カール主催のお茶会
「行ってやろうじゃない!」と意気込んで向かった先は、ウージンゲン公爵邸である。
今もカール・フォン・フォン・ウージンゲンを恐ろしく思っている。
だが、何故だか前のカールとは何かが違う。
それが何なのか知りたい気持ちと、フォン・ウージンゲン公爵家のことを知りたい気持ちが、恐怖より勝っている。
父・シュタウフェンベルク伯爵は「不安だ……其方一人では行かせられない。」と言い、母・シュタウフェンベルク伯夫人は「私も一緒でなければ行かせたくありません。」と心配している。
已む無くシュタウフェンベルク伯夫人と共に行くことになり、シュタウフェンベルク伯爵からウージンゲン公爵へその旨は伝えられた。
ウージンゲン公爵の了承を得られて、二人で向かった。
ウージンゲン公爵邸が見えて来た瞬間、私の身体は……テレーゼの身体は震え始めて震えが止まらない。
シュタウフェンベルク伯夫人は「テレーゼ! 可哀想に……こんなに震えて……もう帰りましょう。私からお詫びをしますから大丈夫よ、大丈夫。」と隣に来て、優しく抱き締めてくれた。
⦅こんなんじゃ駄目だ。しっかりしないと……何も出来ないまま、また斬首刑になってしまう。⦆と思った。
「お母様、大丈夫です。参りましょう。」
「何を言ってるの。こんなに震えているのに……。」
「いいえ、参ります。
伺いたいこともございます。
お母様、私は大丈夫です。」
「無理をしていませんか?」
「私、本来はこんなに弱くないと思っていました。
でも、人間って弱いのですよね。」
「テレーゼ………。」
「その弱い人間でも、弱い私でも、大切の人を守れる力が欲しいです。
今日は、その為に行くと決めました。
行ってやる!って決めたんです。
行きます。
お母様も居て下さるのですから……。」
「テレーゼ………。」
「傍に居て下さるんですよね。お母様。」
「ええ、ええ、傍に居ますよ。」
「では、参りましょう。お母様。」
「テレーゼ………一緒に参りましょうね。」
「はい。」
ウージンゲン公爵邸に到着した。
身体の震えは止まっていないが、馬車から降り、そして、ゆっくり進んだ。
出迎えてくれたのはウージンゲン公夫人とカールだった。
お茶会と聞いて、複数の貴族が招かれていると勝手に思い込んでいた私。
招かれたのは、私だけだと知った。
「今日は御招き頂き誠にありがとう存じます。」
「テレーゼ嬢、来てくれて感謝する。」
「招かれたのは娘でございますのに、私まで伺い誠に申し訳ございません。
受け入れて頂き誠にありがとう存じます。」
「いいえ、こちらの配慮不足でございましたわ。
テレーゼ嬢は、外出もされていらっしゃいませんでしたのね。
御身体、今日は如何でしょうか?」
「……はい、お言葉ありがとう存じます。
少し緊張致しております。
緊張すると身体が思わしくないようになります。
もし、そのようになりましたら、ご迷惑をお掛けすることと存じます。
どうか、そのようになりましたら、ご容赦頂きとう存じます。」
「テレーゼ嬢、案じられなくとも理解しておりますわ。
どうか、ゆっくりお過ごし下さいまし。」
「ありがとう存じます。」
「この屋敷にも花々が咲いておりますわ。
カール、お茶の前にテレーゼ嬢に花々をご覧頂くよう……。」
「はい、母上。
さぁ、テレーゼ嬢。参りましょう。
綺麗ですよ。うちの花々も……。」
「あの…………お母様。」
「私もご一緒させて頂けませんか?」
「まぁ、ご心配でいらっしゃいますのね。
大丈夫でございますわ。
カールが居れば、何かあっても……ご案じ召されませぬよう。」
「は……い………カール様、テレーゼは身体が弱く、どうか遠くに行かれませぬよ
うお願い申し上げます。」
「はい、承知致しました。
さぁ、テレーゼ嬢。」
手を差し出された私は、不安でいっぱいのまま手をそっと出すと、カールが直ぐ様、私の手を取った。
私の手の震えはカールに伝わっていた。
「では、行って参ります。」
「行ってらっしゃい。」
「カール様、どうかお願い致します。」
「はい。」
母は私の姿が見えなくなるまで見つめていたそうだ。
私は言葉が見つからなかった。
「手が震えていますね。
怖いのですか?」
「………あの……御放し下さいまし。」
「私のことを怖いと?」
「………カール様…………。」
「アドリス殿は怖くないのですか?」
「アドリス様………怖くありません。」
「何故、其方にとって私はこれほどまでに怖い存在なのでしょうか?」
「…………………今日は、クラウディア嬢のお姿が……。」
「クラウディアのことなど、どうでもいい。
私は何故これほどまでに怖がれているのか知りたいのだ。
答えて頂きたい。
私が怖いか?」
「………はい。」
「…………そうか……怖いのか………。
それは、あの時、無理に手を引いたからか?
