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第九話 女性成分を追加ですよ

 少女は酒場を見渡す。そして健吉を見据えると店内に確認をとるように叫んだ。

「ここに異世界人がいるらしいな!」

 当然ながら視線は健吉に集まる。それと共に少女は後ろに控えていた四人程の男を引きつれて健吉に歩み寄る。……がそれを遮る影が一つ。件の酒場主であるザカバであった。

「知るか。だいたい、うちはギルドに……」

 そう言って少女の肩に手を置いた瞬間、ザカバの巨体が宙を舞った。手を掴んだ少女がそれを捻り軽々と投げ飛ばしたのだ。同時に店内がざわつく。

 投げ飛ばされたザカバが悔しそうに少女を睨むが、表情が一気に変わる。

「ジミー隊長! そこに居たんなら言ってくださいよ。この勘違いした新顔の女を連れ帰ってくだせぇ」

 女が連れてる男たちの中に知り合いがいたのだ。

「うるさい! 黙れ! この方は二等監察使だぞ!」

 ジミーと呼ばれた男が一喝すると酒場はどよめきに包まれた。そして少女が辺りを睥睨する。

「なんだ、あのイメクラの姉ちゃんは誰かの情婦イロか?」

 健吉は隣のテーブルでナッツを齧ってる正二に質問をした。

「どこをどう考えたらそうなるんッスか?」

 正二はナッツを割りながら質問を返す。

「あんな恰好はイメクラしかねぇだろ? それが威張るなんてぇのは名の通った野郎が後ろに付いてるくらいしかねぇだろ。今はヤクザも色々と大変だな」

「そうじゃなくって、堅気の偉い人ッスよ。公務員的な感じで。それにイメクラにしたら服が上等じゃないッスか」

「イメクラは行かねぇから知らねぇけどそうなのか? だけどあんなに若くて派手な髪をした偉い奴なんてのは冗談でも通じねぇよ。あれで偉いってんなら俺もどこかの会社の重役で通用するな」

「あ、アニキは絶対に無理ッス」

 健吉が正二を睨む。その時、二人の前に少女が立った。

門番ガードに狼藉を働き不法に町に侵入したのは貴様だな?」

 座っている健吉を見下ろしながら少女が詰問した。

「藪から棒になんだい。お嬢ちゃん」

 健吉はテーブルに肘をかけ、ワイングラスを片手に応じる。

「貴様……舐めてるのか?」

「舐めていいのなら舐めるけどよ」

 口元に笑みを浮かべた健吉は続ける。

「意味のわからねぇことを言われちゃ、こっちも困る訳よ」

「無知で野蛮な異世界人と口論する気はないが……」

 少女は顔色一つ変えずに続ける。

「この町に入る時に二人ほど殴って気絶させただろ?」

「あー……あの強請ゆすってきた二人組か。あんなのは殴ったうちに入らねぇだろ。軽くなでただけだ。ケツ持ちなのはわかったけどよ、恥をかく前に帰りな」

 ようやく合点がいったのか健吉は納得したようにワインに口を付ける。

「強請りにケツ持ち? 手形を要求しただけのはずだが? ともかく、詳しい話は別の場所で聞く。同行しろ」

「断る」

 健吉は冷徹に命令する少女の要求を一蹴した。

「貴様……もう一度言う。命令だ、来い」

 健吉は左頬を掻くと暫しの沈黙。そしてゆっくりと少女に話しかけた。

「俺みたいな男に命令する度胸は凄いとは思うんだけどな……」

 そして言葉を選びながら続ける。

「なんだろうな、命令される筋合いがないんだわ。それこそ令状キップでもありゃ別だけどな」

「キップ? なにを言っているのか知らないが、こっちは力尽くでもいいんだぞ」

 少女が左手を挙げると後ろにいた男たちが健吉を取り囲む。

「そっちの方が話が早いな。こいつらの身柄ガラを押さえれば向こうから来るわな」

「あの~監察使様」

 そこにザカバが口を挟んだ。

「なんだ」

「そいつには俺の店の若い連中が酷い目に遭ってるんで……その捕り物に参加してよろしいでしょうか?」

「認めん」

 要求を一蹴された大男は健吉を睨むとつまらなそうにカウンター席に座った。

「いいのかい?」

 健吉が少女に問う。

「何がだ?」

「自分達だけでケツを拭けたらいいな」

 健吉はそういうや左右に裏拳を放つと囲んでた男たちのうちの二人を倒す。そして椅子からの立ち上がりと反応が遅れた右向いの男に一撃。最後に混乱している残りの一人にも一撃を放った。男が倒れたはずみで正二のテーブルがひっくり返るが、彼は予測していた様にナッツの入った小皿とグラスを手に持って軽々とかわす。

「帰って嬢ちゃんの男に伝えな。テメェの方から来いってな」

 瞬く間に倒された男達を見た少女は額を指で押さえた。

「これだから田舎の警備兵は……」

 溜息混じりにそう漏らす。

「ほら、嬢ちゃんは帰って連絡だ」

 少女は健吉を無視して彼の両手首を掴んだ。

「おいおい、投げようってのか----」

『錠』

 少女が呟くと健吉の左右の手首に光の輪が現れる。その輪は光の紐で繋がれ、あたかも手錠のようであった。

「お、手錠ワッパをかける手品か。教えたら喜ぶ連中もいるぞ」

「捕縛術Lv2による『錠』だ。お前では千切れないぞ。まだ逆らうなら足にもかけるが……諦めてついて来い」

 感心している健吉に対して少女は先ほどと変わらぬ冷たい口調で同行を求めた。

「だから行かねぇよ」

じょう

 少女が手を振ると今度は指先から光る縄が出て健吉の両足首に絡みついた。

「おお、すげぇな。嬢ちゃんは変な恰好をしてるからイメクラ嬢かと思ってたが手品師か」

「アニキはそういうことを本人に言っちゃうタイプなんッスね」

 健吉のテーブルに残ってるるナッツを回収しながら正二が突っ込む。

「だからアニキじゃねぇだろ」

「首にも縄をかけられたいのか?」

 いまだに同行の気配を見せない健吉に少女が苛立ちをにじませた。


 その時、一人の男が店に駆け込んできた。

「隊長!」

 少女は床に寝転がってる男に視線をやる。

「代わりに私が用件を聞く。なんだ」

「え、あ! は、はい! 民兵の集団が門番の制止を押し切り強引に町に侵入してきました」

「異世界人も民兵も通すとはここの警備隊はなってないな」

 少女は溜息とともに健吉を見る。

「貴様の処分は後だ。そこで待ってろ」

 そしてザカバに声をかける。

「おい、この異世界人と悶着があったようだが手を出すなよ。それと暫く外に出るな」

 続いて酒場を見渡すと「お前らもだ」と言いつける。

 それと同時に外から怒鳴り声がした

『異世界人! ここの酒場にいるんだろ! 出て来い! 店ごとぶっ壊すぞ!』

 少女は健吉を見ると大きな溜息をついた。

「これも貴様絡みか……」

 少女はそう言い残して店を後にした。

二等監察使……健吉達が滞在してるパミデ王国(初出)の役職の一つ。監察使は行政監察権を司る。また一部的に直接的な行政権も有する。部隊として直接動かせるのは各地の警備兵(治安維持部隊=機動隊等を含む警察)であり軍隊には及ばない。ただし緊急事態においては軍隊に対しても指揮権を有する。ただし、後の調査の結果で緊急性を否定される場合も多く、また、本人達も自覚してる経験の少なさからこれを行使するケースは少ない。軍隊で例えると佐官クラス。

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