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畑と言ったら野菜があるのが俺の中で常識だった。しかし、野菜がない。水をやっておいた時に気付けば良かったんだか、
畑には鬼灯の実ばかりきれいになっていて野菜など一切見つからなかった。
「さて、どうしようか。」
一応、あいつらが来れるぐらいなのだからさほど距離は離れていないのだろう。
しかし行くのには賛成できない。町と言ったら人が居る。人と関わるのは嫌だ。一人で生活するのに支障がないのなら一人で生活したい。
「かと言って怪我人に行かせるのは却下だし。」
かといってこのままではあの人たちがひもじい思いをするのは目に見えているし、うーん。
あ、そうだ。変装をして行けばいいんじゃないか。
「しかし道順がわからないし。」
「鍵を使えば良いんですよ。」
「あ、ええ、もう二度と会えないとか言ってましたよね。」
いちいち驚かせないでくれるかな。いきなり後ろに居るって怖いわ。やっぱ神の使者は違うな。
気配もなく一瞬で現れるとかすごいもん。いや、むしろ神の使者なのだからそれくらい出来ないといけないのか。
「すいません。忘れてました。鍵を渡しましたよね。
その鍵を持ったまま行き先を唱えて扉の鍵穴に差し込み開けると、なんと唱えたところに行けるのです。
便利ですよね。ついでにこれは鈴さましか通れないようになっているのできおつけてください。」
なんて便利な道具なんだ。荷物運びとかめちゃくちゃ便利じゃないのか。
でも、こんな緊急時じゃなければ使わない俺なんかに持たせたって宝の持ち腐れだろうに。
「ありがたく使わせていただくよ。」
が、貰える物はありがたく貰っておく。最低限今は使うからな。
すると唐突に大きく手を叩いた。すると魔法のように空からふありふありと真っ黒な大きな布が落ちてきた。
「伝え忘れてしまったお詫びです。どうぞ、使ってください。」
貰ってみてわかったことだがそれはマントだった。足の先っぽから頭のてっぺんまで隠せるくらい大きなマントは、試着してみると暖かく、
着心地はとても良かった。
「ありがとな。」
マントから視線を外して前を見ると前にはもう誰も居なかった。
「神の使者はせっかちなんだな。」
しかしもしこのマントが僕の変装して町に行くという考えを読んでくれたうえで差し出してくれていたのなら、僕はとても嬉しい。
「さて、準備は整った。行くか。」
マントのフードを深く被り銀色の鍵を鍵穴に入れて扉のなかに入る。ついついぎゅっと目をつぶってしまうが、怖いものはどうしようもない。
諦めよう。
「お前は何をやっているんだ。」
「それは、いや。」
鍵の存在は知られない方がいいと思ったので、うっかり言葉を濁してしまった。
これじゃあ、余計に疑われるだけなのに何をやっているんだ僕わ。
「はっきりと答えろ。」
あ、そういえば町の名前は僕知らないよ。
「窓から見ていたが、畑で一人で話していたぞ。それにそのマントは一体いつ着たんだ。」
僕は昔から自分のことを無意味やたらに検索されるのは好きじゃなかった。むしろ大っ嫌いだった。
「しかも、お前のような幼い子供がなぜこんな土地で一人で居るんだ。」
やっぱり今も変わらないな。僕は自分のことを検索されるのが好きではない。
今も昔も変わらず大っ嫌いだ。
「お前は一体何者なんだ。」
スッと小さく深呼吸をする。これが怒らないコツなのだ。
「残念ながら僕の畑には野菜がなかった。しかし僕は町には行きたくない。うるさい喧騒は嫌いだから。」
「お前は、本当に──────。」
「それに僕うるさく検索してくる人は嫌いなんだ。それ以上しつこいと家の外に追い出すよ。」
一応ここでのルールは僕なのだ。目をスッと細め冷笑してしまう。
「そしてこの家を出て行ったらもう二度とこの家に近づくな。」
「わかった。妹がお腹を空かせているんだ。何か食べる物をくれ。」
図々しい奴だな。貴族ってこんなのばっかなのか。一日ぐらい何も食べなくても人間は死なないよ。
「あと一つ提案があるのだがこんなところに居たって寂しいだろう。俺の家の養子にならないか。」
「ここの静けさがとても気に入っているから断る。」
「それじゃあ、お礼をしたいから一緒に俺の屋敷に来てくれないか。」
「うるさいのは嫌いだと何回も言っている気がするんだけど。」
「お腹減ったー。」
結局それが狙いなのかよ。もう学習しろ。でも、さりげなく町の名前を聞けないかな。
さすがになんか罪悪感があるし、この罪悪感が僕のストレスになるかもしれないから速急に食材の件を解決したいんだが、
今まで自分の中のストレスをいち早く解決するために、遠回しな言い方をするのは避けてきたのだ。
そして情けないことだが、今さら遠回しな言い方は何を言ったら良いのかわからないのだ。
ここまで読んで下さりありがとうございました。