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卑弥呼1~あみは巫女さん

太古の日本列島はアジア大陸と陸続きである。


大陸民族が次々移動し陸続きをすたすた渡来し征服民族と化していった。


地殻変動後に陸地が割れ大海を形成し大陸との繋がりを塞ぎ日本列島を形成する。


海が自然の要塞ともなり日本列島は独自の文化文明を発展させついくはずだった。


そこに現れたのが海洋民族の(てい)を持つ異国から渡る民族たち。


一説では南方を目標にし東南アジア諸国を我が物顔で渡り歩いた。


海洋技術に長け幾多かの世代交代を経て日本列島を西から東からと征服をなしていく。


やがて


"ヤマト國"へと変貌を遂げていく。


有史以来古代史をひとつの通史として見てみる。


無土器~縄文~弥生。


緩やかに時代が移る変遷の時を垣間見る模様であり現代人にはよくわからないミステリアスなエポックであり続けている。


ここは現代の小学校の教室。


古代人になっていたあみは無事に現代人のあみに戻り教室にいた。


「ふぅ~現代に戻ったら戻ったで」


机の教科書があまり見たくないあみである。


"ヤマト族"に襲撃されたことはあみの記憶の彼方に押しやられてしまう。


古代人に紛れ群雄割拠のヤマト族にいたあみは戻り普通の小学生になっていく。

「あっあ~残念だなあっ。村長(むらおさ)くんは現代には戻ってないんだ」


古代人に父母と埋もれる決意をした村長。現代人の小学生のそれは抹消されてしまう。


「村長くんはお父さんお母さんと一緒に暮らしたいんだもんね」


その存在を知るのはあみだけであった。


数日後に小学校の片隅であみは耳に違和感を覚えた。

語りかけられたような


ざわめきのような


がさごそ


がぁ~がぁ


"あみちゃん~あみちゃん"

雑音は小さなもので聞き取れない。


がさごそ


がさごそ


周りがやかましいから聞きにくいのかな。


あみは校庭を走り校舎で人のいない場所を選ぶ。


がさごそ


がぁがぁ


あみちゃん


「うん。誰かあみを呼んでいるみたい」


小学校の空をキョロキョロ。呼んでいる声に微かな聞き覚えがあった。


「隣のクラスの男の子かな」


"あみちゃん!僕だよっ村長だよ"


呼び掛けははっきりわかってきた。


隣のクラスの村長である。

「村長くんなら」


あみは駈け足で教室に戻っていく。村長のいたクラスに戻ってみたらテレパシーがよく聞こえるかもしれない。


「ハァハァ~」


隣のクラス教室のドアをがらがらとあみが開けてみる。


「あらっあみちゃん。どうかしたの。あなたのクラスは隣です。お隣さんですわ。戻りなさい」


担任教師は驚きであり迷惑である。


「今から授業が始まりますからね。あみちゃんあなたは隣のクラス。ちゃんと戻りなさい。隣の生徒さんです」


"あみちゃん。あみちゃん"

あみに話し掛ける声は村長とわかった。


隣のクラスではテレパシーが明確に聞かれた。


「先生っごめんなさい。村長くんがあみを呼んでいるんです。村長くんはこのクラスの男の子だったんですよ」


このクラスに村長くん?


「あみちゃんあなたっ。クラスに村長(むらおさ)くんなんていませんよ。どうかしちゃったんですか」


迷惑なことです。


担任はやれやれである。


この娘さんは言うことを聞かないなぁ~


うんざりとした顔をする。

担任は教壇から降りてあみをつまみ出そうかとする。

教室に入るとテレパシーはクリアに聞き取れた。


"あみちゃんを呼んで申し訳ない。実は助けて欲しいんだ"


村長からのテレパシーはあみだけ理解できる。


"古代は平和な群集國で良かったんだ。だけど今は違う"


いつまでも出ていかないあみの前に立つ。


担任はあみに実力行使で退散してもらいます。


"(いくさ)が始まってしまった"


"群雄割拠(ぐんゆうかっきょ)の戦国時代に逆戻りしてしまった"


