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吹雪④

◆ジョージ十三世二十九年 十二月三十一日 一七時四三分


 膝丈まで積もった雪を、重装歩兵が踏み固めながら大路を北へ猛進する。通った後は、さながら除雪後のようであった。

「ウィル様!」

 馬上の私を先頭として、隊列が本部から歩兵の早足に合わせ伯爵邸に向かい始めて早々、偵察に出したサーリンガム騎兵が駆け寄ってくる。こうやって誰かが情報を持って走ってくると、大抵はろくなことにならない。ここ数ヶ月ずっと。

「どうした」

「ご報告いたしやす! 伯父殿の邸宅にて戦闘が開始されやした!」

 ほらみろ。

 彼らの到着時、いまだ近衛と伯爵私兵は睨み合いをしていたらしい。ただ、現れた騎兵を見てかなり動揺したようだ。我が方の伝令騎兵が接近し、所属と姓名を名乗り、まず要求を聞こうとしたところ……

「近衛から剣を抜いたんだな?」

「はい。奴ら斬り掛かってきましたぜ。正気じゃねえ」

 遠征に参加しなかった——生き残った近衛は、殆ど実戦経験のない女性部隊だ。仕方ないとはいえ、セリアはもう少し隊を統制できていて欲しかった。そもそも統制が効かない連中が叛乱したんでしょ。それはそう。

「お前達の人相が悪かったのもあるだろうが」

 サーリンガム騎兵は概ね、南部の牧畜家を兼ねている。人相は……まぁ南部の牧畜家、という感じだ。

「ウィル様はひどいことを仰る」

「王都のお嬢様方には刺激が強すぎたんだろう」

「違いねえ」

 幸い彼に怪我はない。だが近衛が剣を抜いたので、伯爵私兵が邸宅から弓を撃ち始め、近衛が柵を破って突入を開始。近衛と私兵らでの斬り合いが始まった、ということだった。

「で、どっちが勝つと見た」

「伯父殿には悪いですが、ありゃ近衛が勝ちますな」

「……私兵は精鋭揃いと聞いたが」

 ゆえに、護衛をわが邸宅にまわすは不要! とまで伯父上は言っていたものだった。

「まぁ、達人揃い、その上どういうわけか準備万端、ってな具合でしたが、なにぶん数が足りませんで」

「そりゃまあ……無理だな」

「無理でしょう」

 何かを企んでいたようだが、策士策に溺れる。セリアの人望が勝ったのか、兵を思った以上に集められ、結果窮地に陥っている、ということらしい。なんだか助ける気がなくなってきたが、あれでも伯父だ。

 肩の雪を払う。何度やってもすぐ積もるな。

「重装歩兵到着まで持つか?」

「厳しいでしょうな。散らせないかと騎兵突撃を模して威圧してみましたが、やつら伯爵邸の柵内に入っちまいました」

 手の施しようがない。大盾で囲んで説得するしかないか。哀れ伯父上は陰謀のプレーヤーから人質のカードに格落ちしてしまった。いや困ったな。

 まずは要求を確認しないことにはどうにもならん、いやそもそも剣を抜いてしまった以上、穏便に済ますことは難しく……

「殿! 殿はこちらか!」

 背後から、蹄の音がした。こうやって誰かが情報を持って走ってくると、大抵はろくなことにならないんだってば。

「今度はどうした」

「南門外に近衛の隊列が現れました! 先頭は近衛司令ダールガム男爵夫人メアリ様!」

「おぉ、もう……」

 出やがった。馬に身を預け、兜越しに頭を抱えた。


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