朽ち果てるまで
「我々は死ぬために生まれてきたのだ」
父は自室で娘にそう語った。このころすでに父は気がくるっていて、言動がめちゃくちゃであったがこの言葉だけは幼心にはっきりと残った。
紀元前7488年、(日本ではおよそ縄文文化が始まっていたころ)試験管の中で命が生まれた。その命が生まれたのは日本からはるか遠く人間の観測可能な宇宙の限界も越えて幾億もの星をも超え定説を飛び越えたその先の一つの地球ほどの大きさの星である。
その生命が生まれた目的は戦争のため、星のすべてを制圧して、宇宙をすべて制圧するため。突き詰めた強欲のその先に生まれた生命であった。その生命はあらゆる生命を超越した特性があった。それは銃撃や爆撃、毒や生物兵器の類であれば無傷であり、極寒でも灼熱でも、あらゆる圧力にも耐え、酸素を必要とせず、そもそも心臓が存在しなかった。
その力により、その国はあたりの国、星に宣戦布告をした。結果、その星はすべての戦争に勝利したが宇宙全土が制圧されることは終ぞなかった。その星は制圧したはずの国家同士の内紛により分裂、そして崩壊したのであった。
その背景にはその生命体がいた。その生命体のあまりの強さに唆され、あくまで強欲であり続けたのであった。けれどもヒトの手に余るあまりにも凶悪な性能に手を焼いた各国の指導者はその生命体の反逆を恐れ、徹底的な改造を加えた。かくありてその生命体は強さだけある操り人形とかしたのだ。扱いやすくなったその生命体の見た目はヒトに寄せられた。奴隷として扱うためである。
土木業にも、護衛にも、実験にも、顔がよい個体は愛玩にも、もはや生命としての扱いをされなくなったその生命体は誕生からほどなくしてほどなくして星から逃れた。
そうして彼らは、ホシナシビトと呼ばれることになったのであった。
それがおおよその歴史である。
そう習った一人の少女はそう話す父の口調に少し違和感を覚えた。その口調はどこにも悲壮が含まれていなかったからだ。到底何も感じずに話せるような話ではないように感じたにもかかわらず父はむしろどこか誇らしげにしていた。
結局しばらくしたら彼女はその違和感を忘れてしまい、そうしてそのまま父は死んでしまった。
そして少女も死んでしまった。