タイトル未定2026/08/22 01:08
肌寒い風が心身に染み入る様な紅葉の季節。私の生活もまた黄昏の時を迎えていた。
長年すれ違いが続き、最近では口論が絶えなかった妻との別居。
あの夏の嵐の様な日々が過ぎ去り、茫漠たる静寂が私の人生に訪れた。
私の名はハーマン・ウェンズリー。サウス・ウェストの法律事務所で弁護士をしている。
弁護士と言えば聞こえは良いが、大手企業の顧問弁護士連中と違って、私の仕事は主に諸々の民事裁判の処理である。最近扱った事例を挙げるなら、五番街のサラリーマン、ジェイムズ・リー氏の浮気が故で発生した夫人との離婚調停や、ダウンタウンに住むオルガネラ老婦人が飼う犬の鳴き声に関する周辺住民との感情的摩擦の解決等々・・。要するに雑務労働の類が私の専門だ。
私の人生はこのまま猥雑な世俗の争い事の書類の山に埋もれてゆく運命なのだろうか。
些か悲観的な予感が私の脳裏を過り、週末だというのに気が滅入って来た。
不意に、玄関のベルが鳴った。
「ウェンズリーさん。ダリル宅配会社です。お荷物が届きましたよ。」
届けられた荷物の差出人を見て、懐かしい気分になった。
「ヘンリー・オズワルド・・・伯父さんか。子供の頃に会って以来だな。」
探検家の伯父は、世界の古代遺跡や秘宝を求めて世界中を駆け回っていた、私の親類の中でも異色の人物だ。まだ私が幼い頃、家を訪ねて来て色々な珍しい戦利品を見せてくれたり、冒険談を聞かせてくれたりした事を記憶している。子供心に胸躍らせていたものだ。
私は伯父の来訪を心待ちにしていたが、ある時を境に突然連絡が途絶えてしまった。
以来、数十年もの年月が流れ私は無感動な中年男に変貌していた。
荷物の中身が気になるが、今日はこれから依頼者と面談する予定が入っている。
部屋の片隅に荷物を移動して、私は依頼者の書類に目を通した。
ダイアナ・ヒューズ28歳。職業はコンピュータ・ソフトウェア開発企業のプログラマー。
依頼内容は、最近元配偶者のストーカー行為に悩まされている為、接触禁止の法的措置を至急に下して欲しいと言うものだ。
この類の依頼は頻繁に有るのだが、この件に関しては特筆すべき点が有る。
通常考えられない様な異常現象が彼女の身を襲うのだそうだ。
彼女はそれ等の現象は全て元配偶者による巧妙な嫌がらせであると主張している。
警察も概ね彼女と同一の見解を示している。
私はこの依頼内容に些か興味を惹かれて、週末だと言うのに面談の申し込みを受けたのだ。




