やっぞオラァ!
馬車は街道を進む。
「ゲドー様。いい天気なのです」
「俺は夜が好きだ」
「暗いほうがいいのです?」
「邪悪な大魔法使いというものはそういうものだ」
俺は馬車の縁に肘をついて、太陽を仰ぐ。
晴れていて鬱陶しい。
「ゲドー様」
「何だ」
「根暗なのです?」
「殺すぞ」
唐突に馬車の進路を塞ぐように、十数人の男どもがばらばらと現れた。
滲み出る雑魚臭。
どう見ても野盗だ。
「オラァ、手前ら! 有り金全部置いていきな」
「大人しくすりゃ命だけは助けてやるぜ」
十数人揃って「へっへっへっ」と合唱する。
うぜえ。
俺は馬車を降りる。
このゲドー様の邪魔をするとはいい度胸だ。
「マホ、魔力をよこせ」
「はいです」
マホが棍棒を手渡してきた。
「何だこれは」
「ゴブリンが使っていた棍棒を拾ってきたのです」
「そうじゃない」
「それで倒してくださいなのです」
棍棒で?
このゲドー様が、優雅さの欠片もない野蛮人御用達の棍棒で?
「ふざけるな」
「大魔法使いゲドー様ともあろうお方が、大魔法を振るうまでもない相手なのです」
「む」
なるほど。
言われてみればこんな雑魚ども、俺の魔法をくれてやるにはもったいない。
棍棒はちと不満だが、まあ雑魚どもには似合いの武器か。
「何のんびりと喋ってやがんだオラァ!」
「やっぞコラァァ!」
野盗が錆びた剣を振り回して襲い掛かってきた。
俺はその野盗の顔面を、こん棒でぶん殴った。
野盗は鼻血を吹きながら倒れてぴくぴくと痙攣した。
「アアァ!? オラァァ!」
「やっぞコラァァァ!」
野盗がわらわらと襲い掛かってくる。
俺は棍棒を振り回して、次々とそいつらを殴り倒す。
たまに野盗の剣が俺の肩や腕を切るが、大した問題ではない。
放っておけば治る。
だが痛いものは痛い。
このゲドー様に傷をつけたな。
万死に値する。
ドゴッ! バキッ! グシャッ! メキッ!
殴る殴る殴る殴る。
ゴキッ! ドガッ! メキョッ!
「ははははは! ふははははは!」
興が乗ってきた。
弱者を叩きのめすのは快感だ。
これは力を持っている奴にしかわからないことだ。
アリのような弱者を圧倒的なパワーで踏み潰すのは気持ちがいいのだ。
弱い奴が悪い。
「何でテンション上がってるのです?」
「俺が強者だからだ」
まあマホにもわからんだろう。
弱肉強食こそが世の中の真理だ。
世界ってのはどこまで行っても、強者が弱者から搾取する構造になっているからな。
「ひっ、ひいいいい!」
「化け物だあああ!」
気が付くと数人まで減っていた野盗は、蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていた。
残ったのは十数人の野盗ども。
全員、どこかしらから血を流してのびている。
「終わったのです?」
「まだだな」
こいつらはのびているだけだ。
「とどめを刺すのです?」
「当然だ。このゲドー様に楯突いた罪、万死に値する」
「刺す必要はあるのです?」
「必要だと?」
俺はのびている野盗の首に、足をかけた。
そのまま踏みしめる。
鈍い音がして野盗の首がへし折れた。
「必要がないと、殺したらいけないのか?」
「普通はそう考えるのです」
「なら生憎だな」
俺は次々と、野盗どもの首を足でへし折っていく。
鈍い音が何度も響く。
「絶対的強者ってのは、普通の人間が定めた普通のルールとやらに従わなくていいんだ」
俺は口角を吊り上げる。
「なぜなら強者は、ルールに守ってもらわなくても生きていけるからだ」
首をへし折る。
へし折る。
へし折る。
マホは反論することなく、俺の行動をじっと見つめていた。
その表情からは人を殺すことへの嫌悪感などは特に窺えない。
これは予想だがマホの奴も、人を殺してはいけないという倫理観など大して持ち合わせていない人種だ。
単に社会にそういうルールがあるから従っているだけの話だろう。
だが野盗とはいえ人が次々と死んでいく光景を目の前にして、顔色一つ変えないというのは、マホの奴もどこかしら倫理観が狂っているといえよう。
まあ殺しているのは俺なのだが。
とはいえ多少狂っているくらいでなければならん。
そうでなければこのゲドー様には同行できない。
その意味でもマホは合格だ。
褒めてつかわす。
「ゲドー様は強いのです」
「ふん、もっと羨ましがっていいぞ」
「すごいのです」
「もっと褒めろ」
「世界一なのです」
「ふはははは! はーっはっはっは!」
羨望されるのは俺の大好物だ。
まあ一番は恐怖されることだがな。




