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3種類の魔法使い

 大樹があった。

 これが千年樹とも呼ばれる巨木か。


「キレーナ森林の中心にあるエルフ族の聖地なんだよ」

「大きいのです」


 聖地だか何だか知らんが、確かにこの場は魔力が濃密だ。

 その大樹の根本にテントが張ってあった。


 何だあのみすぼらしいテントは。


「おいっ、ダークエルフ! 出てこいー!」


 エルルが大声を出すと、テントからダークエルフの男が現れた。


「何だ……貴様らは……」


 ぼそぼそ声で喋るダークエルフ。

 目が薄暗くぎらぎらと輝いている。


「キレーナ森林を返してもらいにきた!」

「ほお……」


 ダークエルフは俺たちをじろじろと睨めつける。


「生意気にも……援軍を連れて戻ってきたわけだ……」


 ぼそぼそ喋るから聞き取りにくい。

 もっとはっきり喋れ。


「よかろう……。二度と余計な真似ができないように……してやろう……」


 ダークエルフがゆっくりと進み出る。


「この魔王四天王が一人……暗黒のダーケル様がな……」

「うはははははは!」


 思わず大笑いする俺。


「何が可笑しい……」

「魔王四天王! 暗黒のダーケル! ふははははは! 貴様、この俺を笑わせ殺す気か」

「ぷっ、ゲドー様、笑っちゃ悪いよ」

「エルルも笑っているのです」


 ダーケルとやらは怒りでぷるぷる震えている。


「ならばお前たちは……何だと言うのだ……」


 ダーケルの問いに、俺はローブをバサアと翻す。


「聞いて驚くがいい。この俺は邪悪なる大魔法使いゲドー様だ」

「ぷっ、ゲドー様も改めて聞いたら大差ないよ」

「エルル、笑っては悪いのです」

「でもいたっ」


 俺は笑うエルルの頭を殴った。


「ゲドーだと……。その名は、500年以上前の伝説の魔法使いの名だ……」

「その通り」

「本人だと……?」

「そうだ」

「ふっ……」


 ダーケルは唇を歪めた。


「ならば……その伝説の大魔法使いゲドー様の胸を……借りるとしようか……」


 こいつ全く信じていないな。

 まあいい。

 すぐに吠え面をかくことになる。


「マホ」

「はいです」


 マホが俺の手を握る。

 魔力がこれまでになく大量に流れ込んでくる。

 恐らくマホの奴は激戦を予感しているのだろう。


 いい。

 実にいい感覚だ。

 魔法使いにとって魔力とは活力そのものだ。


「では……」

「キロトン」


 ダーケルが何か言いかけたが、待ってやる義理もない。

 俺は魔法をダーケルに叩き込んだ。


 爆発が巻き起こり、ダーケルの姿が土煙に包まれる。


「すごい、やった!?」

「ふん」


 俺は目を細めた。


 土煙が晴れると、傷一つないダーケルが姿を表した。

 やはりか。


「効いていないのです」

「奴め、生意気にも本物の魔法使いだな」

「本物の?」


 マホとエルルがきょとんとする。


「無詠唱で……爆発魔法を扱えるとは……なるほど、口だけではないようだ……。現代の魔法使いにしてはやるな……」


 ダーケルが両手を広げる。


「次はこちらの番だな……」


 その両手にバリバリと黒い波動が収束する。


「ダム・ダム・ジア・ダム・ダム・ユク・リータス……」

「うげえ、あの魔法は!」


 くそが。


「マホ、結界を張れ!」

「はいです」


 マホが詠唱を始める。


「奈落の間隙よりいでし……漆黒の波動を……束ねて盛大に散らせ……」


 マホが俺たちに結界を張った、その瞬間。


「メガトン」


 大爆発が巻き起こった。


「うわああ!」

「ぐはあ!」


 激しく吹き飛ばされる俺たち。


 俺は後ろの木に叩きつけられる。