村長は訴えた。


古代人を選択してしまった村長は普通の弥生人である。


現代人であり超能力を数々持つあみに手助けを求めたのである。


「あみちゃん早く来て欲しいんだ」(クリアに聞こえる)


村長くん。どうしたの


「アアッ~」(なにやら騒乱の様子がわかった)


村長からの悲痛な叫びが最後に聞かれ古代からのテレパシーは途切れてしまった。


「あみちゃん!聞いているの。もうあなたは困った人ですね!早くあなたの教室に戻りなさい」


担任は怒り顔をしてあみの肩をポンポン押し教室から出してしまう。


「キャア~」


テレパシーを一生懸命聞いていたあみ。現実の人間に押され頭の中が混乱をしてしまう。


「あっイヤ~ン」


テレパシーの続きが聞きたいのに。


「授業の邪魔です!出て行きなさい。あみさんの担任はどうしていますの。怠慢なことですわ」


よその生徒が隣のクラスに現れては授業も進行しないでしょ。


押されたあみは廊下にドンっ。


キャア~


押し込まれ後ろによろけた。


ドタドタ


ドタドタ


あみは後ろを気をつけて振り向く。廊下に倒れないようにする。


キャア~


強引に廊下に押され背後を見た。


「えっ!そっそんなあっ~」


廊下そのものが揺らめき安定性のまったくない光景に見えた。


よろけたあみ


くにゃくにゃと揺れる廊下

あっ!


「いっイヤ~ン」


あみはからだがふわりふわりを感じる。


「あっ~アッアー」


現代人の小学生あみが古代人にタイムスリップしているっと体感する。


ヒューヒュー


あみはからだが千切れてしまいそうな激痛を感じそのまま気絶をしてしまう。


むにゃむにゃ


むにゃむにゃ


どのくらい気を失っていたのであろうか。


暗闇のあみは耳の回りにザワザワと人ごみを感じた。

ごそごそ


ヒソヒソ


むにゃむにゃ


あみは呼吸が楽になったと感じる。目は開かないが雰囲気が異なることを悟る。

「姫は起きませぬか」


あみの額に冷たいタオルがあてがわれた。


ピシッ


古代人の会話だとわかる。

「タイムスリップしたみたい。ざわめきは現代人の小学生のそれと違っているもの」

古代人のざわつきは収まらない。眠るあみの枕元に入れ替わり立ち替わり人が寄る。


目はまだ開けられない。それに眠気は全身を襲い意識朦朧はあみの判断能力を鈍らせていた。


頼りは回りから聞かれるざわめきのみ。


「姫は我が國を救いたまうものぞ」


枕近くの声は老人であろうか。冷たいタオルを頻繁に交換している。


現代人なら老人は医者という存在である。


話の内容がよくわからない。また古代人であるため発音や日本語が完全には理解できない。


眠るあみは病床の身をいいことに耳をピクリっとさせ状況を把握する努力である。


「姫は起きなさるのかっ。流行りに病んでしまい元気にならぬではあらぬか」


額にヒヤリ。


全身に布団のような重さと温かみがある。


老人の他には軍隊の将校や兵士が部屋に出入りしている。


兵士が入ってくる。


ひとりふたりと多人数のようで部屋の空気がモワッとあみに伝わってくる。


「申し上げまする。敵は大軍の模様でございます。これからの(いくさ)は姫に進言をいただきとうございます」


敵陣は強靭らしく軍隊の動きはにっちもさっちも立ち行かない。


「姫っがか?いまだ目をお覚ましにならぬゆえに」


姫に進言?


