奴隷市がある町
活気のある町に到着する。
通りを歩くと、大きなテントのような幌の下で地べたに商品を並べている形態の店が多い。
「この町は奴隷市が盛んなのです」
「ほう、奴隷か」
奴隷はいい。
従順で逆らわない点が使い捨ての駒として便利なのだ。
「奴隷の女の子を買うのです?」
「何でだ」
性奴隷のことを言っているのだろうが、俺にそんなものは必要ない。
わかっている女は向こうから俺のほうにやってくるからな。
「提案があるのです」
「言ってみろ」
「奴隷を買うのもありだと思うのです」
「お前がか?」
意外だな。
マホこそ奴隷になんぞ興味がない奴だと思っていた。
「旅をしていて思ったのです」
「ほう」
「私たちには前衛が足りないのです」
前衛。
前衛か。
俺は邪悪なる大魔法使いだ。
マホも俺と比較すれば小物だが魔法使いだ。
なるほど。
「例えば以前、野盗に襲われたときのことですが、前衛がいればゲドー様の手を煩わせることもなかったのです」
「確かにそうだな」
野盗どもは俺が全員殴り倒したが、手間であったことは間違いない。
本来、あんな有象無象どもにこのゲドー様が自ら手を下す必要はないのだ。
「いいだろう。許可する」
「ありがとうなのです」
マホが露店を眺める。
奴隷市が盛んというだけあり、あちこちで堂々と人間が売られている。
大半は痩せていて小汚くて使い物になりそうにない奴隷だ。
たまに救いを求めるようにこっちに視線を向けてくる奴もいるが、こいつらのような粗悪品はいらん。
「では健康そうで逞しい男奴隷を」
「女だ」
「え?」
「女奴隷にしろ」
健康で逞しい男奴隷は高いから――という理由では、もちろんない。
むさい男と一緒に旅などできるか。
連れて歩くなら見目麗しい女に限る。
そういう意味では、小さいが容姿のいいマホは合格点だ。
「では健康そうで逞しい女奴隷を」
「お前は何もわかっていない」
「え?」
「美しい系でも可愛い系でも構わんから、見目麗しい女奴隷だ。それ以外は許さん」
マホが理解しがたいという目で俺を見てくる。
俺の好みを理解していないとは、困った奴だ。
「いいか。買った奴隷はこのゲドー様が連れて歩くことになる」
「その通りなのです」
「つまりこの俺の装飾品というわけだ」
「いえ、奴隷と装飾品は別物……」
「似たようなものだ」
マホの反論を一蹴する。
「装飾品とあらば美しくなければいかん。そうでなければ邪悪なる大魔法使いゲドー様の美的センスが疑われることになる」
この俺が武骨な棍棒を背負っていたらどうだ?
似合わんだろう。
背負うなら闇の魔剣とかそういう系に限る。
「では美しい系か可愛い系で健康で戦える女奴隷を探してくるのです」
「そうしろ。日没までには宿に来い」
マホが「難易度の高い注文なのです」と呟きながら、俺から離れていった。
さて俺はどうするか。
奴隷市自体は500年前にもあった。
一通り見ていってやるか。
そう思って細い路地を通りかかると、路地裏から少女が飛び出してきた。
少女というかまだガキだ。
そして俺の足にぶつかった。
「あ、ご、ごめんなさい……」
俺は少女を見下ろす。
ボロを纏っている。
身体も薄汚れている。
奴隷だな。
「おいっ、ようやく見つけたぞ!」
「手間をかけさせやがって!」
3人のゴロツキ風の男が、同じ路地裏から飛び出してきた。
「ひっ」
ボロ少女は俺の足に、隠れるようにしがみついた。
「いやあ、すいません旦那。お手を煩わせちまって」
「そいつうちの奴隷なんですわ。逃げ出しやがって」
「引き渡してもらえませんかね」
ゴロツキどもは意外と腰が低かった。
きちんと教育されているのだろう。
俺はボロ少女を見下ろす。
ボロ少女は震えながら、助けを求めるように俺を見上げている。
「お前、名前は?」
「……え?」
「名前だ。二度言わせるな」
「し、シーリィです……」
ボロ少女が慌てて答えた。
「そうか。いい名前だな」
俺が褒めてやると、シーリィは驚いたような顔をした。
あまり人に褒められた経験がないのだろう。
うむ。
うむうむ。
俺はシーリィを、ゴロツキどものほうに蹴り飛ばした。
「きゃあっ!」
シーリィは地面を転がって、ゴロツキどもに捕まった。
「商品はきちんと管理しておくんだな」
「へっへっへっ、すいませんねえ旦那」
「助かりましたわ」
シーリィが絶望の目で俺を見つめるが、どうでもいい。
やれやれ、無駄な時間を過ごしたな。
「おいっ、さっさと来るんだ」
「手間をかけさせやがって」
「い、いやあ……。助けて……!」
全くやかましい商品だな。
俺はシーリィとゴロツキどもに背を向けて、宿に向かった。




