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Mの選択

「ねえ、お父さん? 」

ん? と私は誰かに似たような返事を思わずしていた。

あれから20年。

気付けば私も父になっていた。

沢山の貴重な経験や、苦い経験もし、少しは社会の色々な、事が分かってきたつもりだ。

「ねえ、この歌歌っている人、何ていう人? 」

テレビでは、最近の若いアイドル達が、昔の歌をどれだけ上手に、歌うかを競うバラエティ番組がやっていた。

「お、懐かしいな」

歌はMの代表曲だった。

「この曲はね、Mっていう人が歌っていて、すごい人だったんだよ。」

残念ながら52歳という若さで亡くなってしまったけど、と私は付け足した。

へー、と息子は返事を、した。

この曲、今もまだ受け継がれているんだな、そんな事を私は考えていた。

「あのさ、お父さん? 」

「何? 」

「もし、昔に戻れて、Mさんにその事を伝えられれば、Mさんは無理をせず、今でも元気でいられたかな? 」

私は思わず息子を、見つめた。

何という事だろう、この子はあの頃の自分と同じ事を言っている。

あの頃の私は残念ながら、その答えをもらう事は出来なかった。でも、今なら分かる。

これから私が答えようとしている内容は目の前の息子にだけではなく、少年だった頃の自分への答えだった。

「そうだね、Mさんはひょっとしたら若い頃から、こんな、無理のある生活をしていたら、健康には良くない事は分かっていたのかもしれない」

息子もじっと私を見つめていた。

「でもね、もし分かっていたとしても、きっと彼女は歌を歌い続けたと思うよ。何でだと思う? 」

息子は首を傾げた。

「この歌はね、Mさんにしか歌えないんだ。この歌だけじゃない。その他数多くの宝物をMさんは残してくれた、その多くはMさんにしかできない事だったんだ。」

もう息子の反応はあまり気にしていなかった。

「これらの宝物を私達に遺す、ということはMさんの使命なんだよ、まさに命を削って遺してくれた宝物なんだ。だからきっとMさんはこの未来が分かっていたとしても、この道を選んでいたと思うよ。」

息子がどんな表情をしていたかは、もう覚えていない。

ただMが亡くなり何年も経つ今も尚、Mが遺してくれた宝物は私達の心に常に流れ続ける、それはまるで私達人類という大きな川を流れる、川の流れのように。


(了)

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