あみの耳はピクンとしてしまう。夢うつつに聞いてしまう。


「まだまだ姫さまは危篤であらせます。進言をされるまではいけませぬ。軍隊が待てるはどのくらいか」


第一に姫は元気に回復をされるかどうか。


「これだけ痩せてしまわれては。安否は答えられませぬ。最悪は否かもしれぬ」

老人は軍人将校にゆっくり首を横に振るのである。


先行き不安な病状であるといささかも消極的である。

「我が軍は軍隊長を指揮に最善策を講じ攻防をしておりまする。如何せん敵軍は巧妙ゆえに戦線は芳しくなきでございます」


武力に優る敵なる軍にしかる。


「姫さまの進言があらば逆転勝利も望まれましょう」

軍隊の幹部は預言者と見られるあみの寝顔を名残惜しく睨みつけた。


「目を覚ませばよきものを」


病床にある健やかな子供に頭をさげた。


古代人の会話に理解ができた。交戦の現状をあみは察知する。


「やれやれっ。またまたややこしい古代人にあみはなってしまったなあっ」


あみのいる國は近隣にある大小なる群生國(くに)村邑(ぐに)が覇権争いのため交戦をしているようだ。


「あみの小学校のお話ならお昼休みのドッチボールで勝負がつくのになぁ~」


殺伐とした陣地取り合戦は無駄な流血騒ぎが伴う。


幼い小学生あみはやれやれっと思う。


寝ても覚めても戦争ばかりの古代にタイムスリップして後悔してしまう。


「古代人は争いが好きなのかなあ」


ぐぅ~


「あっ(お腹が…)恥ずかしいなあ」


うん?


老人は木の葉っぱ(布団)からの音に怪訝な顔をする。

「眠っている?起きているのか。おかしいな」



顎の白い髭を撫で上げ疑問符を投げ掛けた。


「こんなに幼い娘っ子である。呪術を使い敵國を倒すというのか」


あみの華奢なからだが武器を携え威圧感があるわけでなし。


「如何様に考えても矛盾がありだ」


老人はポンポンと手を叩く。部屋に従う侍従に知らせた。


眠るあみの鼻に雑炊の椀を近くしてみた。


うっうっ~


「うわっ~美味しい匂いだわ」


空腹感があみを襲いかかる。


グゥ~


あみに援助を求めた村長の統治は宇佐にある。


(現在の大分県宇佐八幡宮)

南方より順次日本を攻めてきた渡来ヤマト族。


九州一円を宇佐に豪華な宮殿を建立(こんりゅう)し治める。


外敵との攻防を考慮して最善なる都市計画から宇佐に首都である。


だが…


"あみちゃん!あみちゃん!聞こえるかい。返事してくれないか"


宇佐の宮殿から村長は悲痛な叫びをあげていた。


首都機能を兼ね備える近代的な宇佐が外敵に襲来されたのだ。


「うんっあみも助けてあげたいんだけどね」


古代人にタイムスリップのあみはだいぶ頭が冴えてくる。


「あみも起きたいとは思うんだけど」


病床から起きあがったら


あみの古代人の身分はなんであるか。


古代人の役柄もなんであるか。


村長の宇佐に攻め入る悪い民族の外敵であることもある。


「もう少し寝てましょ」


グゥ~


宇佐に攻める外敵。決して悪ではなく有史以来住む民族でヤマト族こそ"外敵"であった。


先住民は縄文民族たるこちらである。占有権特権があるならば先住民という話である。


太古の縄文時代から平和的に住む先住民。いつの間にかわけのわからない南方渡来の襲来に見舞われ制服をされてしまった。


舟や青銅器を巧みに使い平和で争いを知らぬ牧歌的な民を領地化してしまう。


ひとたび支配したらあれよあれよっと言う間に宮殿を建造し計画都市をなしてしまう。


先住民縄文人にして見れば南方からの渡来ヤマト族は脅威であり招かざる客以外なにものでもない。


"古代人のあみちゃん"


アッハハと村長から笑い声がわきあがりそうだった。

善悪の尺度を当て嵌めたら"憎き民族"が村長のヤマト族なのである。


「あちゃあ~そんな話になっていたんだぁ~」


ヤマト族って…


後から渡来して


ズルいなあっ~


"あちゃあ~それを言わないで"


