ贅沢な服に身を包んだデブがやってきた。
脂ぎったデブだ。
たくさんの騎士を連れている。
「だ、大臣……」
「ほう」
城内まで行く手間が省けた。
騎士どもが一斉に剣を突き付けてくる。
俺は腕を組み、仁王立ちになった。
「貴様が大臣か」
「いかにも。貴様は何者――」
「死ねキロトン」
俺の爆発魔法が、大臣に直撃した。




