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卑弥呼2~あみの呪術

「姫ぎみに申し上げます」

怒りの声をかみ殺した老人である。


ご神託をあみから承ったというのに効果はなかった。

古代人たちはこぞって巫女あみに苦情を告げる。


我が國はどうなるのか。


隣接するライバルの國に敗戦をし先行き不安である。

国王はいなくなり國としての自治が保ってない。


「あの乱暴な隣國の領地に成り下がるんですぞ」


長年憎しみ合う隣國を支配するのならとにかくも。


「神の御告げとやらはなんであらせましたのか。姫の仰いますご神託はなんでございましたか」


なんでございましたか!


重ねて強く言い寄られ巫女たるあみに詰め腹を迫る。

あみは神さまの代理店に過ぎない。インスピレーションが浮かんだ点で御告げをなす。


「神の御告げは間違いのないもの。嘘偽りないものでございます」


あみ弁明の巻き。


古代人は納得ゆかない。


國はどうなるのか。今から煩わしい隣國の支配下になると思い憂鬱である。


「姫ぎみは暢気でございますなあ」


戦をなんだと思っているのか。皮肉ぐらいでは怒りは収まらない。


呪術の巫女でなければ単に年端もいかぬ幼女に過ぎぬのだ。


神の御告げを國の存亡のため伝える巫女である。


やたらめったらちやほやするから増長するのではないか。


老人はあみの存在を訝しげなものと思い疎んじた。


敵が我が國を領地化する際に忌まわしき巫女など不必要ではないか。


ズバァーンン


あみたちのいる小屋の外でけたたましい爆音が鳴り響く。


「さがれ~さがれ~皆のものさがるんだ。我が國の国王さまのお成りであるぞ」

敵國の軍隊が民衆を毛散らかし進行する。さも占領をなしたと我が物顔で宮中広場を占拠してしまう。


「今から"我が國"になる領地民たちよ。おとなしく聞け!」


乱暴な軍隊の背後におとなしそうな国王がちょこんと馬車に座っていた。


いかにも育ちのよいお坊ちゃんで争いことは好まぬ性格である。


「国王さま。この地は我が領地にございます。いかがでございますか。お気に入りますかなアッハハ」


長年交戦した戦禍としかの地を我が軍の力にて領地に組み入れようかとしています。


「軍隊は辺境警備を頑張ってくれました。これからは隣人國と争いは無くなるわけです」


槍や竹で敵を突く殺戮な交戦はなんど見てもこの国王には馴染めない。


「さっさっ国王さま。敵國の宮中でございます。今からは国王さまの持ち物でございます」


戦果ゆえ遠慮なく宮中にお入りくださいませ。


馬に跨がる国王が進行すれば軍隊がぞろぞろと続く。

占領された國は憐れなもの。宮中のみならず市場や田畑も荒々しき軍隊に好き放題にやられてしまう。


あみや老人たち古代人の潜む呪術の小屋も瞬く間に占拠されてしまった。


「おおっこやつが…」


宮中裏にある装飾品の数々で飾られた小屋。庶民の住む一角にはなく一際目立つ小高い丘である。


「この中にいるのか。呪いをかける魔術なんたらだな。どんな白髪のババァがいるのだろうか」


手荒い軍人は武器を握りしめ小屋の戸を押した。


「何奴がいるのだ!お前らは占拠された。おとなしく出て参れ」


呪いをかけたりすると承知しないぞ


ガサゴソ


横たわるあみの目に武器を携えた屈強な軍人が見えた。


ガサゴソ


「おっ~こやつが…」


幼女たる風情が巫女あみとは。一様に驚きである。


「どんなババァが生意気な御告げをして生きていやがるかと思ったら」


あみは目をパチクリするばかりである。


乱暴者の軍人はあみを連れていこうかとする。


「預言者か巫女知らないが」


小娘のひとりぐらい片手でヒョイヒョイ持てる。


あみをわしづかみしようかと腕を伸ばす。冑と剣がザカゴソと摺れ合う音が響きわった。


「さあっ小娘っ!俺と一緒にこっちに来い」


太く毛深な腕を伸ばす。


あみは顔をしかめて嫌々をする。


軍人はいきなり後頭部をガッツンとぶん殴られた痛みを覚える。


「いっ痛い。頭が割れそうに痛い」


激痛は全身に及び抱き抱えどころか立ってもいられない。


「うっう~」


顔から体から脂汗がひたりひたりしたり落ちる。


「ぬっぬっ…!こやつ妙な小細工(呪い)を…ワシにかけやがったなっ。ウグッ~」


その場に(うずくま)り身動きが取れなくなって気絶してしまった。


その場にいた部下の兵士は異様な様子を国王に知らせる。


「なにっ!かの國に巫女(みこ・預言者)がいるのか」


走り寄る兵士は国王に伝えて様子がおかしくなる。みるみる顔色が悪くなり脂汗を吹き出した。


その場にバサッと倒れた。

ぬっぬっ!


