足手まといはいらん
エルフの難民キャンプに戻った俺たちを長老が出迎えた。
「長老様! ボクたちやったよ!」
「おお、やってくれたか!」
エルルの報告に長老が顔を綻ばせる。
「ダークエルフは倒したのです」
「ふん、この俺にかかれば赤子の手を捻るようなものだったな」
「わりと危なかったいたっ」
エルルの頭を叩いて黙らせる。
「マホ殿、ゲドー殿、よくやってくれました。これで我らもキレーナ森林に戻ることができます」
俺の呼び方がちゃっかり殿付けになってやがる。
もっと崇め奉れ。
「約束通り500年前に私の娘をさらったことについては、不問にいたします。娘の行方は我らのほうで探すことにします」
「見つかるといいのです」
「ええ。なにぶん500年前ですから、もう諦めてはおりますがな」
長老は俺たちに頭を下げた。
「それはそれとして、我らの住処を取り戻してくださったこと、キレーナ森林のエルフ族を代表して改めてお礼を申し上げます」
「取引だったのです。気にしないでほしいのです」
「そうは参りません」
長老はずいっと進み出る。
「マホ殿とゲドー殿は、魔王の居城に向かわれるのですな?」
「はいです」
「よろしければ、このエルルを連れていってやってくれませんかな」
「えっ、ボク?」
突然の提案にエルルは驚いている。
「どうかな?」
「ボクはいいよ! ゲドー様とマホと一緒にいるの楽しい!」
「私も異存はないのです」
マホ、エルル、長老の視線が俺に集中した。
ふん。
俺はエルルを見下ろして告げた。
「いらん。足手まといだ」
「ええっ!?」
断られるとは思っていなかったのだろう。
エルルがまた驚いた顔をした。
「ボク役に立つよ! ていうか役に立ったでしょ?」
「たまたまだ。雑魚は邪魔だ」
「そ、そんなあ」
エルルが物悲しそうな顔をした。
マホはじーっと俺の顔を見つめているが、口は挟まない。
「ゲドー殿。確かにエルルはまだ若輩者ですが、こう見えて……」
「くどい。俺の機嫌が変わらんうちに下がれ」
「……左様ですか」
長老はエルルの肩に手を置く。
「エルルよ。ゲドー殿がこう仰る以上、仕方あるまい」
「うー」
「お主はこれからも、その剣の腕でキレーナ森林を守ってくれ」
「……わかりました」
しょんぼりしながらエルルが頷いた。
「用は済んだ。行くぞ」
「はいです」
俺はローブを大きく翻し、踵を返す。
マホはエルフたちにぺこりと会釈をして、俺に続いた。
「マホ、ゲドー様、生きて帰ってきてねっ! また会おうねーっ」
エルルは寂しそうな表情で、俺たちの姿が見えなくなるまで手を振っていた。
◆ ◆ ◆
「結局、前衛は見つからなかったのです」
「もういらん。所詮は足手まといだ」
俺は馬車の上で、腕を組んでふんぞり返っていた。
マホは例によって御者をしている。
「ゲドー様」
「何だ」
「ダークエルフと戦ったときに思ったのです」
「何をだ」
「エルルはすばしっこいですが、敵の攻撃から身を守る手段がないのです」
「だから?」
馬車はがたがたと進む。
「私たちに着いてくれば、エルルはたぶん死んでしまうのです」
「だろうな」
「ゲドー様はそれをわかって」
「勘違いをするな」
俺は吐き捨てる。
「足手まといは好かん。それだけだ」
「はいです」
俺をいい人にするな。
胸糞悪い。
「勘違いするなよ」
「していないのです」
「本当だろうな」
「はいです」
しかしエルルの容姿はなかなか悪くなかった。
もう少し成長すれば、このゲドー様が侍らせるに相応しい外見になるかもしれんな。
いずれは俺のしもべにしてやってもよかろう。