ズルい


ズルいぞ!村長くん


超能力を保持するあみは宇佐にはいかなかったのである。

海洋民族のヤマト族。海と決別し丘に上がって宇佐宮殿建立の真っ最中に先住民族に"反旗を翻えされて"しまった。


宇佐の首領(どん)である村長は宮殿を攻め崩され逃亡を選択する。


「強いはずのヤマト族だったのに」


村長の親類筋(父母)と少数の家来とともに宮殿裏からこっそりである。


「宮殿の生活はママよだった(良かった)。何事も不自由なく優雅なものだった。それが今は逃げねばならぬとは」


贅を尽くした宮中生活が父親には名残惜しいのである。


家来の御する馬車に揺られながら宇佐の宮殿を懐かしむ。


「あなたっ!何を呑気なことでございましょう。非常時の今は戦禍の嵐でございましょうに。命拾いをしたからこそ逃げねばでございましょう」


宮中の中は平和であると思ってはいけない。贅沢な生活を満喫していたら命がいくつあっても足りはしない。


「うっうっ(泣き)そうもそうも私を責めてくれるな」

夫婦揃って豪奢な晩餐をイヤっというほど楽しんだではないか。


「それはそうと」


宇佐を逃げ我々の馬車は何処へ向かうのか。外敵なるヤマト族は先住民縄文からは至るところ命を狙われてしまう。


早馬を駆り立てる御者にそれとなく目的地を聞いてみたい。


「(ヤマト國王の司令部から)厳命によりまして御すものでございます。馬車は一目散に一路博多(福岡県)を目指しおります」


宇佐から博多まで一気に進む。現代のクルマを使ってもかなりな距離である。


「我々南方渡来のヤマト族は九州本土では厄介者でございましょう」


難敵が数知れず


南方の民を追い出せ


異民族は出ていけ


縄文の世界に他の外来民族はいらない…


九州を離脱し新たなる生活の地を求めていこう。元来我々ヤマト族は南方よりの海洋民族。


九州に拘る術もない。


博多まで馬車を御したら海を隔てて下関である。


「おやっ九州を離れるのでございますか」


父母はたぶんに観光気分に浸りである。


"あみちゃん!あみちゃん"

村長はあみの居どころを知りたい。


「今から僕らは下関に至るんだよ。御者の言うには山陰道を海に沿って走るらしい」


下関に入り現代の山口県をずっと東へ走り続ける。


"助けて!あみちゃん"


馬車に揺られ村長はあみに助けを求める。


"馬車はいつ敵から襲撃を喰らうかわからない。あみちゃん助けて欲しい"


村長は涙ながらにあみにSOSを発していく。


目的地出雲(いずも)に辿り着く道中にしろどこからも襲撃をされるのではないかと恐れた。

うっうーん


テレパシーであみの頭はごちゃごちゃになる。


村長からのレスキューSOS

看病をする老人からの覚醒への誘い


あみの頭にひんやりと冷たい感触が伝わる。


「姫はまだ目覚めなさらぬか」


解熱がみられるならば体調も戻ってくるのではないか。


長く眠るあみの枕元に入れ替わり立ち替わり軍の将校が訪れる。


「我が軍の勝ち負けは姫の呪術(シャーマニズム)に頼らなければならぬのです」

天の動き


地の鳴動


敵軍の正確な動き


あみの呪術と先見の明があればすべてを味方につけることが可能である。


「うっう~」


(うな)される呻き声。


額に冷たいタオルをあてがうと声を発した。


空腹のグゥ~とはっきり違う。


老人は目を見張る。


枕元に侍る将校もあみの覚醒に身を乗り出す。


「姫が目覚めましたぞ」


一刻も早く元気になられよっ姫ぎみ!


