カラカラの干物
城下町にやってきた。
門番が俺たちの馬車を止める。
「やあ、旅の人かな」
「魔王討伐の旅なのです」
「はっはっは、面白い冗談だね」
特に怪しい荷物もないのですんなり通される。
「ああそうそう。この町は今ちょっと物騒だから、気をつけなよ」
「物騒なのです?」
「大きな声では言えないが、魔法使いの連続殺人が発生していてね」
「ありがとうです。気を付けるのです」
マホが馬車を進めて大通りに入る。
「魔法使いの連続殺人だと?」
「この町は魔法使いの町とも呼ばれているのです」
「ふん、魔法使いもどきが多いということか」
現代の魔法使いなど、俺から見ればもどきだ。
馬車を預り所に預けて宿を探す。
「きゃあああ!」
「しっ、死体だ―っ!」
突然、裏通りのほうから悲鳴が上がる。
死体だと?
俺とマホは声の上がったほうに歩を向ける。
そこには人だかりができていた。
「おいっ、近づくな」
「散れっ、散れっ」
憲兵が通行人を散らしている。
俺は人垣の間から現場を覗いた。
なるほど、死体が転がっているな。
しかし何だあれは。
干物のようにからからに干からびた死体。
まるでミイラだ。
何かを根こそぎ吸い取られた後のように見える。
「干からびているのです」
「見ればわかる」
「あの死体も魔法使いだったのです?」
「知らんしどうでもいい。行くぞ」
死体の一つや二つで大騒ぎするとは、民衆とは愚かなものだな。
あの干物は単純に弱いから死んだのだ。
それだけだ。
適当な宿を見つけてチェックインする。
当然、個室を2つ取る。
風呂がないなら俺の部屋は当然、個室以外の選択肢はない。
夕食時になったので一番豪華なディナーを注文する。
まあ豪華といってもたかが知れている。
宿のレベル的に最低限、白パンと肉が出てくればいい。
俺は寛大だからその程度で許してやる。
貧乏人が貪る黒パンを出すような宿は、絶対に取らん。
「ごちそうさまです」
夕食を平らげると部屋に戻った。
少し早いがもう寝るとするか。
寝たい時に寝付けるというのは、強者にとって必要なスキルだ。
寝不足で力を発揮できないなど、愚かにもほどがあるからな。
窓の外はとっくに暗い。
俺はベッドに潜り込んだ。
ふかふかではないがまあよかろう。
◆ ◆ ◆
「魔力をよこせ……」
室内で男の声が聞こえて、俺は目を覚ました。
何だ、まだ深夜ではないか。
「魔力をよこせ……」
俺が寝ているベッドの傍らに、人影が立っていた。
フードを被っていて顔は見えない。
どうやって侵入したんだこいつ。
「魔力を」
「おい」
俺は起き上がった。
「ひいっ!?」
人影は驚いたようにのけぞる。
「このゲドー様の眠りを妨げるとはいい度胸だ」
俺は人影をぶん殴った。
「ぎゃひい!」
吹っ飛ぶ人影。
「なっ、なぜ魔法使いなのに魔力がないんだ!?」
上ずった声を上げる人影。
魔力だと?
確かに俺は忌々しい封印のせいで魔力の自然回復が封じられている。
だからマホからの供給がない限り、魔力残量はいつもゼロだ。
だがそんなことはどうでもいい。
「俺の眠りの邪魔をして、よもやただで済むと思ってはいるまいな」
「ひっ、ひえええ!」
人影は悲鳴を上げて、脱兎のごとく窓から逃げ去った。
ああなるほど。
窓の鍵が開いていたのか。
まあいちいち鍵などかけていないしな。
賊ごときいくら侵入しようが、この俺の敵ではない。
小物ならここで急いで人影を追いかけるのだろうが、生憎とこの俺は邪悪なる大魔法使いゲドー様だ。
ゲドー様は慌てない。
今の俺がすべきことはただ一つ。
安眠の続きだ。
俺は余裕を持って二度寝した。




