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なぜゲドー様が迂回せねばならんのだ

 御者をしているマホが口を開いた。


「もうしばらく進むとヒシガッタ国なのです」

「だから何だ」

「迂回するのです」

「何だと?」


 迂回?

 俺たちがわざわざ避けて通るということか?

 ふざけるな。


「直進しろ」

「いえ、ヒシガッタ国は」

「このゲドー様がわざわざ避けてやる道理がない」

「でも」

「どうしてもと言うのなら、国のほうがこの俺を避けろ」

「……わかったのです」


 マホが口を噤む。

 そうだ、それでいい。

 この邪悪なる大魔法使いゲドー様が、相手がたとえ国だろうと避けて通るなどあり得んのだ。


 関所と思しき門に着いた。


「止まれ!」


 兵士の声にマホが馬車を止める。


「何者だ」

「旅の者なのです」

「旅か。……んん?」


 兵士の一人がマホの顔を凝視する。

 何だ?


「おいっ、こいつマンマール王国の宮廷魔法使いじゃないか?」

「何だとっ」

「本当だ、宮廷魔法使いマホ・ツカーリエだっ!」


 兵士どもが色めき立つ。


「ほう、マホ。お前有名人じゃないか」

「ヒシガッタ国はマンマール王国の敵国なのです」

「何い?」

「敵国なので、国の魔法使いで一番偉い私は、顔が割れているのです」

「つまり?」

「たぶん拘束されるのです」


 マホの言葉通り、兵士どもが槍を突き出して囲んできた。


「馬車から降りろっ!」

「貴様らを城まで連行する!」

「抵抗するなっ!」


 馬鹿め。

 雑兵どもが。

 この場にゲドー様がいたことが運の尽きだ。


「おいマホ、魔力をよこ――何でもう捕まってんだドアホ!」


 両腕を兵士に抱えられて、地面に足がつかないマホは空中で揺れていた。


「おいっ、怪しい奴め。貴様も大人しくしろ」

「ふざけるなカスが」


 俺は兵士を殴り倒す。


「おのれっ、抵抗する気か!」

「やっちまえっ」

「ははははは! 雑魚どもに負けああああああ!」


 俺はフルボッコにされた。


 無抵抗のマホとボロ雑巾にされた俺は、城まで連行された。



◆ ◆ ◆



 王城のやたら広い会議室のような場所。

 大臣らしきデブが俺たちを尋問していた。


 壁には一面に兵士が並んでいる。


「我らが国へ何をしに来た。スパイか? スパイじゃな?」

「通りたいだけなので、通行許可がほしいのです」

「通行許可じゃと? どこへ行こうというのじゃ」

「魔王を倒しに行くのです」

「何じゃと?」


 大臣は一瞬きょとんとして、それから盛大に笑い出した。


「がっはっはっは! そんな子供でも騙されん嘘を吐くとは、マンマール王国の宮廷魔法使いも頭の程度が知れるわい」

「本当なのです」

「かつて大陸全土を追い詰めた魔王じゃぞ? 貴様一人でどうしようと言うのじゃ」

「一人ではないのです」


 マホの言葉に、デブ大臣がじろりと俺を睨めつける。

 俺は腕を組んでふんぞり返っている。


「こいつは何者じゃ?」

「伝説の邪悪なる大魔法使いゲドー様なのです」

「何じゃと?」


 大臣はまたきょとんとして、さっきより盛大に笑い出した。

 周りの兵士も同調して笑う。


「がははははは! 失敬、どうやら宮廷魔法使い殿はジョークを解するお方のようじゃなあ」

「ジョークではないのです」

「がーっはっはっはっは! 身長に比例して、脳みその発育まで遅れているようじゃな。何と哀れなことじゃ」


 大臣が大笑いする。

 周りの兵士も大笑いする。


 マホは無表情だ。


「おいデブ」

「何じゃ貴様。無礼じゃぞ!」


 俺は大臣の眼前に立って見下ろした。


「こいつは確かに背は小さいし俺よりは馬鹿だし俺よりは雑魚だし俺よりは役立たずだしこの俺様をこき使う腹の立つ奴だ」

「何を言って……」

「だがこいつは俺のものだ。つまり、こいつを笑っていいのは俺だけだ」


 俺はデブ大臣の顔面に拳を叩き込んだ。


「ぶげえ!」


 大臣は鼻が潰れて床にひっくり返った。


「あっ、大臣!」

「お怪我を!」


 騒ぎ出す兵士ども。


「え、ええいっ! 奴をひっ捕らえろ! こいつらを地下牢に連行せいっ!」

「はっ!」

「ゴミどもが。死にたい奴からかかって来ることだ」


 俺は腕を広げてバサアアとローブを翻した。


 殴られた。


「ぐべっ!?」

「生意気な奴め。やっちまえ!」

「ああああああああ!」


 俺はボッコボコにされた。


 俺たちは地下牢に連行された。

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