 小柄なマホはころころと転がっていった。

 エルルもその横を吹き飛んでいった。


 一瞬前まで俺たちがいた場所には、小規模のクレーターができていた。


「あのダークエルフ、メガトンを使ってきたのです」

「メガトンは開発者が俺というだけで、きちんと詠唱さえすれば俺以外にも使える」


 つまり今のがメガトンの正規の詠唱というわけだ。


「す、すごい威力だよ。マホの結界がなかったら死んでたかも」


 エルルが咳き込みながら言った。

 背中でも打ったのだろう。


「ふふふ……。いい結界使いがいるようだな……」


 ダーケルが余裕の足取りで近づいてくる。


「ゲドー様。さっき言った本物の魔法使いとは何です?」

「ふん。貴様は知らんだろうが、魔法使いには3種類いる」


 1種類目は、このゲドー様のことだ。

 唯一無二の存在である最強の大魔法使いゲドー様に比べれば、他の2種などいずれも雑魚に過ぎない。


 だがその雑魚にも一応2種類いる。


 まずマホのような現代の魔法使いだ。

 衰退した魔法技術を継ぎ接ぎして、かろうじて魔法を扱っているような哀れな連中だ。

 一山いくらの取るに足らないゴミどもといっていい。


 最後の1種類は、500年前に存在したような、衰退する前の魔法使いだ。

 こいつらは現代の魔法使いと違って、いつもほぼ無意識に、身体の周囲に強力な魔法障壁を展開できる。


 俺が最初に放ったキロトンがダーケルに効かなかったのも、奴が魔法障壁を展開できるレベルの魔法使いだったからだ。


「なるほどな。ダークエルフもエルフと同じく長寿だ。貴様が魔法技術が衰退する前の、本物の魔法使いの生き残りであったとしても不思議じゃあない」

「その通り……。現代の貧弱な魔法では……このダーケル様には傷一つつけられない……」


 俺の説明を聞いて、マホが首を傾げた。


「ではゲドー様も、いつも無意識に魔法障壁を展開しているのです?」

「無論だと言いたいところだが、くそ忌々しい封印のせいで今の俺には展開できん」


 仮に俺が500年前の本領を発揮していたら、さっきのメガトンなどそよ風ほどにも感じなかっただろう。


「やああーっ!」


 不意にエルルが、横合いから飛び出してダーケルに斬りかかった。

 いつの間にか回り込んでいたのだ。


「ルシーダ」


 しかしダーケルが張った魔法の盾に防がれる。


「くっ! たあっ!」


 エルルは何度も斬りかかるが、その全てはダーケルに届かない。


「キロトン」

「うわあーっ!」


 小規模の爆発をもろに受けて吹き飛ぶエルル。


「ゲドー様のメガトンでも、ダーケルの魔法障壁は突破できないのです?」

「できるだろうが、威力をかなり減退されるはずだ。大して効かんだろう」


 くそが!

 ダーケルが本物の魔法使いだろうが、全盛期の俺からすれば小物もいいところだ。

 あんな雑魚にいいようにやられるなど、あってはならんことだ。


「ふふふ……来ないのなら……こちらから行くぞ……」


 ダーケルはぼそぼそと詠唱する。


 ちっ。

 このゲドー様ともあろう者が、魔王四天王とかほざく恥ずかしい奴に苦戦を強いられるとは。


「キリエラー」


 氷の槍が雨のように大量に降り注ぐ。

 俺とマホは木の裏に隠れてやり過ごすが、文字通り手も足も出ない。


「ゲドー様」

「何だ」

「その魔法障壁がなければいいのです?」

「無論だ」


 魔法障壁がなければ、あの程度の小物など一撃で消し飛ばしてくれる。


「わかったのです。奴隷商にさらわれたときの失態を、ここで挽回するのです」


 マホが頷く。

 何か考えがあるようだ。


 いいだろう。

 どうするのか知らんが、貴様の考えに乗ってやる。

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