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古代1~弥生時代のあみちゃん

ああっ眠いなあ~


アワワッ~


お昼過ぎにアクビをひとつする小学生のあみ。給食に出た大好きなカレーライスをペロリと平らげていたく満足げである。


「カレーはちょっと甘い感じが物足りないなあ。グツグツ煮て一晩寝かせてくれなくちゃ。あみのおばあちゃんのカレーライスだったら美味しいのよん」


給食のおばちゃんにカレー味の文句をたれるあみである。


うん?


アクビ娘はお昼から社会の授業である。


歴史・政治・経済と興味のわかない分野ばかりが待っていた。


暗記科目が苦手なあみはうんざりしてしまう。


「いや~ん社会科なんてつまんないなあ。カレーライス食べたら帰りたくなっちゃうなあ」


机にちょこちょこと社会科教科書を置く。


ふぅ~


教科書を出すがページをめくる気はわかない。


出るのはあみの溜め息だけ

「早く授業終わらないかなあ。これが済んだら帰るんだもん」


帰り道は仲良し三人組とアイスクリームを食べるのである。


キンコーンカンコーン


授業は始まった。


担任は礼をすると黒板に白墨で題目を書く。


『邪馬台国』(やまたいこく)


『卑弥呼』(ひみこ)


アチャア~


難解な文字が現れてあみはウンザリさんになる。


ウワッ~つまんなぁ~い


お昼に食べたカレーライスが満たされ眠気がひそやかに襲う。


担任はあみの眠気を知らず授業を進める。


「皆さんはこの国と女王さまを知っていますか」


板書を終えると担任はクラスを見渡した。


うつらうつらと寝入りそうにしているあみを発見する。


「ハイッ!あみちゃん」


質問に答えてください。


えっ!(なんだ)


パッと目が覚めた。スクッと立ち上がりあみは戸惑う。


担任の質問を聞いていないから答えがわからない。


「えっとぉ~」


困ったあみはお下げ髪の先ッぽをクネクネと回し始めた。


クネリ~


クネリ~


ポワァ~ン(現代から消え失せ)


ポワァ~ン(古代に現れていく)


あみはグルグルと目が回り立っていられない。目だけではない。足腰が独楽の回転のようにグルングルン動き始める。


ウワッ~


あれっ~


「あみちゃんは…」


身体がふらつき。


「あみちゃんは変よ。どっかしちゃったかな。あれっあれっ」


あみの視界が消えた。身体そのものがぐちゃぐちゃにされて認知できなくなる。

強引にブラックホールにぐいぐいと吸い込まれていく。


かなり強い力をあみは全身に感じる。


怖いわあっ


お父さんお願い助けて


クルックル


身体がどこかわからぬ世界へ吸い込まれていく。


ギェ~


あみは気絶してしまう。長い時間の眠りを経て意識が徐々に戻りつつある。


「もしもし」


パンパン


「ううっん」


頬っぺたをピシャッと叩かれた。


ブルッと震えあみは覚醒する。


「(おおっ起きなさりましたなっ。大丈夫ですかな。長くここに眠っていなすったぞ)」


うつらうつらと目覚めたあみ。目の前に見知らぬ老人が"聞き取れない言葉"で話しかけてくる。


あみがうっすら目を開けると親切そうなお爺さんたちの顔がそこにある。


「…」


(娘が目を覚ましたぞ。爺やは若い衆に村長(むらおさ)を呼んでくれ)


