運命に抗う
ぼんやりとした意識の中、オレンジの薄明かりが目に入って来た。やがてその光は寝室の豆電球である事に気付いた。
ここは?
今いる場所を思い出すのにそう長い時間はかからなかった。
テレビにで深夜のニュースを見て、布団に、入って、それで……。
次第に込み上げる意識の中、徐々に煮え滾る何かが湧き上がって来た。
こんな事していられない。
すぐさま少年の私は布団を蹴飛ばし、薄暗い居間へ走り出した。居間まではそう時間はかからない、父はもういびきをかいていた。
急いでテレビをつける。
何度もチャンネルを変える。
ニュース、ニュースはどこだ?
必死で探した。
私の言葉は届いたのだろうか?
運命は変えられたのか?
少しして、ニュース番組を見つける事が出来た。
その一字一句に必死でかじりついた。
そして運命の時がやって来た。
「本日夕方8時頃……」
私はどんな表情でそのニュースを聞いていたのだろう? どんな姿勢だったろう?
どうやら本日、Mは亡くなったらしい。死因は間質性肺炎。52歳という早い死だった。
言われてみれば当たり前だ、運命は変えられなかった。あの私の言葉は彼女に届いたのだろうか? 彼女は何を感じたのだろうか?
今となっては確認のしようもない。
ただ薄暗い部屋には、父のいびきだけが空しく響いていたのだけは覚えている。