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メッチャバクバク選手 VS ゲドー様

 ヒシガッタ国の国境を超えて、別の国に入った。

 賑やかな町に到着する。


 マホが馬をゆっくりと操って、大通りを馬車で進む。

 なるほど、なかなか賑わっているな。

 商店街にも人が多いし、珍しそうな商品も目に留まる。


 預かり所に馬車を預ける。


「私は食料品や日用品を調達してくるのです」

「なら俺はそのへんを見て回る」

「はいです」


 マホと別れて商店街を歩く。

 思えばゆっくりと町を歩き回るのは500年ぶりだ。


 やはり町並みは500年前とそう変わらない。

 魔王との大戦で文明が一度後退したというのはどうやら本当のようだ。


 客寄せの声があちこちから響くが、食指を動かされるようなものはない。

 まあ500年前の俺は、ほしいものはさっさと奪っていたからな。


 そういえば腹が減った。

 そこで思い出したが、俺は金を持っていない。

 マホが全額預かっている。


 だが大した問題ではない。

 ほしければ力で奪えばいいのだ。


 俺は露店を物色する。

 がっつりと腹に溜まるものがいい。


「ん?」


 商店街の一角に人混みができていた。


「さあさあ、もうチャンピオンに挑戦する奴はいないか!?」


 チャンピオンだと?


「誰かいないか? 大食いチャンピオンのメッチャバクバク選手に勝てば、賞金も出るぞ!」


 大きなテーブルが置いてあり、巨漢の男が偉そうにふんぞり返っていた。

 あれがメッチャバクバク選手とやらか。

 いかにも食いそうだ。


「さあさあ! 参加費無料! 誰でも挑戦自由だぞ!」


 ほう。

 無料で大食いか。


 今の俺におあつらえ向きだな。

 ちょうどいい。


 俺は人混みをかき分けて進み出る。


「おい、挑戦してやる」

「さあーっ! 勇気ある参加者が登場だーっ!」


 メッチャバクバク選手が俺を見て鼻で笑った。


 ふ、わかるぞ。

 別に巨漢でも何でもないこの俺を見て、無謀な挑戦だと思ったのだろう。


 さもありなん。

 その小さな脳味噌と貧相な発想では、今から自分が無様に敗北を晒すことなど想像もできまい。


「さあ、勇気ある参加者の名前を教えてくれ!」

「邪悪なる大魔法使いゲドー様だ」

「さあーっ! 邪悪なる大魔法使いゲドー様だーっ! チャンピオンの隣に座ってくれーっ!」


 実況の奴テンション高すぎだろ。


 俺は腕を組んで腰を下ろす。

 なるほど、並ぶとわかるがメッチャバクバク選手はでかい。

 こいつは面白そうだ。


「お品書きは激辛ミノ牛カレー特盛りだーっ!」


 馬鹿でかい皿に、山のように盛られたカレーが運ばれてきた。


 ほう。

 カレーは500年前にもあった。

 腹が減ってるときにちょうどいい食べ物だ。


 しかしミノ牛とは何だ。

 ミノタウロスの肉でも入っているのか。


「相手が悪かったな。己の不運を悔やむがいい」


 俺の発言にメッチャバクバク選手が笑う。

 貴様の命運も今日で終わりだ。


「大食いはじめーっ!」


 俺は馬鹿でかいスプーンでミノ牛カレーをすくって食う。


 ん?

 ほう。

 確かに辛いが、それはそれとして味は悪くないな。

 なかなか美味いカレーだ。


 食う。

 美味い。

 食う。

 美味い。


 なるほど、このカレーならいっぱしの飲食店としてやっていけるだろう。

 ふと横を見た俺は、驚愕した。


 バクバクバクバクバクバクバクバク。


 メッチャバクバク選手がまるでスープのようにカレーをかき込んでいた。


 いや、スープどころじゃあない。

 人間にはあり得ないほどの勢いで、口にカレーを放り込んでいる。

 すぐに大皿が空っぽになった。


 メッチャバクバク選手の前にお代わりが運ばれてくる。

 これも凄まじい勢いで平らげていく。


 俺も食う速度はかなり早い。

 美味いしな。


 しかしメッチャバクバク選手はそんなレベルじゃない。

 こいつ本当に人間か?


