表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

第一話

「スノーマンって、案外可愛らしいですよね」


そう言い出したのはエルフの斥候。雪原の雪に紛れたクレバスに注意を払いながら続ける。


「丸いシルエットに簡素で適当な顔。脚も短いですし、まるで…」

「ドワーフみたいとでも言いたいのか?」


ドワーフの戦士が鋭い視線を向ける。ハッとした斥候は慌てて訂正する。


「違いますよ!それに、ドワーフの皆さんはカッコいい顔してるじゃないですか!腕も脚も逞しくてカッコいいですし!」

「わかっとる。お前さんは嫌みなんぞ言わん事くらい知っとるからの」


ガハハと豪快に笑う戦士。からかわれたことに気付いて小突く斥候。種族的に仲の悪いエルフとドワーフだが、この二人にはそんな事が無いように仲睦まじい様子が見てとれる。それもその筈、このパーティーはAランク。国のお抱えでなければ最上位のパーティーである。


優秀な斥候、戦達者な戦士、勇敢な重戦士、聡明な僧侶、心優しい魔法使い、そしてそれらを纏める剣士。北方冒険者では知らない者が居ないとまで言われた名物パーティーである。北方のみではなく、西方や東方でも数多の活躍をしてきた。


そんな彼らが、明らかに怪しいこの依頼を受ける理由。それは、魔法使いの妹が関係している。


魔石病。身体が紫色の結晶になってしまう病気。この世界において、魔力を持たないものなど無い。植物や大地ですら、魔力を有している。生命維持やその日の体調にまで関わる魔力が、何かしらの要因で暴走、汚染された場合に発症するのが魔石病である。


患った場合の生存率は極めて低い。唯一の治療手段である薬も、地道に貯めていては何年掛かるかわからない。彼らにとってこの依頼の報酬は、例え嘘でも縋りたくなるものであった。


若くして両親に先立たれた魔法使いの事情も知っているからこそ、何としても成功させなければならない。パーティーメンバー全員が同じ気持ちであった。


「…何かいます」


斥候が歩みを止める。一同の少し先、小高くなっている雪の上に何かいる。赤いマントを纏ったスノーマンだ。


「よし。作戦通りに行くぞ」

「…わかった」


幸いにも標的はこちらに気付いていない。魔法使いが杖を構えて詠唱を始める。その間に重戦士と戦士、剣士が前に出る。魔法使いは詠唱中には完全な無防備となる。その隙を埋めるために前衛が前に出る。冒険者パーティーの基本戦術の一つである。


放とうとしているのは“火炎球”。中位の赤魔法である。スノーマン一匹に対して放つには過剰すぎる一撃ではあるが、依頼内容から念を入れるのは当たり前である。


「詠唱は二分半。持ちこたえるぞ」

「おぅ」

「わ、わかりました!」


スノーマンに駆け寄る三人。流石に気付いたらしく、スノーマンは振り返る。その手には、氷で出来た簡素な剣と盾が握られていた。


ドワーフが怪訝そうな顔をする。


「スノーマンが武装じゃと?」

「何をしてくるかわからない。一先ず様子を見るぞ」


リーダーの指示で止まる。そして重戦士は前に立つ。


「い、一撃、打たせますか…?」

「そうじゃな。見掛けだけとは言え、突然変異かもしれん。お前さんの防御で一撃防ぎ、儂とリーダーが両側から斬り込もう」

「わ、わかりましたぁ!」


重戦士が盾を構え、突進する。パーティー随一の防御力を誇り、全身の鎧と巨大な盾は竜の一撃すら防いだ実績がある。突進と同時に自己硬化のスキルを使い万全の態勢で突っ込む。


