忍び込む大泥棒
俺は泥棒だ。
世界一と自負している。
俺が忍び込めない家は何処にもない。
どんな場所だって狙った獲物があれば入ってやる。
今日はこの家を狙うか。
かなり金持ちのようだ。庭が広くセキュリティがしっかりしてそうだ。まぁ、俺には関係ないがな。
素早く潜入し、お目当ての物を目指す。
慎重に、時には大胆に突き進む。前方から足音が聞こえてくる。俺は焦らず身を隠す。
「ここで何をしている」
不意に後ろから声をかけられた。足音に気をとられきづかなかった。まずい、潜入がばれたか?
過去にも何度か見つかった時があったが、どのときもすぐに逃げ、なんとか追い付かれずに逃げきれた。
追いかけてくるやつは例外なくこちらを殺す気できている。捕まるわけにはいかない。
逃げる態勢をとりつつ振り返り、気が抜けた。
「同業者か」
「ああ」
「帰りか?獲物は残っているか?」
「大丈夫だ。ここは金持ちだからいくらでもあるさ」
「そいつはよかった。ならさっさと行くとしよう」
別れを告げ再び獲物へ向けて進む。
その後特に何もなく、無事に獲物を手に入れて帰宅する。
「お帰り。どうだった?」
「ただいま。今日も問題ない。いつも通りさ」
手に入れた獲物を渡しながら気軽に応える。
「最近物騒だから気をつけてね。噂なんだけど、北の方の大きい屋敷に行った同業者達が誰も帰ってこないらしいよ。」
「ほう、俺が行って何事もなく帰ってきてやるよ」
自信満々に応えて今日は寝ることにする。明日は噂の家に行こうと思うとワクワクしてくるな!
ここが例の家か。特にこれといった特徴はなさそうだが。何があるかわからんが、今日もきっちり獲物を奪って帰ってやるぜ!
意気揚々と潜入する。思った以上に何もなく、無事に獲物を手に入れて帰ろうとしたとき、とてもいい匂いを感じる。これはとても大物の気配だ。逃すわけにはいかない。
近づくにつれて匂いも濃厚になってくる。周りの気配を伺って安全を確認し、匂いの元までたどり着く。
これまで嗅いだことない極上の香り。思わず我を忘れてむしゃぶりつく。
ぬちゃ
「!?」
口をつけた瞬間とれなくなる。必死で外そうと足掻くもかなわず、それ以上に手足までくっつきとれなくなる。まずい、これは罠か!今更ながら誰も帰ってこないという言葉を思い出す。
足掻けば足掻くほどまとわりつく。徐々に失われていく体力。ここまでか…。と、諦めかけたそのとき
「いい匂いはここか」
誰か来た。薄暗いから分かりにくいが同業者のようだ。
「近づくな!罠だ!」
「おいおい、独り占めしようってのか?」
いいつつ近寄ってくる。まずい、このままでは俺の二の舞だ。
「違う!罠なんだ!」
必死に止めようとするが、聞いてもらえずこっちまでやってくる。
「ぬっ?動けない!?」
「だから言ったのに…」
「む、すまぬ。して、どうする?」
「どうしようもないさ。何もできないからな」
「これがこの家から誰も帰ってこない理由なのか」
「そうだろうな」
意識が薄れていく。この匂いにも何か仕掛けられていたようだ。どうしようもない。俺もここまでの…よう……だ……。
「あら嫌だわ。また入ってるわ。いったいどこから沸いてくるのかしら。また新しいゴ○ブリホイホイ買ってこないとねぇ」
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