 この勢いで無尽蔵に食われたら、そりゃあ誰だって勝てるはずもない。

 大食漢の俺ですら怪しい。


 だが何かがおかしい。

 こいつ本当にちゃんと食ってるのか?


「……」


 魔力の気配を感じる。

 こんな場にはいかにも不釣り合いな感覚だ。


 俺は周りを見回す。

 人混みの中にローブ姿の男がいた。


 俺はひと目見てすぐにわかった。

 奴め、メッチャバクバク選手に向かって魔法を使っている。

 なるほど、グルか。


 俺は改めてメッチャバクバク選手を見る。

 特に口元に注目する。


「……なるほどな」


 俺は口元を歪めた。


 こいつらよく考えている。

 悪くないアイデアだ。


 別にイカサマを咎める気はない。

 悪事結構、大いにやれ。


 単にこいつらにとって不運だったのは、対戦相手がこのゲドー様だったことだ。


「何してるのです?」


 気づいたらマホが隣にちょこんと座っていた。

 買い出しが終わったのだろう。

 ちょうどいい。


「マホ、奴らのイカサマを粉砕してやる。少しだけ魔力をよこせ」

「はいです」


 俺の言葉だけで事情を察したのか、マホは俺の手を握って魔力を送り込んでくる。

 少量だが充分だ。


「それからマホ。奴だ」

「あのローブの男です?」

「共犯者だ。殴り倒してこい」

「わかったのです」


 マホが人混みに消えた。

 程なくして、ローブの男が唐突に地面に倒れた。

 気絶したようだ。


 マホは小柄だからこういうときに目立たないので便利だ。


 横を見るとメッチャバクバク選手が、山盛りのカレーを丸ごと口に放り込んでいるところだった。

 魔法の恩恵が消えたことに気づいてすらいない。


 ククク。

 思い知れデブが。


「……」


 俺は巨大化の魔法を唱えた。

 対象は、今まさにメッチャバクバク選手の口内に流し込まれているカレーだ。


「んがーーーっ!」


 口内のカレーのボリュームが倍増して、メッチャバクバク選手が叫んだ。


 クククク、ははははは!

 ざまあないな!


 俺は余裕の仕草でカレーを食べ続ける。

 メッチャバクバク選手は大量のカレーの具を喉に詰まらせて、泡を吹いて倒れた。


「おーっとお! ここでメッチャバクバク選手、リタイア―っ! 邪悪なる大魔法使いゲドー様の勝利だ―っ!」

「ははははは! はーっはっはっは!」


 俺はふんぞり返って高笑いした。

 実に愉快だ。

 この俺を相手にしたことが貴様らの不運だったな。


「おめでとうなのです」

「当然の結果だ」

「どんなイカサマだったのです?」

「俺が食らわせてやったのと逆のことをしていただけだ」


 そう。

 ローブの男が、メッチャバクバク選手の口に入ったカレーに縮小化の魔法をかけていただけだ。

 そりゃああのでかい身体と相まって、向かうところ敵なしだったに違いない。


「邪悪なる大魔法使いのチャンピオン、ゲドー様に大いなる拍手をーーっ!」

「おい、さっさと賞金とやらをよこせ」


 俺は賞金の金貨と、ミノ牛カレー一ヶ月分をもらった。


「はした金だな」

「食費が浮いたのです」


 マホはほくほく顔だった。


「チャンピオン! ミノ牛カレーはいかがでしたかーっ!?」

「あん? 悪くなかったぞ。褒めてつかわす」

「新たに誕生した伝説のチャンピオンのお墨付きカレーを、皆様もぜひお求めくださいーっ!」


 実況の奴は商魂逞しくカレーを宣伝していた。

 まああれなら売れるだろう。


 この時代の町も、なかなか面白いじゃないか。

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