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僕にトーク術があったら今頃はもう町の中だろうに。
そしてこいつの勧誘をいちいち断る手間が減っただろうに。
なんか考えていると余計にムカついてくるな。
「なにをそんなに悲しげな顔をしているんだ。」
「疲れてヘトヘトでとても眠いだけだよ。」
「そっか、俺はお腹が空いた。」
グーと貴族の威厳もなにもなくただうるさくわめくお腹の音は、僕のことを責め立てているようで嫌な気持ちになる。
しかし銀色の鍵のことは出来るだけ世間の目から隠したい。
「お前の町はうるさいのか。」
「そうだな、とても賑やかで活気がある町だ。」
要はうるさいんだな。
「しかしそれも、もう終わるんだ。明日は家から出ない方がいいよ。食べ物を買いに行くなら今日でなくちゃ。」
「なんで。」
「明日はな、あの町が潰されるんだ。」
ポツリと小さく呟いた。だがその呟きは僕にとってとても興味深いものだった。
面白そうだ。僕は確かに平穏と平和が大好きだが、それだけではつまらないと思うのだ。
人生はスパイスがなくては。それに活気がある町が滅んだとしても僕の心が少しだけ痛むだけだ。
「なぜ、潰されてしまうの。」
それに僕は自由な、誰にも従わない鳥になりたいんだ。
だから僕は僕の目の前にある一線を簡単に越えてやる。
「なにをするつもりなんだ。その顔は怖いぞ。」
「いいから、早く言ってよ。僕の気が変わらない内に。」
「この世には魔物という存在が居る。魔物はある一つの大きな存在に従っている動物だ。その大きな存在が魔王だ。
魔王が適当に選んだ町や都市は徹底的に壊され破壊の限りを尽くされる。ま、前日の内に報告されるから身分の高い奴は逃げられるんだ。
だが金を持たぬ身分の低い奴等はその場から逃げても、住む家がなければすぐに死んでしまう。」
貴族と平民の貧富の差が激しすぎるんじゃないのか。
そんなんじゃすぐに平民の不満が大きくなるに決まってる。
「対抗策を考えようとはしているんだが派閥争いが激しくてな。」
「バカだな。」
あのへんちくりんは崩れる一歩手前の世界に僕のことを落としたのかよ。
「この世界に兵器はないの。」
「兵器? なんだそれは。魔法と剣以外に何かあるのか。」
「なら魔法を教えて。」
「教えてと言われても、魔法は教わるものではなく読み解くものだろ。丁度そこに魔導書があるしやってみたらどうだ。」
指を指された方を見てみるとまだ読みきれていなかった本棚のひときは目立つ青い本があった。
言われるまでこんなキレイな本があるなんて気がつかなかった。
僕はどうかしていたのか。
恐る恐る本を手に取り開く。すると青い炎が青い本から出てきて僕の周りをきれいに回る。熱い。
そして急に止まり、青い炎は縦に伸びるとそのまま杖になった。
ぎゅっと握りしめる。暖かい。しかし本はなくなっていた。
「すごい。そこまでキレイなものは始めて見た。」
「とってもキレイか。さて、町の名前は何て言うんだ。」
「確かインコ町だ。なにか用があるのか。」
「行ってくるよ。ご飯も買いに行かなきゃいけないし。お腹減ったでしょう。」
すると調子の良いことに、ぎゅるるるるーーと大きな大きなお腹の音が響いた。
「な、お腹空いただろ。」
「いや、今の愛くるしいお腹の音は妹のだ。」
どこが愛くるしいんだよ。むしろ、お腹の音が大きすぎて怪物みたいだったぞ。
「ところでお金はあるのか。」
「知らせを聞いてからお金は持っているだけ、村の者に分け与えてしまった。。」
「買えないじゃん。」
「お前はお金を持っていないのか。」
「無一文だ。お前が持っていたあのブローチを売ればいい値になるんじゃないか。」
「バカを言え。そんなことをしたら清山家の一族として居られなくなってしまう。」
戦国の世の時代のノリみたいな感じなのか。下らないプライドに振り回されてかわいそうな奴。
こっちはお前達の食料不足で悩んでいるってのに馬鹿馬鹿しいことだ。
「────あげ───ください。」
今、小さな声が聞こえた。耳を済ますと聞こえそうだったが考え事をしていた耳には所々しか聞こえなかった。
だけどもとても清んだキレイな声だった。もう一度ゆっくり聞きたい。
「もう一度言ってくれないか。今度はちゃんと聞くから。」
あいつが怪訝な顔をしてこちらを見ているが無視だ無視。
「言いたくないなら言わないでいい。だから姿を見せてはくれないか。」
わずかに持っていた杖が熱くなった。耳をできる限り清ます。
「助けてあげてください。」
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