「お嬢ちゃんはどこの(くに)からやって来なすったのだね。お父さんは?お母さんは?」


横たわる寝床のあみ。事情が呑み込めずにぐるりと回りを見渡した。


ううっん


なにかが違う。


目覚めは悪く頭はガンガンしてぼんやりさん。どうにも釈然としない。


身体全体もふわふわという感じ。足が地につかない。雲の上をさ迷うか瞑想をしているのか。


「うん?あれっ」


老人の呼び掛けにあみはパチッと目を見開く。


寝床から異様な雰囲気に気がついていく。


横たわるあみを心配し見守る爺や婆やの姿。生まれこのかたあみが見たこともない着物(木の葉)を身に纏っているではないか。


あみは"みのむし"が人間になっているのかと思ったほどである。


あみはぐるりと様子を眺めてみる。話しかけた老人らは一様に背が低い。


小学生のあみからみてさして違わない背丈だった。


※小学生あみからすれば老若男女だがこの当時の民族は早死。長く生きても40~45歳程度ではないか。


「起きなすったなっ。可愛いらしい娘さんだからもしものことかあれば大変だよ」


老人らのザワツク話はあみに聞き取れない。どこの國の言葉をしゃべっているのかさっぱり理解ができない。


「小娘が起きなすった。連絡した村長は来なさるか」

伝令に走った男は爺やに是であると返事をした。


「村長が言うには」


伝令に走った男は声を潜める。


「奴國(なっこく・敵対する国)の娘が河に流され辿り着いたかもしれぬとのことゆえ」


奴國であるならば…


娘であろうがなかろうが槍で突き刺し首をはねてしまわねばならぬ。もし敵國の小娘であるならば。


あわよくば村長(首領)の娘なら"人質(ひとじち)"としての価値がある。


生かしておき身代金を強奪(ふんだく)ってしまえ。国王の大切な娘ならば命と引き換えだ。


國を領地にしてしまえ。


「身なりがきちんとしている。見たとこですが高貴な身分の娘は間違いないものですぞ」


いずれにしろあみの処遇は村で一番の長老の慧眼にかかっていたのである。


ゴォーンゴォーン


椰子の実が銅鑼(どら)のような鐘の音を立てる。


「おーい村長(むらおさ)さまがおいでなすったぞ」


老人らはサアッ~と全員が並び村長のお出ましを歓迎をする。


ハッハァ~


家から飛びだした老人らは一列に平伏す。村長(むらおさ)さまの御成りは無礼があってはいけない。


草木の生い茂る道の真ん中に荘厳な隊があり一馬上に小柄な(むらおさ)がいた。


「この家なのか」


南国情緒溢れる家造りを指差して老人に聞く。


「ハッハァ~さようでございます。三日三晩昏睡した小娘がおります」


小娘かっ


気のせいか声はブルッと震えている。気の弱い小男であった。


小男はよっこらっと馬から降りる。降りたことは降りたが気乗りのしないものである。


灼熱の太陽が燦々と降り注ぐ夏だった。


小男はだらしなく馬から降りるとよろけてしまう。


「小娘かっ。ここにいるのは若い娘なのか」


小男は老人たちにはシャキッとした顔つきを作る。村長としての多少の威厳を保ち家に入っていく。


ガサゴソ


土間に足音がありあみは気がつく。誰が来たのだろうか。


ぼんやりとした頭で入り口を見ると…


アッ!


