オッヒー姫
俺たちはまだヒシガッタ国にいた。
城が吹っ飛んだ王都ではない。
こんな国に用はないので国外に向かっているのだ。
だから今いるのは国境に近い町だ。
「荷馬車が多いのです」
「しかもどいつも国外に向かっているな」
「みんなさっさと脱出したいのです」
そりゃあそうだ。
城がなくなって王族が消えたんだから、ヒシガッタ国の統治機能は崩壊している。
すでに周辺国がヒシガッタ国に向かって兵を挙げているらしい。
椅子が空っぽになったこの国を併合したいわけだ。
「でもたぶん戦争にはならないのです」
「さっさと占領されて終わりだな」
俺たちはと言えば、馬車でゆっくり移動している。
向かう先は国外だから、脱出を目指す有象無象度ともと同じだ。
とはいえ雑魚どもと同じように慌ただしく移動する気はない。
それは弱者の行動だ。
強者というのは腰を据えて胸を張り、じっくり行動するものだ。
「おい、マホ。じき日が暮れるぞ」
「宿を取るのです?」
「ああ、あそこがいい」
一際でかい宿屋を指さす。
このゲドー様が宿泊してやるには物足りないが、まあよかろう。
俺は寛大なのだ。
預り所に馬車を置いて宿に入る。
「いらっしゃいませ」
宿の主人が出迎える。
客は誰もいない。
どいつもこいつも逃げ出したらしい。
まあ軟弱者どもがいないのは都合がいい。
「2名様で?」
「俺は個室だ」
「個室を2つお願いするのです」
「かしこまりました。お名前を」
「マホなのです」
「邪悪なる大魔法使いゲドー様だ」
宿帳にマホとゲドーと記帳される。
俺は二重線でそれを消して、邪悪なる大魔法使いゲドー様と書き直した。
「ゲドー……?」
女の声が聞こえた。
見回すと、宿の端っこにフードを被った女がいた。
何だ、客がいたのか。
「あなた今、邪悪なる大魔法使いゲドーとか名乗りましたわね?」
「たわけ、ゲドー様だ」
「どちらでもいいですわ!」
女がフードを下ろす。
見事な金髪縦ロールの女だ。
綺麗な、しかし気が強そうな顔立ちをしている。
「ゲドー様、知り合いなのです?」
「知らん」
縦ロール女は俺を睨みつけて、わなわなと震えている。
怒り心頭といった様子だ。
「あなたにはなくても、ワタクシはあなたを知っていますわ……」
縦ロール女が腰の剣に手をかける。
「ゲドー様、何をしたのです?」
「知らん」
「黙らっしゃい!」
縦ロール女が指を突き付けてくる。
この俺を前にして何たる不遜だ。
「一つだけ質問しますわ。ヒシガッタ城を消し飛ばしたのはあなたですわね……?」
「ほう、よく知っているな」
誰も知らんはずだ。
まあ知られていたところで別に構わんが。
「城で大臣とあなたが会話していたところを聞いて、あなたの名前に聞き覚えがあったのですわ」
「あなたは誰なのです?」
マホの質問に、縦ロール女はマホをきっと睨みつける。
「よいでしょう。名乗って差し上げます」
縦ロール女は胸を張った。
ふむ。
俺は無遠慮にプロポーションを観察する。
胸の大きさはそれなりといったところか。
王族だけあって均整のとれた身体つきをしている。
「ワタクシはオッヒー・メッサー・マ・ヒシガッタ。ヒシガッタ国の王女ですわ」
「ほう」
オッヒー姫か。
王族が生き残っていたのか。
「あなた方が地下牢に連行されたのと同じ頃、ちょうど外出する用事があって生き延びたのですわ」
「それはよかったな。幸運に感謝しながら余生を過ごせ」
「ふざけないでくださいまし」
オッヒーは腰から豪華な剣を抜いて、俺に突き付けた。
「お父様やお母様たちの恨みですわ。覚悟なさいまし!」