将校は"あみの目覚め"を軍隊に知らせた。


「劣勢なる我が軍隊。姫の呪術で勝ちに転じてみせようぞ。一兵卒らよ!(ひる)むでないぞ」


あみの呪術(シャーマニズム)とはなんであるか。


現代人のあみは縄文や弥生人から見たら聡明でインテリな女の子。


小学生であるが学校の勉強もよくできた部類に入る。歴史などの社会科は得意科目である。


「おおっ姫っ。お目覚めであらせますか」


呼び掛けられうっすらと目を開けるあみ。古代の家屋や古代人がぼんやりと見えてくる。薄明かりの家屋は田舎の様相で自然界そのものである。


「ここは。どこなの?私はなにをしていたの?」


現代からタイムスリップをしたことは記憶にありわかっていた。


問題はどこの時代に到着しているかである。


「おおっ姫っ。長く眠りなさいましたな。ご機嫌よろしゅうに」


老人は医者らしくあみの細い腕を握りしめ脈拍を測る。


「落ち着きましたな」


栄養価の高い雑炊を食べていただければ快復である。

目覚めたあみは酔狂な顔つきである。古代の経緯を歴史上の出来事を老人医から聞かされなければならないのである。

「姫っよくお聞きになられてくださいな。目覚めたばかりで頭が冴えぬかもしれませぬかな」


目覚めたばかりも関係ない。國と國。邑と邑。勝つか負けるかの抗争の真っ最中である。


神の御告げをなす巫女あみに呪術を求めたい。


民族抗争の種を話し(いくさ)の成りゆきを教えておかなくてはならない。


「姫さま。しっかりお聞きくだされ」


老人はその場に正座をしてしゃわ枯れた声でぼくとつに語り始めた。


古代人あみのいる國は近隣諸國との國や邑との抗争が絶えない。


群雄割拠(ぐんゆうかっきょ)なる諸國は國の領域を確保するため大なり小なり軍隊が組織されていた。


軍隊の兵士が防波堤となって異民族の侵入を拒み自治の維持に努めていた。


だが度重なる近隣諸國とのいさかいや隣邑との小さな抗争・(いくさ)において兵士は殺され軍隊そのものが疲弊していく。


闘えど闘えど戦禍は終わりをみない。


武力を行使すれどもたいした論功もなく勝ちは見えない。


槍で突こうが


弓矢を放ち


敵を射とうが


國に平和は訪れはしない。

兵士がぼやくうちは良かった。そのうちに近隣諸國の抗争は激しくなり領域を侵される闘いが増えてしまう。


兵士たちの体力を無駄に消耗し白旗を揚げる一歩手前になっていた。


「我が國は負けてしまいます。ああっ頼みの綱たる軍隊は次々兵士が殺されて領地を死守できなくなっているのでございます」


国王たる領地の首領(ドン)は頑な男だった。


「負け戦を拒むのでございます。いかなる劣勢を見ても敗戦たる講和条約を和議しない考えをお持ちなんでございます」


軍隊指令部はもはや敗戦を宣告してしかるべき。


傷ついた兵士を助けあげ無駄な人命損失を阻止してやりたい。


「姫さま。何とぞ後宣告を!(みことのり)を賜わりたく存じ上げまする」


老人は深々とあみに頭をさげる。いやっ老人だけでなく國の首脳陣(大臣や次官など)も巫女のありがたい宣告・詔を授けて欲しいと重ね重ね待つのである。


あみは予知能力が備わった巫女であった。


あみの詔は古代人には神託となり疑いもなく信じられていく。


「お話はわかりました。神様からご神託を承ります」

古代人たる老人に現代人あみは神妙に答えた。


現代人の言葉はハキハキとしたもの。あみの受け答えは古代人たちに別の世界の人間に思えくる。


"あみ!あみ!聞こえているかぇ~"


あみの脳裡にテレパシーが入った。


誰かしらっ?


"あんたはんにご神託したるさかいなぁ~。あみはんしっかり聞いてえなぁ~"

