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ボクっ娘エルル

「エルル」

「はいっ」


 長老の声に、元気そうなエルフが出てきた。


 小柄だ。


 とはいえ背丈も胸もマホよりはある。

 マホがなさすぎるのか。


「マホ殿とゲドーを、ダークエルフのいる場所まで案内して差し上げなさい」

「わかりました!」


 エルルと呼ばれたエルフは、ぴょこんと俺たちの前に来た。


「ボクはエルル。よろしくね!」

「マホなのです」

「マホとゲドーだねっ」

「ゲドー様と呼べ」


 俺たちのやり取りを見て長老がうんうんと頷いている。


「エルルはまだ若いですが、こう見えて剣や弓の腕前はなかなかのものでしてな」

「邪魔だ。足手まといだ」

「そう言わず、道案内として使ってやってくだされ」

「ちっ」


 まあエルフだけあって見目麗しい。

 快活そうで、なおかつ愛らしいというなかなか容姿に恵まれた顔立ちをしている。


「まあいい。さっさと行くぞ」

「はいなのです」

「うんっ、ゲドー様!」


 俺たちはキレーナ森林に向かった。



◆ ◆ ◆



 森は昼間なのに薄暗かった。

 いや、木々が生い茂っているから薄暗いのは当然だが、雰囲気がおどろおどろしかった。


「500年前とは印象が違うな」

「そうなんだよー。ダークエルフがこの森を支配してから、なんかどろどろした雰囲気になっちゃって」


 エルルはエルフだけあって、木の根にも足を取られることなくすいすい進んでいく。

 森の中など庭同然ということだ。


「そのダークエルフは何者なのです?」

「うーん。わかんないんだけど、ちょー強い」

「ちょー強いのです?」

「うん。なんかすごい魔法を使ってきて、ズドーンドカーンって」


 何がズドーンドカーンだ。

 このボクっ娘はどうやらオツムの出来はよくないらしい。


「ボクも応戦したんだけど、ボクって魔法は苦手で」

「知るか」


 エルルが倒木をひょいっと乗り越えていく。

 マホがその後を、んしょんしょと乗り越えていく。


「それにダークエルフが来てから、なんか魔物が出るようになっちゃって」

「魔物です?」

「うん。えっと、例えば」


 どしんと地響きがした。


「ウガアアア!!」


 2匹のオーガーが突如現れた。


「うわああ! えっとえっと、オーガーとか!」

「遅いわ!」


 オーガーは岩のように頑丈な肌を持つ巨人の一種だ。

 3メートル以上あってでかい。


「どうするのです?」

「叩きのめすに決まっているだろうが」


 この俺の行く手を塞ぐ奴は、何者であろうと後悔させてやることに決まっている。


「じゃあじゃあ、一匹はボクがやるよ!」


 エルルは腰から剣を抜いて、一匹のオーガーに飛びかかっていった。


「ほう」


 軽快な動きだ。

 右に左に撹乱してオーガーに的を絞らせない。


 オーガーの丸太のような腕は空を切り、エルルはその腕を踏み台にして飛び上がる。


「やああーっ!」


 エルルはオーガーの頭や肩や腕に、素早く剣戟を加える。

 あいつなかなかやるじゃないか。


「ウガアアア!」


 もう一匹のオーガーがでかい図体で迫ってきた。

 ククク、俺のほうに向かってくるとは命知らずな奴め。


「マホ、下がっていろ」

「はいです」

「ははははは! 運がなかったなデカブぎゃ」


 オーガーの右ストレートが直撃して俺は吹っ飛んだ。


「ぐぬ……。貴様あ。このゲドー様に手を挙げるとは、万死ぶべらっはべらっ!」


 フックアッパーストレート。

 豪腕から繰り出される華麗なコンビネーションを食らって俺は沈んだ。


「何をしてるのです」


 マホが俺を守るように立ちはだかった。


「ウガアアア!」


 オーガーが豪腕から右ストレートを繰り出す。


 マホは唸りを上げるその拳を、杖で受け流した。

 杖はそのまま弧を描いて。


 ゴッ!!


 杖の先端が、肘のびりびりするところを打ち据えた。


「ウガアアア! ウガアアア!」


 悶絶するオーガー。


「マホ! ちょーすごい!」


 あっちのオーガーを倒したエルルが、援護に来た。

 見るとあっちのオーガーは喉を切り裂かれて倒れている。

 皮膚の薄いところを上手く攻撃したのだろう。


「マホ!」

「はいです」


 マホがオーガーの拳を掻い潜り、距離を詰めた。

 マホは杖の先端を、オーガーの足の小指に叩きつけた。


「ウッガアアアーーー!」


 涙目になるオーガー。


「ふっ!」


 その隙を逃さず、エルルが裂帛の気合とともに剣を振るう。

 剣は見事にオーガーの喉を切り裂いた。

 倒れるオーガー。


「マホ、やったね!」

「やったのです」


 エルルが嬉しそうに、マホが無表情で、互いの手のひらをぱちんと打ち合わせる。


「ゲドー様、終わったよー!」


 俺は立ち上がる。


「者共、大義であった」

「えへへ。褒められちゃった」

「よかったのです」


 エルルは照れている。


「ゲドー様って、ほんとにあの伝説の大魔法使いゲドー様なの?」

「たわけボクっ娘。見てわからんのか」

「うん、わかんない。あとボクはエルルだよ!」


 くそが。


「あっ、でももうすぐダークエルフの住処だよ」

「よし、さっさと案内しろ」

「するする!」


 しかしエルルの奴、思ったよりは使えるな。

 悪くない動きだ。


 まあダークエルフを倒すまでは、同行を許可してやるとしよう。

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