驚嘆はあみだった。


ギクッ


気の弱い小男(むらおさ)はあみの驚愕に一歩と二歩とたじろいだ。わけのわからぬ小娘はこの世の仮の姿。

変身をして口から火炎放射があるのではないかと妄想をする。


「あらっ貴方は」


あみは村長をよく見ると親しげな表情をしてくる。


「いったい私はどうなってしまったの」


今度は村長(むらおさ)が二度めの驚きである。あみの話す言葉が現代風と通じたのだ。


あみがタイムスリップしたのは古代の弥生時代である。


精神と年齢は現代の小学生あみのままではあるが肉体は古代の小娘に転じてしまっいた。


はつらつとした元気な小学生あみではなく穀物と魚介類の摂取に頼る弥生原始人の装いである。


気弱な風たいの村長はあみと同様に現代からタイムスリップをしている。


あみとは隣クラスの同級生だった。


「あみちゃんだね。小学校の隣クラスの女の子だよね」


村長(むらおさ)は現代の言葉を使い潜めて話す。外に整列をして平伏す老人らに聞かれたくはないのである。


「はいっあみです。小学校五年生のあみです。今目覚めたらこんな(古代人の)格好になっていたの。もう私っわけがわからないわ」


村長も頷いた。


「僕だって…」


小学校の給食を食べてクラスの仲間と遊んでいたら急に眠くなってしまった。


「そのまま記憶が飛んでなんかからだがグルグル回り出してしまってね」


目覚めたら古代にタイムスリップしてしまった。


「あみちゃんは古代人になったばかりだ」


こちらの世界の様子はわからないだろう。村長はかれこれ数ヶ月トリップしている。


「古代人の言葉はじっくり聞いていくとわかってくるんだ」


好奇心旺盛な小学生に取って言葉に関する吸収力は目を見張るものがある。例え英語・フランス語であったとしても。


さらに好都合であったのは喋っている古代人日常会話の単語が少ない。知能としては小学生クラスであった。


ひととおり聞いてしまえば容易に理解ができた。


事情がわかってくると村長は"同級生のあみ"を宮殿に連れて帰ることにする。


「老人たちはあみちゃんが敵対する國の姫ではないかと言っていたんだ」


敵國の小娘ならば…


村人のいる目の前で石器を用い殺害しなければならない。村長としての権威を臣下たる老人たちに鼓舞しなければならない。


「人殺しはこりごりだよ」

馬に乗り村長は道すがら國情が不安定であることをあみに告げる。


いくさをして戦勝協定で国境を取り決めても破ってしまう。定めても定めても敵対國は攻めてくるのである。


常に國境は荒らされ戦争・騒乱状態に陥っている。


「それって信長や家康のいた戦国時代みたい」


社会科・歴史など興味もなかったあみに史実を語らせてしまう。


宮殿に着いたと村長はあみに告げる。


「えっ宮殿(パビリオン)って…」


村長が言う宮殿だから。あみはハリウッド映画に出てくるような豪奢で堅牢な建物を想像した。


「これでも宮殿なんだね。ごめんなさい。質素過ぎたね。がっかりしたかい」


一昔前のアフリカの原住民が住んでいそうな粗末な藁葺き屋根と高床式住居だった。


「時代は古代の弥生だもんね。縄文よりは少しマシな住居になるんじゃあないかな」


村長としてこの國一円をグルグル回って見たがこの宮殿の藁葺き屋根が一番立派な住居になるらしい。


「見た目は粗末なものだけど。中に住んでると結構快適なんだよ」


村長はあみを宮殿に案内することにする。


ふたりが馬から降りると臣下がサアッと寄り添い手を差し伸べてくる。


「あみちゃんは友好國関係の姫さまだと言ってある。ちゃんとした主もうけ(もてなし)をしなさいよっと臣下に命じてある」


女性臣下たちはあみの手を取ると一番大きな宮殿に導いていく。


「姫さまでございますね。かわいい衣装を整えたく思います」


女性臣下は笑顔であみにどうぞと言う。ひとりの臣下がてきぱきと指示を出す。ファッションコーディネーターの役目である。


言葉がわからないあみはキョトンとするばかりである。


だが…


コーディネーターから木の皮や繊維性の葉っぱなどを身に纏いなさいと言われると。


「あれっこれって」


小学生のあみにはミノムシのようなずんぐりむっくりさが洋服に見えてしまう。

「姫さまはかわいいでございますね」


コーディネーターが次々に衣装を持って現れるとあみに似合うかと試してみる。

あれこれと身につけていくうちにあみはその気になってファッションショーを満喫する。


「きゃあ~これかわいいなあ」


パイナップルの皮で作られた衣装が前にある。いかにも華やかで艶やか。活発な女の子のあみに似合う色彩だった。


「姫さまはお気に入りでございますか。良かったわ」

ごちゃごちゃと女性臣下たちの言葉を聞いていくあみ。


あららっ不思議。


あみは単語の意味がわかってくる。単純な言葉を繰り返しているようで理解が容易である。


「嬉しいでございます。かわいいわでございます」


嬉しい?


かわいい?


「姫ぎみさま。お似合いでございますね」


姫?


だんだんとわかってくる。

あみが感謝するとコーディネーターは軽く会釈をした。


「お気に入りでございますか。よろしくて」


作られた衣装類はあみの乙女心を見事に射抜いてくれた。


見た目はミノムシだが肌身につけてみると清々しさも感じられた。


「姫さま。衣装が決まりましたら村長さまに参ります。お待ちかねでございます」


本殿まで案内をされるあみ。道中は常に女性臣下が付き従いまさにあみ姫である。


「本殿でございます。村長さまと國王さまがお待ちかねでございます」


國王?国王って"King(キング)"がいるの?


本殿に案内をされると扉を開けてみる。やぐいような土塀が宮殿のドアである。

チラッ


あみは本殿の中に顔を見せる。落ち着いた女性の声が聞こえる。


あみちゃん?よくいらっしゃいましたね。


あみは聞いてみる。古代人の言葉ではなく現代人の呼び掛けである。


しかもあみは聞き覚えがあると思えた。


どこかで聞いた女性の声である。


はてはて?誰だったのか


「あみちゃんいらっしゃいませ。本殿はこちらですよ」


扉越しに香ばしい料理の匂いが漂ってくる。


あみの前には暗闇と座敷があり声の主がよく見えない。


臣下が暗闇に2~3あり突如ボワッと炎をあげる。料理のための料理人らしく囲炉裏(いろり)に点滅する。


臣下の手により土鍋が敷かれ炎のはグッと燃え上がりグツグツ煮あがる。


本殿に漂う匂いから鶏肉や野菜の煮物のようである。

炎の背後に僅かに三人の影が見える。


「あみちゃん。本殿に入られたら」


同級生の村長である。


「扉はしっかりと鍵をかけてください。老人たちに覗かれないようにしなくてはいけません」


声の主は國王である。言われてあみはハッとする。


「この男の人も聞き覚えがあるわ」


女性も男性もあみは記憶を辿る。


ゴォーン


銅鑼が鳴り響き本殿に灯りが与えられた。あみを歓迎する晩餐会の用意が整ったのである。


「あみちゃん元気そうね」

女性の声は女王である。


「まったくだな。小学校の運動会以来じゃあないかね。懐かしい」


ウウッ~


運動会?