曲が終わって、其方を連れて大広間から出た。
あれが怖かったのか?」
「………………………………。」
「答えられぬか………そういうことなのだな。
相分かった。
これからは気をつける。」
⦅へっ? これからも? あるの? いやぁ……ごめんだわ。⦆
「………き……綺麗な庭園でございますね。」
「あぁ、母上御自慢の庭園だ。
テレーゼ嬢は、どの花が好きか?
どんな色の花が好きか?」
「あの……どの花も好きでございます。」
「うむ、典型的な模範解答なのか? 其方にとって………。」
「………どうお答えすれば良かったのでございますか?」
「本当に好きな花と色を答えれば良いだけだ。」
「好きな色は……青……でございます。」⦅リアムの瞳……青。⦆
「そうか……私の瞳の色は青だ。」
「え………あの………。」⦅なんという大いなる勘違い! 腹立たしいわ!⦆
「違うのか?」
「違います。」
「そうか……。」
「青い瞳は、多いように存じます。」
「そうだな。」
「空の色……綺麗な空の青い色が好きでございます。」
「そうか……空の色か………。」
「クラウディア嬢と御一緒なさらなくても宜しいのでしょうか?
私となど、お時間を割いて頂かなくとも……クラウディア嬢と御一緒の方が宜し
いのではありませんか?」
「テレーゼ嬢は、どうしてクラウディア嬢のことを出すのだ。
あまり愉快ではない。」
「そうでございますか。申し訳ございません。
あの………母の所に戻りたいです。」
「私と二人きりは嫌なのか?」
⦅ええ、ええ、嫌ですとも!⦆「あの……いいえ、少し疲れましたので……。」
「本当か? そんなに歩いてないぞ。」
「あの……戻らせて下さいまし。」
「こうすれば……其方が一人で勝手に戻れないな。」
⦅手っ! 手が早い!⦆「あの、御放し下さいませ。」
「このままで良いではないか。」
「誤解されます。」
「良いのだ。婚約を申し込んだのだから。」
「えっ? 婚約?」
「そうだ、間もなく伯爵家に話がいく。」
「…………………………困ります。」
「私が望んだのだ。
聡明な其方にこそ、我が公爵家の次期公爵夫人が相応しい。」
「勝手に決めないで下さい! 嫌です! 結婚しません!」
「ふふふっ……あははは………面白い。」
「何が可笑しいんですか!」
「其方は飽きない。愉快だ!」
「私は不愉快です! 放して!」
放そうとしても、カールは力を込めて離さなかった。
その手を離そうとして私は繋がれていない右手で手を離そうとした。
そんなところを母に見られた。
母は急いで二人の元へ駆け寄った。
伯爵夫人の姿を見たカールの口から「チッ……。」と………聞こえた気がした。
そして、カールは手を離してくれた。
私は母の元へ駆け寄って抱きついた。
「まぁ……テレーゼ、幼子のように………。」
「お母様、帰りたい。」
「テレーゼ?」
「結婚は嫌………。」
「結婚?」
「お母様、我儘言って申し訳ありません。
なるべく早く帰らせて下さいまし。」
「……分かりました。」
「シュタウフェンベルク伯夫人、まだお茶がございます。
母が選んだ茶葉と菓子でございます。
是非とも、ご賞味あれ。」
「……まぁ、左様でございますか。
では、テレーゼ、頂戴板hしましょう。」
「………はい。」
「シュタウフェンベルク伯夫人、テレーゼ嬢。
どうかお座り下さいませ。」
シュタウフェンベルク伯夫人も私も笑顔を作って、お茶を飲んだ。
だが、私は全く美味しいと思えなかった。
カールの言葉が恐怖を呼び起こした。
結婚……カールとだけは絶対に嫌だ!と私は思った。




