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倉庫爆発事件

 石造りの大きな建物に着いた。

 ここが奴隷倉庫らしい。


 入り口は1つで見張りのゴロツキが2人いる。

 まあ何人いようが大した問題ではない。


 俺は正面から堂々と近づいていく。


「おいっ、誰だ?」

「こんなところで何ぎゃぶ」


 俺は見張りの2人を殴り倒した。

 雑魚が。


 倉庫に入る。

 ちょうど牢屋と似たような構造になっている。


 いるわいるわ。

 さらわれてきたと思しき奴隷どもがずらずらと。


 どいつもこいつも俺を見ている。

 そりゃあそうだ。

 漆黒のローブを纏っているこの俺は、どう見ても奴隷商じゃないからな。


 俺はゆっくりと歩きながら牢内を探す。

 急ぐ必要はない。

 邪悪なる大魔法使いゲドー様は急がない。


 奥のほうにマホがいた。

 牢の隅っこで膝を抱えてしょんぼりしている。


「おい」


 マホが顔を上げた。

 びっくりしたような表情で、目をぱちぱちさせている。


「ゲドー様」

「無能が。この俺の手を煩わせおって」

「面目ないのです」

「どうやってさらわれた」

「露天で買った食べ物に、眠り薬が入っていたのです」


 軟弱者が。

 眠り薬ごときで寝るとは、全くなっとらん。


「さっさと出るぞ」

「牢屋の鍵がないのです」

「鍵などいらん」


 と言ったところで、入り口からぞろぞろと十数人のゴロツキどもが走ってきた。

 見覚えのある奴隷商もいる。

 俺に道を教えた奴だ。


「貴様っ、何をしている!」

「奴隷を逃しにきたのか!」

「ふてえ野郎だ!」


 俺は奴隷商とゴロツキどもの正面で仁王立ちになる。


「ククク……。よく聞けゴミクズども」

「何っ!」

「奴隷など好きなだけさらえ。好きなだけ売れ。俺の知ったことじゃあない」

「なら」

「だがなあ。この大魔法使いゲドー様の手を煩わせ、あまつさえこの俺を! さらおうとしたことは到底許されることではない」


 俺の迫力に奴隷商がたじたじとしている。


「マホ」

「はいです」


 マホが格子の隙間から手を差し出して、俺の手を握る。

 魔力が急速に流れ込んでくる。


 よし。

 よしよし。


 これまでいくら稼いだか知らんが、年貢の納め時だゴミども。


「ええい、やっちまえ!」


 ゴロツキどもが大挙して押し寄せてくるがもう遅い。


「ふはははは死ねい!」


 俺は手を突き出す。


「メガトン――」


 倉庫が丸ごと爆発した。



◆ ◆ ◆



 瓦礫の山と化した倉庫の中心に、俺が立っている。

 隣には若干黒焦げになったマホ。


「ははははは! 思い知ったか塵芥ども!」

「もうちょっと加減してほしいのです」

「知ったことか」


 マホが俺のローブの裾を、ちょこっと摘んだ。


「でも、ありがとうなのです」

「ふん」


 周囲の瓦礫から、次々と人影が姿を現す。

 どいつもボロ布を纏っている。

 捕まっていた奴隷どもだろう。


 こいつら吹き飛んでなかったのか。


「結界がぎりぎり間に合ったのです」


 あの短時間で結界を張ったのか。

 器用な奴だ。


 奴隷商とゴロツキどもはいない。

 消し飛んだか、それとも空の彼方まで吹き飛んだか。

 いずれにしてもざまあないな。


「もう自由なのです。好きな場所に帰るのです」


 マホの言葉に、奴隷どもはそれぞれ歓声を上げた。


「あの……」


 ボロ少女が近づいてきた。

 見覚えがある。


 確かシーリィとか名乗った奴隷だ。


「あのときは、なんてひどい人かって思いましたけど……」


 俺の視線にびくびくしながらもシーリィは続ける。


「で、でも助けにきてくれてありがとうございました……」

「勘違いするな。貴様のためではない」

「あ、あの、せめてお名前を」


 シーリィや他の奴隷が俺たちを見る。


「ゲドー様とマホです。マンマール王国の魔法使いなのです」

「マンマールの……」


 なるほど。

 これでまたマンマールは評判を稼いだわけか。

 マホの奴、ちゃっかりしてやがる。


「あ、ありがとうございました」

「ありがとう、これで家に帰れるよ!」

「ありがとうな!」


 口々に礼を言われる。


「くだらん」


 虫酸が走る。


「ゲドー様、宿に戻るのです」

「ふん。マホ、貴様の無能さについては後でしっかり償わせてやるぞ」

「返す言葉もないのです」


 シーリィを見ると、涙を浮かべて喜んでいる。

 他の奴隷どもも似たような感じだ。


 いらん感謝をしやがって。

 全くくだらん。


 俺は大きくローブを翻して立ち去った。

 マホが俺の後に続いた。

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