復活したゲドー様はへっぽこだった!
謁見の間。
ずいぶん昔のことのように思えるが、覚えている。
俺が封印された場所だ。
しかしかつて俺が歩いた赤いじゅうたんはないし、壁にかけられたタペストリーも異なる。
同じ場所だが様変わりしている。
「よくぞ参りました。邪悪なる大魔法使いゲドー」
豪奢なドレスに身を包んだ女が、玉座から立ち上がる。
姫だろう。
だが俺を封印した憎き姫とは別人だ。
美しいし面影もあるが、どう見ても別人だ。
「あの、なぜそんなボロ雑巾のようになっているのですか?」
「うるさい黙れ」
俺は立っているのがやっとだが、膝をつくような真似はしない。
そんな屈辱的なことができるか。
「覚えていらっしゃるかどうかは存じませんが、あなたが封印されてから500年の歳月が経ちました」
500年?
500年だと?
俺はそんなに長いこと眠っていたのか。
だが自分の身体の錆びつき具合を考えれば納得もいく。
かつて国を圧倒した強大な魔力も、完全に底を尽いている。
今の俺では初級魔法すら満足に使えまい。
「500年か……。ずいぶん長いこと封印してくれたものだな、ゴミども」
俺は尊大な態度で腕を組む。
「あの、膝が笑っておいでですが」
「黙れくそがあああ」
この俺が。
この大魔法使いゲドー様が。
何たる屈辱。
姫が別人だろうが関係ない。
500年経っていようがそんなことはどうでもいい。
俺はこの国を滅ぼしてやる。
絶対にだ。
「魔法使いゲドー。あなたを復活させたのは他でもありません。頼みがあるのです」
「何い?」
いけしゃあしゃあと頼みだと?
「魔王を倒してください」
……魔王?
何だそれは。
「今から200年ほど前、突如魔王が現れました」
勝手に語り始める姫。
うぜえ。
「もちろんこの大陸全土で一丸となり、長きにわたる戦いで多大なる被害を出しながらも魔王を追い詰め、封印しました」
「馬鹿め、封印などせず倒せばよかっただろうに」
「倒し切れず、封印が精一杯だったようです。しかしその封印が解けました」
こいつら封印好きだな。
「魔王は今現在、力を蓄えています。本格的に動き出す前に倒さねばなりません」
「倒せばいいだろう。また大陸で一丸となって」
「先の戦いでは大陸全土が壊滅的な被害を受け、いくつかの国は亡びる瀬戸際までいったそうです。同じことは二度とできません」
姫は胸の前で手のひらを組む。
「魔法使いゲドー、お願いします。魔王の討伐を……」
「ふざけるな」
俺は姫の言葉を遮った。
全くもってふざけるな。
「貴様らに封印されたこの俺に、頼みごとだと? 馬鹿も休み休み言うんだな」
「しかし魔王が」
「知ったことか。勝手に滅びろ」
俺の言葉に姫は俯いた。
しかしすぐに顔を上げる。
「あなたにも利がある話なのですが、よいのですか?」
「何だと?」
「あなたは復活したばかりで魔力が底を尽いているでしょう」
忌々しいがその通りだ。
「ですがそれに加えて、あなたの身体には何重にも封印がかけられています」
「封印だと……」
「あなたほどの力を持つ大魔法使いです。500年前の神官たちは、厳重な封印を施したそうです」
それでか。
自分の身体に全く力を感じない。
これではまるでそのへんにいるボンクラどもと同じだ。
「魔王を討伐するとなれば、今のままのあなたではとても敵わないでしょう。つまり……」
「貴様の頼みを受ければ、俺にかけられた封印を解くと?」
「そうです」
なるほど。
悪くない。
力さえ戻れば、魔王だろうがこの国だろうが俺の敵ではない。
が。
「信用できると思うか?」
「王族の名誉にかけて、約束は違えません。ただし……」
「ただし?」
「あなたに施された封印を解くのは、魔王の本拠地に到着してからです」
……ちっ。
姫も馬鹿ではない。
確かに今ここで俺の力を解放したら、即座に暴れ出すことくらい容易に想像がつく。
つまり条件を受け入れるなら、俺はまず魔王の本拠地まで赴いて、魔王とやらをぶち殺すことになる。
もちろん次はこの国だ。
しかしな……。
王族というのは名誉をやたら重要視する。
その名誉にかけて約束するなら、まあ信用できるだろうが絶対ではない。
何かもう一つほしいところだ。
そんなことを考えていたとき、突如王城が振動した。