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第十六話 オークの正体

 オークを追い払った健吉のもとへ白髪まじりの初老の男性が近づいてきた。

「ああ、なんとお礼を申し上げれば……」

 そして深々と頭を下げる。

わたくしはここの村長を任されているチョーヌと申し上げます」

「売られた喧嘩を買っただけだ。別に礼を言われる筋合いはねぇよ」

 健吉は感激中のチョーヌに面倒そうに返す。

「売られた喧嘩……?」

 その後ろで正二が呟く。

「いえいえ! どの様な理由にしろ、結果として我々が助かったのは事実なのです」

 そんなチョーヌを無視して正二がまだブツブツ言っている。

「……酒場の奴とかもアニキとしては喧嘩を売られたんだよな」

 そんな正二を健吉が見ていることに気が付いたのか、彼は大きく手や頭を振って弁解を始めた。

「いや、何でもないッス。口が臭いのは十分喧嘩を売ってるッスよね。歯くらい磨けって……ねぇ?」

 そして話を変えるようにチョーヌに振る。


「それよりもアンタさぁ。感謝してるんだったら言葉じゃなくて態度で示してくれよなぁ」

 チンピラ口調の正二にチョーヌは少々驚きつつもにこやかに応じる。

「ええ、ええ、勿論ですとも。慎まやかながらも宴なども用意させていただきますとも」

「アァ!?」

 それに対して威嚇するような声で応じたのは正二である。

「慎まやかだぁ!? お前らが感じたアニキに対する恩義ってのはその程度のもんなのかよ? おぅ」

「えっ! ……あの」

 チョーヌは正二の態度に驚き口ごもる。

「礼はどうでもいいんだけどよぅ」

 それを遮ったのは健吉である。

「警察を呼ぶんだろ? 正直なところ俺はあいつら苦手なんだよな。話が通じねぇしよ」

「アニキからしたらそうでしょうね……」

 健吉に聞こえないように正二が呟いた。そんな正二の呟きは幸いなことに二人には聞こえなかったのか、チョーヌが健吉に質問を出す。

「警察……なんですか、それは?」

「別に俺のことは気にしなくていいんだぜ」

 健吉はチョーヌの言葉を自分をかばう為ととらえたのか少々ばつが悪そうに続けた。

「いつもの癖でよ。警察が苦手とかと言っちまって気にさせちまったなら悪いことをしたな。豚面連中が俺を知ってりゃ普通は二度と来ねぇんだけどよ。この辺りじゃ俺はあんまり知られてねぇみてえだからな」

 そして健吉は努めて優しく続ける。

「俺も用事があるしよ、見張っておくってわけにもいかねぇんだ。お礼参り……報復とかもあるだろうしよ、あいつらのことは警察に任せな」

「オークからの復讐を心配なさっているのですか?」

 チョーヌは不思議そうに質問を出した。

「うん? ああ、あいつらオークって言ったっけか」

「それならご心配なく。オークたちが襲撃に来るのは発情期のみでして……それも今では襲撃は形だけの一騎打ちを楽しむお祭りの様なものになってましてね」

 そこで大きなため息が出た。

「それがどうしたことか、今回はこんな形になりまして……。わたくしどもの若い衆が州都に納税に行ってて一騎打ちに応じられなかったのもあるのですが……。なにしろこんな時期に発情されたのも初めてでして……」

 困惑を隠しきれない様子のチョーヌは健吉の手をとった。

「しかし、あなた様が一騎打ちに勝利したおかげで、追い払えたのです。次の発情期までは襲撃はないでしょう」

 その表情はいつしか明るさに満ちていた。


「ちょっといいかい?」

 そこに正二が口を挟んだ。

「勝ったら追い払えるってのはわかったんだけどさ、負けたらどうなんのよ?」

「そりゃ若い娘を一人差し出すんですよ」

 正二は当然と答えるチョーヌに対して吐きそうな表情を見せた。

「ああ、誤解のないように申しておきますと、私どもと彼らは非常に友好的な関係なのですよ」

 チョーヌは弁護を続ける。

「例えば今の時期のように徴兵と納税物の護衛で若い衆がいない時などは、村を外敵の襲撃から守ってくれます。もちろん、普段でも援軍に来てくれますよ。それに大事な商売相手でもあるんです。彼らがいなければ納税ができるかも怪しい話でして……。発情期以外は基本的に気の良い連中でしてな、実際に嫁に行きたがる娘もおるくらいなのです」

 チョーヌは正二が見せた嫌悪感を必死で拭うように多弁であった。

「お前さんらがそれでいいなら、俺としては構わんよ」

 健吉は必死なチョーヌに対して、さして興味がないといった感じで応じる。

「それでは食事の用意などをいたしますので、その間は……」

「あー……ついでと言っちゃなんだけどよ」

 健吉はチョーヌを遮った。

「風呂ねぇか?」

 ゾンビと絡んで以来、臭いが移っていたのが気になっていた様子で拳の臭いを嗅ぐ。

「異世界にはその様な習慣があると噂には聞いているのですが……」

 普段は清浄魔法等で清潔を保っているこの世界には普通は風呂がない。チョーヌは申し訳なさそうに言い淀む。

「あー……それじゃあ川で水浴びでもしてくるわ」

 健吉は全てを聞くことなく川の方へと向かっていった。そしてそれにもついて行く正二であった。

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