あみ自身が怪訝な顔をして神の御告げに耳を傾けた。

「御告げがありました。神のお言葉を申し上げます」

巫女のあみは古代人に御告げをする。


…国王を宮中より外に出しなさい。


領域を死守する兵士たちは国王のために戦う。


「国王は直接に軍隊を指揮されよ」


おおっ~


古代人にどよめきが上がった。


無能なことで有名な国王を最前線に連れ出せという御告げ。


「あみさま。それは気がつきませんでしたな。国王が直々に戦況を見聞されたならばよかろうに」


あみの元から使者が宮中に走る。領域の劣勢は1日も持たないかもしれない。


国王でもなんでも"立っているものは親でも使え"である。


最前線に出向けと言われて国王は激怒をする。


「余を誰と心得る。余は国王なるぞよ。軍隊は軍団ではないか。司令塔に余はならぬ」


使者は巫女の御告げであると繰り返した。


「巫女の…。神の御告げが余を駆り出せとな」


巫女には逆らえぬ。


神の御告げに逆らえばいかなるしっぺ返しが我が身に降りかかるかしれない。


「余は嫌であるが」


しぶしぶと甲冑や鎧兜を武装する。


宮中を一歩出たら兵士たちにすぐさま担がれ領域に一直線である。


「さように急ぐなっ。余は心が準備されてはおらぬ。ゆっくりしろ。早馬はやめじゃ」


我が儘な国王の戯れ言を聞いてなどいられない。


一刻も早く白旗を掲げたいのである。


敗戦を認め負傷者続出の同僚兵士を助けてやりたい。

「王さま。まもなく最前線に到着でございます。司令塔の砦はあの小高い丘にある小屋にございます」


ギクッ


いよいよ戦いの真っ只中に飛び込んでしまう。


馬から降りたら敵陣の姿が川を挟んでちらほら見え隠れしていた。


若い兵士らは軽快な動きをし司令塔にすたすたと進んだ。


高齢の部類に入る国王はどんくさいのである。甲冑は重く馬から転げ落ちようかと動きは鈍い。


馬を納屋に連れていくと敵からの弓矢が飛んくる。


アッいやっ~


兵士は国王を敵から守ってやらなければならない。


しかしそるは兵士自身に安全が確保されている場合のみではないか。


若い兵士たちは危険を察知しスタコラと安全な屋代(やしろ)司令塔の小屋に逃げるのである。


「まっ待ってくれ!余はどうなる。国王の余は敵から丸見えではないか」


逃げ遅れた国王は兵士に怒鳴り散らす。


よりいっそう敵陣に存在と位置関係が明確にわかってしまう。


シュ!


ぐさり


国王の甲冑のお尻に鈍い傷みが走った。見事に毒矢が命中をしたのである。


ウグッ!


毒のまわりは早くみるみるうちに臀部から血が流れ青紫に変色を果たしてしまう。


「たっ助けてくれ!余は死にたくはない。余を助けてくれ」


国王は下半身が硬直化し司令塔に這いずりながら顔を向けた。


シュ!


シュ!


容赦ない弓矢は身体の至るところに的中をしてしまった。


「おいっ国王が」


司令塔にいる軍隊は唖然として国王の最期を見届けるとざわざわとした。


やがて軍隊最高司令官統帥が白旗を木の棒にくくりつけ敵陣に示してみせた。


それ以後に弓矢が射られることはなかった。


巫女あみには領域で軍隊が降伏した知らせが届く。


「ウヌッ我が軍が白旗でございますと」


老人は不快感を露にした。

巫女あみの詔は嘘っぱちだったのか。憂国の志を巫女に見出だし勝ち戦を導きたいと願ってみたが。


司令官より伝令の使者が到着するとあみのまわりに人だかりである。


「姫ぎみに申し上げます。我が軍隊は辺境近辺の異民族に降伏いたします」


いくさに負けたのである。

負けたことのみが強調され伝令されている。


巫女あみは神妙に司令官からの報告を承る。


「わかりました。我が國は辺境の民族國に屈してしまったのですね」


国王がわざわざご神託に則り最前線に駆り出したというのに。


劣勢なる戦況は好転をしなかった。


老人は納得いかない。これは巫女あみの責任問題に発展しかねない。


「姫ぎみに問いましょう」

これまで辺境の國と交戦を繰り返し優劣がつくこともなく互角であった。


しかしあっさり敗戦してしまっては長年にわたる怨念の数々が降りかかってくる。


「負けたからには近辺民族に領地化をされ傘下にならざるを得ないでございます」


憎みに憎んだ近辺諸國の奴隷か臣下を老人以下國の幹部は覚悟であった。


ライバル國に屈した悔しさを老人はあみに向けた。


「姫ぎみに申し上げます」

老人の顔面から憎悪の様子がうかがい知れた。手元に武器や凶器があらば一撃されそうである。



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