表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

ミステリショートショートシリーズ

白雪

掲載日:2025/04/11

麗奈と阿斗里は、10日目に入った。

「樽」は2つある。


1つ目の「樽」は、金がかかるほう、と聞いていた。博士から。

もう一方は、本物ではない。

しかし、よく見なければならないのは、2つ目のほうだ。

気に掛けなければならないのはそっちで、しかも筑波大学から博士が拝借してきたという、最新技巧付き。

なのである。


「10日目」


と麗奈は言った。


「よく育つねえ」


対する阿斗里。


「あたしは、博士の研究内容にしか。興味はない」


1つ目の「樽」を見ながら、阿斗里がよく言うセリフ。

リンゴには、興味はないようだ。







博士が生み出したサイクルに至るまでには、相当量の論文と年月が費やされたのに。

実になるまでは、10日だけ。


麗奈と阿斗里は、その10日間を博士に、見せてもらったに過ぎない。

博士は出戻りで、元々は工場勤務。

表情の冴えない人だった。

今も、冴えないのかもしれないが。

本業の研究以外でやっている「副産業」のほうに、内輪から定評があった。


まず、顕微鏡。

それが、「樽」の中身なのである。

顕微鏡で見える核、核、核。


虫とも言えない。

阿斗里がよく見つめている「樽1」のほうには、生きたものが入っている。

生きているから、金がかかると博士はよく独り言つ。


顕微鏡で見える世界に、生きるもの。

ユーグレナ、アメーバ。

藻などもあるが、彼らをとにかく「樽」の中で生かしている。


博士の副産業に使われるのは、「樽2」のほうだ。


リンゴが苗から育って、10日。

実が出来るまでが10日で、博士は「樽2」の生きていないほうを使って、育てる。

それで、10日。


「人工生命体で、リンゴが育つとは。皮肉なものね」


と阿斗里。


「人工って言ってもさ、核だって本物に似せているし。ちゃんと分裂もするのよ。違いは電気が必要か、そうじゃないかっていう話で」


と麗奈。


「こいつら、乾電池のプラスとマイナスが好みなんだって、云っていたけれど。本当?」


「博士が?」







ざっくばらん。

の、一言が似合う博士だが、「副産業」ということで。


「最短で、どのくらいに果実が出来るのか」


というのを、人工生命体を使って。

本業の片手間に、やっていたのである。

結果は10日だった。


アメーバ?

ミドリムシ?

で、だって?


内輪以外の評判というのは、いいものとは言えなかった。

筑波大学の最新機材だろうが、人工生命体だろうが、「真核生物に似せてある」という時点で、評判が良くなかった。

リンゴ以外でもやって、どれも早く実をつけたという記録が、博士のノートにある。


「でも一応ね、本物も。観察用には取っておかないと」


博士は、にこやかに言って、


「さて、試食会といきましょう」


と続ける。







安全性の問題は?

人工生命体で育った食物、遺伝子組み換えと同じように。

いや、それ以上に、人体に害はあるのかないのか。


そのへんは、麗奈も阿斗里も研究室の一員として、成分なんかも調べたが。

成分的にも、問題はなかった。

ただ、博士にも誤算はあったのだろう。


「試食会」としてリンゴを切って皿に載せたのは、3人のみだ。

内輪の中でも、その3人だけだった。博士、麗奈、阿斗里。


見た目にも、普通のリンゴ。

切ってみると、蜜も入っている。

さて、それから?


誤算だったのだろう。

と麗奈は思っている。







真核生物は、評判がよくない。

何故って?

時に食中毒を引き起こす種も、いるからである。

全てではないが。


症状が特に酷かったのは博士で、倒れた姿はおとぎ話に出てくるプリンセスのようだった。


もちろん、人工生命体というのは、偽物である。

研究室にはもう1つ、「樽1」がある。


麗奈は思った。

仕込もうと思えば、研究室の誰だって出来る。


程なくして阿斗里は、博士の研究内容を大方、引き継ぐ形になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