スノーマンは剣を振り上げる。ゆったりとした動きで、ゆっくりと振り上げる。重戦士が目前まで迫ったところで、素早く振り下ろす。


一撃だった。


縦に真っ二つに割れて倒れる重戦士。まるで、よく研がれた包丁で、柔い果実を切るかのように。


動けない戦士と剣士。何が起こったのかすら理解が追い付かない。ようやく、目の前で重戦士が斬られたと理解したところで、戦士の首が飛んだ。


剣士の目前に氷で出来た剣が迫ったが、矢が剣を弾く。魔法使いの側にいた斥候が放ったものだった。


「リーダー!」


斥候の声で我に返る。状況を理解して残ったメンバーに叫ぶ。


「全員てっ」


剣士の首が飛ぶ。痛みはなかった。雪の上に頭が落ち、噴き出した鮮血が白い雪を赤黒く染めた。


スノーマンの剣に付いた血は、一瞬で凍って剥がれ落ちた。その身体に付いた返り血も、真っ白な雪に溶けるように消えていった。スノーマンは、ゆっくりと斥候達の方を向く。


「…皆の…仇…!」


魔法使いが詠唱を終え、大きな火球を放つ。火球は真っ直ぐ飛んでいき、スノーマンに直撃した。筈だった。


スノーマンが構えた氷で出来た盾に打ち消された。ほどけるように、溶け込むように、盾に吸収された。魔法使いの魔法が弱かった訳では無い。スノーマンの構えた盾が、魔法を打ち消す程の性能を有しているという証であった。


呆然とする魔法使いの方を向き、剣を上に掲げるスノーマン。頭上にパキパキと音を立てて、鋭い氷の塊が形成されていく。一つ二つでは無い。その数はどんどんと増えていく。


「いけません!」


魔法使いに向けられていると察知した僧侶が魔法使いを突き飛ばす。雪の上に魔法使いが倒れるのと同時に、彼女の目の前で僧侶は無数の風穴を空けられた。


真っ赤な鮮血が飛び散る。魔法使いは悲鳴すら上げられず、涙目で震えている。


「立ちなさい!」


斥候が魔法使いとスノーマンの間に立つ。


「貴女だけでも逃げなさい!貴女が戻らなければ、誰が妹さんを救えるのですか!」


ハッとして斥候を見る魔法使い。寒い筈なのに冷や汗が止まらず、肩で息をして、震える脚で魔法使いを鼓舞する斥候。エルフらしい気高さがあった。


「…ごめ…なさい…!」


魔法使いは立ち上がり駆け出す。それを見てスノーマンに向き直る斥候。目前には氷の刃。


ザシュッ


斥候を真っ二つにして、魔法使いの方を見る。元々運動が苦手なのだろうか、魔法使いは駆けている筈なのに大した距離も離せていない。


スノーマンが駆ける。雪原に吹く風のように、魔法使いとの距離を詰める。すれ違いざまに一薙ぎ。


細い魔法使いの上半身が宙を舞う。下半身は少し走って、倒れ込んで動かなくなった。


一つのパーティーを壊滅させて、スノーマンは剣と盾を消す。そして、何事もなかったように歩き出した。



スノーマンは驚いていた。時々狼みたいなのに襲われるだけだった雪原で、三人の人を見付けたからだ。けれど、彼らとの出会いは言葉一つ交わさずに終わった。


突然襲い掛かってきた。敵意を、殺意を向けてきた。訳もわからず、取り敢えず三人を斬った。一人目は全身鎧の大きい人。顔は見えなかったけど、多分女の人だったと思う。盾を構えて走ってきたから、邪魔な盾ごと斬った。


次に背の低いおじいさん。斧を片手に持っていたから、多分剣より強いんだと思った。動かないから隙を見せたと思って斬った。


次に剣を持ったお兄さん。いきなり後ろを向いて何かを叫んだから、仲間とか呼ばれたら困るから斬った。


三人を斬った後で、お兄さんが向いていた方を見たら他に三人いた。斬られた人達の味方かなと考えていると、火の玉が飛んできた。咄嗟に盾で防いでみたけど、案外頑丈な盾で安心した。やられっぱなしも嫌なので、こっちは氷の塊を飛ばして反撃することにした。


飛ばしてみたけど、当たったのは背の高い犬の男の人。狙っていた女の子を突き飛ばして、自分から刺さりに来た。何がしたかったのかな。


そう思ってると、女の子が逃げ出した。自分から火の玉を飛ばしておいて、やられそうになったら逃げるなんて酷い人だ。


追いかけようとしたら、綺麗な女の人が立ち塞がってた。邪魔だから斬った。スカーフみたいなのを巻いていたから首が狙いづらくて、仕方ないから真っ二つにした。


最後に女の子を斬った。のろのろ走ってたから簡単に追い付いた。追い付いて構えるのが面倒だったから、走り抜けてそのまま横に斬った。なんか色々飛び散ったから、もうこの斬り方はしない。


全員倒して、これからどうしようか考える。そして思い付いた。女の人が逃げようとしていた方向に歩いてみよう。


何もないこの雪原より、よっぽど良いものが見れそうだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