國王さまと女王さまをあみは見た。


運動会以来というふたりをしっかりと見つめる。


アッ!


そこにいる男と女は同級生の両親ではないか。


「あみちゃん驚かないで聞いて欲しいんだ」


村長の同級生が晩餐の端に座り込みあみに説明をする。


同級生の両親は2年前に飛行機墜落事故に巻き込まれ悲惨な最期を遂げていた。

「そんなんだ。僕のお父さんとお母さんなんだ」


黄泉の国に思し召した御両親は古代人となり生まれ変わっていたのだ。


「お父さんに飛行機事故の記憶はないんだ。あるのは」


古代人のお父さんでありお母さん。そして國という地域領地を支配をする國王と女王であった。


「あみちゃん。僕はお父さんに再会ができて嬉しかった。僕の記憶からあの忌まわしい飛行機墜落がなくなってくれたら」


いつまでも黄泉の国にある両親と仲良く暮らしていけたらっと願うばかりである。


「へぇ~驚いたぁ」


驚くあみも母親を早くに亡くしている。古代人の世界にいると黄泉の国から母親が"あみに逢いに来てくれる"かもしれない。


「小学校の運動会。あみちゃん頑張っていたなあ。玉転がしに徒競走。ちょこちょこ走るあみちゃん素晴らしいね。クラスの優勝に貢献してくれた」


(父親の)國王は懐かしげに話しかけてくる。飛行機事故直前の思い出を繰り返した。


國王の横に微笑むのは母親の女王さまである。


「さあさあっあみちゃん。お腹がすいたでしょう。晩餐を召し上りましょう」


女王に箸を取りなさいと言われる。あみはお腹がグゥ~。


あみは徐々に昔の運動会や小学校の様子を思い出す。

運動会は父兄や教師に大声援を受けて力一杯跳び跳ねた。


「私がカケッコで一番になったの。クラスのみんなから"あみちゃん頑張ったね"と祝福されたわ」


あみの父親も運動会に来てくれていた。それは覚えている。


母親がいないあみは父親方の祖父母が父兄の代わりに観戦に来てくれた。


だが母親には敵わない。


仲良しのクラスメイトが母親から声援を受けてにっこりしたことを思い出す。


あみは淋しくカケッコの勝利者になっていた。


あみの顔が曇りがちである。同級生の村長は雰囲気を変えようかとする。


「あみちゃん遠慮なく食べて。古代人の料理人は腕がよく自然食ばかり」


現代人と違って太陽の恵み大自然のミネラルが豊富な食材ばかり。


「お肌が艶々になるんだ。女王さまの美貌は自然食のおかげ」


美貌の女王と言われた。年齢は30歳前半の母親はまんざらでない笑顔である。


「あらっ村長ったら。お口がじょうずですことオホホ」


愉快な親子のもてなしと美味しい晩餐であみはすっかり打ち解けた。


「あみちゃんは(友好の)那國の姫ぎみさまなんだよ」

晩餐がお開きになると村長はあみに切り出す。


國王の君臨するこの領地は常に戦場と化し国境には屈強な兵士を配備してある。

「僕は人殺しは嫌いなんだけどね」


侵略者を叩きつけなければこちらが支配され皆殺しの目に遭うのである。


あみの國に戻ったら國王さまに頼んで欲しい。


"しっかりした友好関係"


