カジノキング VS ゲドー様
町に着いた。
建ち並ぶ建物がどれも豪華絢爛だ。
「この町はカジノの町と呼ばれているのです」
「ほう、賭け事か。500年前にもあったな」
馬車で大通りを移動していると、やたらと金ぴかの建物が多い。
装飾過多で優雅さの欠片もない町だ。
だが確かに景気はよさそうで、あちこちで懐を膨らませた連中が騒いでいる。
反面、今にも死にそうな顔をした負け犬もごろごろしていた。
「ふん、雑魚どもが。弱者は搾取される世の中の縮図だな」
「ゲドー様もやっていくのです?」
「よかろう。この町の富を丸ごと食らってやろう」
マホが「軍資金なのです」と言って金貨を数枚渡してきた。
「マホ、俺は強者だ」
「はいです」
「強者はみみっちくない」
マホの持つ革袋からごっそり金貨を掴み出してポケットに入れる。
「1000倍にして返してやる。貴様も羽を伸ばしてくるがよい。ふはははは!」
手近な建物に入ると、下品な顔をした連中でごった返していた。
ふん、金に目が眩んだ俗物どもが。
俺の相手にもならんな。
「いらっしゃいませ。どちらのゲームをご希望ですか?」
「最強のゲドー様に相応しい稼げるやつだ」
「でしたらポーカーなどいかがでしょうか」
「よかろう」
「ではこちらのカジノキング様と対戦を」
ポーカーが何かは知らんが、所詮はこの俺の敵ではない。
「ふっ、お手柔らかに頼むよ」
テーブルに着くとカジノキングとやら挨拶してきた。
どうやらこいつと一対一の勝負らしい。
運がなかったな。
「いくらお賭けになりますか?」
「強者はみみっちくない」
金貨を10枚ほどドンと重ねる。
周囲から「おおーっ」「いきなりか」と歓声が上がる。
ふん、もっと褒め称えていいぞ。
カードが配られる。
ほう、3が2枚揃っているぞ。
これで勝負だ。
ククク、吠え面をかくがいい。
「カジノキング様のスリーカードーっ!」
「何い!?」
金貨が持っていかれる。
どういうことだ、ふざけるな。
ええいもう一度だ。
またカードが配られる。
何、チェンジで一度だけカードを交換できるだと?
そういうことは早く言え。
ほう。
チェンジしたら4が2枚揃ったぞ。
ははははは、これで勝負だ。
「カジノキング様のストレートーっ!」
「何いいい」
おいふざけるな。
また金貨が持っていかれたぞ。
このゲドー様が2連敗などあり得んことだ。
もう一度だ。
ほう、5と6が2枚ずつ揃ったぞ。
今度こそだ。
ふははははは、泣いて許しを請うても許さんぞ。
「カジノキング様のフルハウスーっ!」
あああああ。
「カジノキング様のフォーカードーっ!」
がああああああああ。
「カジノキング様のストレートフラッシュ―っ!」
ごあああああああああああああ。
金貨が尽きた。
くそがあああああああ。
この俺が。
この俺があああ。
「許さん。許さんぞ貴様ら……!」
「お客様。文無しはお帰りください」
「誰に物を言っているカスが」
俺は帰れとか抜かしたスタッフをぶっ飛ばした。
「お客様困りますねえ」
ガチムキの警備員がわらわらと現れた。
グシャッバキッメキッ。
「またお越しください」
俺はボロキレのようにカジノの外に放り出された。
「ゆ、許さん……。絶対に許さんぞ虫ケラども……」
「何をしてるのです」
ふと顔を上げると、マホが隣にしゃがみ込んでいた。
「ちょうどよかった。魔力をよこせ」
「何をするのです?」
「そこのカジノを消し去ってくれる」
マホが無表情でじーっと見てくる。
「ゲドー様は賢いので言うまでもないのですが」
「何だ」
「ここでカジノを吹き飛ばしたら、ゲドー様は一生負け犬の汚名を背負ってしまうのです」
「何い?」
この俺が負け犬だと?
冗談でも許されんぞ。
「カジノを吹き飛ばせば力では勝利するのです。でもそうすると、ゲームでは負けたままなのです」
「む」
言われてみればその通りだ。
「ゲドー様ほどの大魔法使いなら、たとえゲームであっても勝利で飾るのが当然なのです」
「確かにそうだ」
俺は立ち上がる。
「ゲドー様は何のゲームで負けたのです?」
「ポーカーとやらだ」
「それならルールがわかれば、賢いゲドー様なら間違いなく勝てるのです」
「そうだな。この俺としたことが。よかろう、ルールを教えろ」
マホにカードの役を教わる。
なるほど、俺がさっき揃えたのはワンペアやツーペアだったのか。
とりあえずロイヤルストレートフラッシュが最強なのはわかった。
「ふはははは! ルールを熟知した俺にもはや死角はない」
「ではリベンジなのです」
「無論だ」
「ゲドー様、これを」
金貨の詰まった革袋を丸ごと受け取る。
「全額賭けるのです」
「旅費だが?」
「強者はみみっちくないのです」
「ふはーっはっはっは! その通りだ」
マホの奴、わかっているな。
俺はカジノに再突入した。
「お客様、文無しは」
「これで文句なかろう」
革袋の金貨を見せる。
「失礼いたしました。こちらへ」
またカジノキングのところに案内される。
「ふっ、君も懲りないねえ」
「ククク。その澄ました面が絶望に変わるときが見ものだな」
俺とカジノキングはテーブルを挟んで睨み合う。
「全額だ」
金貨をテーブルに積み上げると、観客が「おおーっ」と歓声を上げた。
まあ愚民どもには大金だろうな。
「ではカードを配るのです」
いつの間にかマホがカジノスタッフの制服を着て、カードを配っている。
あんなミニサイズの制服がよくあったな。
しかしそんなに俺の勝利を間近で見たいとは。
殊勝な心がけだ。
マホの手によって両者に配られるカード。
俺の手札は今のところワンペアだ。
温いな。
ルールを熟知した俺に隙はない。
「3枚交換だ」
完璧だ。
我ながら惚れ惚れするほどの腕前だ。
3枚チェンジ。
ワンペアのままだ。
なっ。
ぐぬぬ……。
ま、まあよかろう。
何と言ってもこの俺がルールを熟知したのだ。
カジノキングの手札など恐るるに足りん。
「ふっ、2枚だ」
カジノキングが髪をかきあげながら告げる。
余裕の仕草だ。
うぜえ。
マホが2枚回収して2枚配る。
「ぬがっ……!?」
カジノキングが硬直する。
馬鹿め、貴様の幸運もここまでだ。
「オープンなのです」
マホが告げる。
はははは、死ねい!
俺はワンペアを公開する。
観客が「おおーっ」と騒ぐ。
うるせえ。
カジノキングが手札を公開する。
ブタ。
「ふはははは! はははははは! はーっはっはっはっは!」
俺は仁王立ちで高笑いした。
山のような金貨がざらざらとこっちに流れてくる。
カジノキングが絶望の表情でテーブルに突っ伏した。
ざまあないな。
このゲドー様を敵に回すということが、どういうことか思い知ったようだな。
「あんたすげえな!」
「一攫千金じゃねえか!」
「今日からお前がカジノキングだ!」
観客が口々に賞賛を投げかけてくる。
「よい。よいぞ。もっと崇め奉れ!」
「キーンーグ!」
「キーンーグ!!」
「キーンーグ!!!」
「はははははは! ふぁーっはっはっはっはっは!」
熱狂の渦の外で、マホが「世話が焼けるのです」と呟いた気がした。




