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ドアを開けるとすすり泣くような声と、慰めるような声が静かに響いていた。
かすかに美味しそうなコーンポタージュのの香りがする。
鍵を取り、邪魔をしないようにそっと扉を閉めた。
そしてもう一度だけ戸を開けて外に出る。
「さて、葵。約束通り力を借りるよ。」
しばらくするとチュ、チュッと鳴き声が聞こえてきた。そうだよ。あれだよ。
ドラ■モンが大っ嫌いなあいつだよ。見た目がものすごい可愛いくせに凶暴なあいつだよ。
そう、あいつの名は。
「ネズミか。」
まずは僕の周りを少しだけ明るくしてネズミがどこに居るのかを知らないとな。
「現れろ、火の玉。」
おぉ、以外に進行速度が早いんじゃないのか。ま、ネズミだから仕方がないか。
しかし力を貸すってこう言うことだったのかよ。頭の中に葵の声が響いてきて僕はそれを復唱してあるだけだ。
小さい体に似合わない大きさの出っ歯を持つネズミだな。出っ歯はギラギラ光っていてなんか噛まれたら痛いってもんじゃなさそうだ。
「葵。倒すよ。」
一拍ほど間が空いてから頭の中に響いてきた。
「闇切り。」
すると杖の先に小さな青い炎が灯った。青い炎に当たるとネズミは灰だけ残して消え去ってしまった。
命はこんなにも儚いのかとしみじみ思ってしまう。
しかし立ち止まってもいられない。足を動かして走り回らなければ葵との約束が果たされない。
それに数が多すぎる。
「はぁ、はぁ、こんなに運動をするのは一体何年ぶりなんだろうな。」
魔物を倒すと美味しそうな鬼灯のような丸い塊がふかふかと浮いてとても美味しそうなのだ。
なのに敵がわんさかと居るせいで全く食べられない。
しかも一定の時間が過ぎるとその塊は風船のように空に飛んでいってしまうのだ。
「ち、約束さえなければな。」
疲れる。誰か代わってくれ。一体一体は雑魚だがこう何体も一気に来られると見ていても気持ち悪いのだ。
それにこの村にだってこんなに家がたくさんあるんだから、若い者もたくさん居るんだろ。
少しは運命に抗うことをしてみたくはないのかよ。
「しっかし囲まれたな。さすがネズミ、速いねぇ。僕の後ろにもたくさん居るよ。ってことで走るのは諦めますか。」
もう良いだろう。ネズミも仲間を殺されたせいなのか目が殺気に燃えている。
遠くに居るネズミ達ががひときは大きな声で鳴いた。
「チュー、チュー、チュー、チュー。」
そしてその声は連鎖的に全体に広がっていく。それが合図なのか遠くで食い荒らしていたネズミも加勢として沢山集まってくる。
「遠くまで行かなくて済みそうだな。」
しかしこちらは圧倒的に不利だ。あと一人安心して背中を預けられるぐらいの実力のある奴がいたらこんな雑魚の集団は簡単に勝てるのに。
もうすでにかすり傷も沢山ある。なんとかして頑丈な壁を見つけなければ。
だけども家も壁も何もかもを噛み砕き粉状にしているネズミに、勝てる壁なんてあるのか。
「葵はこんな状況を一気に打破できる魔法を知っていないか。」
返事は返ってこなかった。これじゃあ、僕が空気に向かって大声で話しかけているみたいじゃないか。
「約束は果たさなきゃ意味がないだろ。すぐに教えろ。」
責め立てるように言うと今度は返事が返ってきた。
「我に敵意を抱くもの、我が炎によって灰になれ。」
すると杖から出てきた炎が荒々しく僕の周りを囲み、空高くまで上ると炎は一気に膨らんだ。
そこまで見届けると急に目眩がしてきた。頭も痛い。
立っていられないほど酷いわけではないが、もう敵とかどうでもいいから自分のベットに横になりたかった。
目の前にある美味しそうな塊も今はいらない。
「後はもういいでしょ。」
いつの間にか僕の周りを照らしていた青い火の玉も消えていた。
月も雲に隠れていて辺りは本当の真っ暗だ。あんなにうるさかったネズミの鳴き声もしない。
静かな静寂がとても心地良い。
「ぎゃ。」
痛い。なんだよこれ。血が止まらない。足が痛い。
倒れながら足元を見るとネズミがこちらをじっと目で見ていた。
もしかして僕はここで死ぬのか。
遅れましたが、あけましておめでとうございます、