国王も取り囲む軍隊も丸く踞る兵士の異様さをまざまざと見せつけられた。


「呪いを術とする。巫女があるというのか」


国王は敵國の宮殿の前に足踏みである。今ここに支配下の領地であると民に平民に鼓舞をしなければならないのである。


「王さまいかがなされますか」


敵の國を支配下に入れたのである。戦禍の証し宮殿を我がものにするかどうか。

地面に踞る兵士は苦しさから嗚咽を洩らした。


ウッウ~


オッオ~


心優しい国王に兵士のようすは呪いの術と見る。


国王が宮殿入りを断念すると術は解ける。


「王さま~申し上げま…ぁす。かの國には術を使う奇妙な巫女が…」


踞る兵士は上を向いてピタリっと動きが止まる。


ウグッ


その場に倒れ気絶をしてしまう。


オオッ~


乱暴することが得意な敵軍の兵士一同。一様にカッと目を剥き異様さを全身で感じた。


「なんということであるか!余は…余は。見たこともない光景じゃ。信じがたい話である」


温厚な国王が唖然とする。

その背後に夕闇迫る宮殿がありなにやら一行が現れた。


宮殿の奥から色彩鮮やかな灯りが順々にぼんやりついていく。


光りの中心に巫女あみが現れた。


幼女あみは両脇をお付きの者(侍従や召し使い)に支えられ見ような姿は神体化されていた。


あみの姿に軍隊長は圧倒され国王と耳打ちをしなにやらヒソヒソとする。


巫女あみは後光が7つ輝いた。眩いばかりの神の光りはとてもこの世の幼女には見えない。


国王には巫女あみは畏敬を感じる神か赤鬼に見えた。

いずれにしても逃げなければ殺されそうだ。


よろけながら頭を下げる。

隣國に巫女やシャーマニズを操る者はいなかった。


「ハッハア~」


国王は腰が見事に引け尻餅をドンっとついてしまう。

抜け落ちた腰を引きずりながらいったん降りた馬車に乗り込む。はいはいをする赤ん坊のごとく。


逃げる国王を巫女あみはじっと見つめる。


国王はあみの視線を受けないように盛んに首を左右に振った。


「よいかっ。聞け!部隊の者よ。誰ひとり残らず退散をいたす」


国王は尻尾を巻いて馬車で退行していく。


気絶した兵士はドサッと荷物のように台に載せた。


パカッパカッ


敵國は軍隊も馬もものの見事にいなくなってしまった。


夕暮れた宮殿にはポカンとする老人医と侍従たちがいた。


「なんとしたことでしょうか。我が國は占拠されなかったのでしょうか」


敵國は宮殿を支配し領地化するためにやってきたのではないか。


「これはいったい…。いったい全体…。なんでございますか?」


宮殿の侍従は口をポカンと開けたまま身動きできない。


老人は知恵を絞った。


近隣抗争に痛い敗北をした我が國は支配をされても当然なのである。


「領地にされていないのは紛れもない事実。我が國は立派な自治体の國でございます」


宮殿を敵國から守ってくれたのは?


巫女あみの超能力!


あみの施す呪術は目に見えて強靭なものと誇示された。


「姫ぎみは…。こちらの姫ぎみは巫女たる女の子。いやいやシャーマニズであらせまする」


あみが役に立たぬと悪態をついた老人。畏れ多くなりと両手をついた。


幼女あみに土下座し頭をさげる。


「姫には感服いたしまする」


老人と侍従らはあみを左右からエスコートし宮中に入っていく。


「我が國はいくさにより国王さまが不在となりました。國に君臨する統治者は」

シャーマニズムを身につけた巫女がふさわしいのではないか。


「宮殿の主になられていただきたい」


続いて侍従たちも深々と頭をさげる。


「私がですか。この宮殿に住むのですか」


小学生の女の子が広い宮殿にひとりで?


「いやはやっ。失礼しました。気がつきませんでしたのう。姫ぎみ様の父母もお呼び立ていたしまする。ご自由に宮殿をお使いなさいませ」


宮殿に住むということの意味がわかっているあみはどうしたらよいかと思案する。


そこに辺境警備から伝令兵士が走りよる。


「親方さまに申し上げます。辺境警備兵からの伝令でございます」


敵國の国王と軍隊一行は我が國領地より出ていった。

「我が國を支配下にする素振りもなくきれいさっぱり撤退をした模様でございます」


戦勝をしたはずの敵は完全にいなくなる。


「おおっすべてのお蔭は。姫ぎみの呪術シャーマニズムでございます」


魔力という神の力が巫女あみから発揮された。


その場にいた侍従や家臣の数々は深々と頭をさげる。

ここに我が國女王誕生の瞬間をみるのである。

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