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囮に最適なサイズ

 翌朝、宿の1階でマホと朝食を共にした。


「そういえば昨晩、俺の部屋に賊の侵入があった。お前か?」

「どんな賊だったのです?」

「男の声で魔力をよこせとかほざいていた」

「何でそれで私だと思ったのです」


 マホは付け合せのアスパラをはむはむと食べている。


「今の言葉からの推測なのですが」

「何だ」

「干からびた死体は、魔力を吸い尽くされたなれの果てだと思うのです」

「まあそうだろうな」


 俺は唐揚げを口に放り込む。

 朝から肉で何が悪い。

 茶色は正義だ。


「ゲドー様も一歩間違えれば、ミイラにされていたのです」

「ふん、この俺を有象無象の魔法使いもどきと一緒にするな」


 肉と一緒に葡萄酒を口に流し込む。


「恐らくその賊が犯人だと思うのです。捕まえたいのです」

「放っておけ。この町の愚民どもがどうなろうと俺たちには関係ない」

「これも推測なのですが」


 マホはちまちまと水を飲んでいる。


「キレーナ森林の魔王四天王を名乗るダークエルフは、千年樹で魔力を集めていたとゲドー様は推測したのです」

「そうだ。復活して腹が減っている魔王にくれてやるためだろうな」


 なるほど。

 マホの言いたいことはわかった。


「この町の事件も、同じように魔力を集めている四天王とやらの仕業だと言いたいのだな?」

「はいです」


 確かにこの町に魔王四天王とやらがいるなら潰しておきたい。


 このゲドー様にかかれば魔王四天王など雑魚同前。

 潰すのに大して手間はかからんしな。


「昨晩の賊は言動からしていかにも小物だった。四天王本人ではなく手先だろうな」

「問題はどうやって捕まえるかなのです」

「ふん、簡単な話だ」


 俺は口元を吊り上げる。

 マホが首を傾げた。


「マホ、お前が囮になれ」

「囮です?」

「そうだ。お前はローブを着ているし杖も持っている。いかにも小物の魔法使いといった風体だ」

「ローブならゲドー様も着ているのです」

「ただのローブではない」

「かっこいい漆黒のローブを着ているのです」

「ふはははは。その通りだ」


 マホの奴も俺のセンスを理解できるようになってきたな。

 いいことだ。


「この俺では大物感が漂いすぎて、裏通りを歩いても賊が恐縮して襲ってこないだろう」

「昨晩襲われむぐ」


 マホの口に付け合せのニンジンを突っ込む。


「その点マホなら弱そうに見える。ちょっと裏通りを歩いてやれば、賊の一匹や二匹ほいほい釣れるに違いない」


 マホはニンジンを少しずつ齧っている。

 

「では私が囮をやるのです」

「捕まえる役もな」


 マホが目をぱちぱちさせる。


「ゲドー様は何をするのです?」

「些事に俺を煩わせるな」

「宿で休んでいるのです?」

「そんなことはない。視力強化の魔法で遠くから見守っておいてやるから、少し魔力をよこせ」



◆ ◆ ◆



 日が暮れてからしばらくして。

 マホが一人で裏通りを歩いている。


 ローブに杖。

 いかにもな魔法使いだ。


 俺は遠くの建物から眺めている。

 こんな雑事、この俺が出るまでもない。


 日没後の裏通りだけあって人気はない。

 遠くから眺めているせいか、小さなマホの背丈が余計に小さく見える。


 ん?

 誰かがマホに近づいてきたぞ。


 一人だ。

 フードを被っている。

 例の賊に違いない。


 何やらマホに話しかけている。

 魔力をよこせとでも抜かしているのだろう。


 ん?

 賊め、何か小瓶を取り出したぞ。

 あれで魔力を吸い取るのか?


 ああ。

 マホが杖をスイングして賊をぶっ飛ばした。

 賊は一撃で気絶したようだ。


 マホが賊を引きずって歩き出す。

 宿に戻るつもりだろう。


 俺も戻ってやるとするか。

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