近隣の國同士同盟関係を築き互いに平和な領地支配をと伝えて欲しい。


「國王に伝えるって!ちょっと待って。あみは姫さまって決まってないわ」


そもそも古代人の世界にあみはなぜいるの。


同級生とともに小学校にいるはずのあみがなぜいるの。


「古代にいる理由かい。僕やあみちゃんが弥生時代に来てしまった理由を知りたいのかい」


村長は腕組みをひとつし首を傾げる。


「僕も古代人になって日が浅いからなんと答えたらよいか」


村長は他の國にも現代人がいることを知っている。


「長老や臣下たちから聞いた話では他にも僕らのような現代人が國王や村長(むらおさ)に君臨をしているらしい」

日本各地に分散する小さな集落の"國"は縄文時代の単なる集落集合体から発展し自治を備えた自給自足の農耕の民になってくる。


「縄文時代には野原の草花や海辺の魚介類を自然に任せ必要な時に採っていたんだけど」


時代が変わり狩猟や漁法が加わる。より大量に効果的に獣や魚が手に入ることがわかる。


「大量に農作物や漁業収穫があるとわかってくる」


個人的に狩猟をしていては立ち行かない。集落を作り大勢でいこうかとなっていく。


「その集落の(ちょう)になるのが僕の役職村長(むらおさ)なんだよ」


村人たちは農耕・林業・漁業に勤しむ。


「時に農作物が不作な年がやってくる。不猟不漁な場合がやってくるんだ」


なぜ農作物が育たないかと村長に農民は相談にやってくる。


山中に入って鹿や野うさぎがいない不猟はなぜか。


海辺の魚の不漁はどうしてか。


「僕にすべてを求めてくるんだ」


村長に相談されても…。現代人とは言え小学生である。


いやいや聞いてはみるものである。


不作の農耕は種蒔きの時期がまずい。また水田の灌漑治水の管理がでたらめ。


「社会科で見た農耕の図のようにやって欲しいと言ったんだ」


翌年の収穫は目を見張った大豊作である。


山での狩猟は小動物を計画的に原っぱに追い出して弓矢で射止める。


「山の中に鹿を追い込んでも矢は当たらないね」


小学生はなかなかの策略家である。


不作が豊作に。


不猟が大猟に。


不漁が大漁に。


村長はますます國の民から尊敬を受けていく。


「僕は古代人で満足をしている。現代人に戻っても」

同級生は顔をそむけてしまう。


「古代人でいるとね。(國王の)お父さん(女王の)お母さんと一緒にいられるんだ」


現代人になると忌まわしき飛行機事故が回避できず。可哀想な孤児として生きていかなくてはならない。


「僕は古代人としてずっといたいなあ。生きているお父さんお母さんと一緒にいたいんだ」


(母親がいない)あみちゃんはどうか知らないが。


「私は…」


あみは現代に戻りますわ。

あみには大切なお父さんがいるもん。


本殿にいる同級生の親子。事故で失われた両親と仲良くしている様はあみに羨ましく見えてしまう。


ガァーン


ゴォーン


いきなり宮殿の銅鑼がけたたましく鳴り響く。


「お伝えします。國王さま」


國の国境警備の一兵卒が息を切らせて走りくる。一目見て尋常ならぬ非常事態だとわかる。


「ハァ~ハァ~國王さまに申し上げます」


近隣國が軍隊を率いて我が國領域に攻め入った。


「ハァ~ハァ~それがでございます」


敵対する近隣の國なら不寝番で警護兵士が常に見張る。軍隊もすぐさま有事だとして出動される。


だが友好関係を構築している近隣國からの攻め入りは予想をしていなかった。


「なっなんだと!我が國に。(期せずして)攻めてきただと」


攻撃の報告を受けた國王は唖然とするのみである。


一兵卒の話を村長もあみも聞く。


「これがあるから僕は古代人が嫌なんだ」


緊急事態発生の宮殿は蜂の巣を突っついた騒ぎになる。


攻めた近隣國って?


友好関係の國って?


それはズバリあみが姫という國であった。


「それがね…あみちゃんの國なんだよ。僕は直に國王に謁見をして友好関係を結んできたんだ」


わざわざ貢ぎ物を見繕い馬に載せ隣國まで出掛けたのに。


「國同士の取り決めというのは言わば条約だ。間違いなく重要事項のはずだ。子供のお約束ごとと違っているんだ」


村長は憤慨である。こうも易々と条約を破られてしまっては。


かなりの無理をおして貢ぎ物をこさえたというのに。

それよりも隣國とは一蓮托生の協力をし一大連合國を組織したいと思っていた矢先である。


「村長さま。申し上げます」


軍隊長がやってくる。最前線に兵士を配備し交戦に応じている。


「我が軍隊は優秀な兵士でございます」


簡単に敵陣は鎮圧がなされてしまうであろう。


「武力は我が軍が数段上でございます。しかし解せませんなあ」


我が軍と比較しても弱体な軍隊は明らかなはずである。兵士の数は1/3であり馬に至れば数頭程度である。

「なぜ襲撃をしてきたのでしょうか。負け(いくさ)は兵士ならずともわかっていますからな」


直ちに伝令兵が宮殿に走り込む。


「申し上げます。隣國はたった今降伏をいたしました」


敗軍の大将(村長)は(いまし)めの意味で生首を斬られていた。敗軍の村長はあみの父親というわけである。



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