一人称
「最近ユウトが『おれ』って言うようになったのよねー。早いわあ、もう赤ちゃんじゃないのねって思って成長が身に沁みたわ」
「あー、ユウトくん今五歳だっけ?」
「そうそう。タイキの時も『おれ』に変わった瞬間があったんだけどさ、下の子まで『おれ』が始まると、もううちに赤ちゃんはいないんだって思ってすごく寂しくなるわね」
「わかるー。保育園ではお友達に合わせて『おれ』で、私の前では『ぼく』って言ってるのを見るとなおさら成長を感じるわ。もう社会性を身に付け始めてるんだって驚くわよね」
「子供のうちから社会ってあるわよね」
「うち……。小学生二年生になった途端、まさきが『わし』って言うようになったんだけど」
「え」
「え?」
「いやあの、最近読み始めた漫画の影響みたいなのよね。敵キャラがそういう口調なもんだから。時々うつっちゃうみたいなのよね。『わしのじゃい!』とか」
「……一気におじいちゃんね。成長っていうか……老成してるわね」
「個性、よね」
「う、うん……」
ママたちは優しい。
日頃、怪獣のようにイヤイヤ暴れまくる息子や、「今日はお姫様で保育園にいくの」と誕生日に買ってもらったプリンセス変身セットのキラキラふりふりドレスでの登園を頑として譲らない娘たちに対して使える武器は言葉だけであり、毎日の理不尽に脳みそをフル稼働させて向き合っているからこそ、大人同士の関係性においても人を傷つけない言葉を選ぶことに長けているのだろう。
その優しさをありがたいと思う。
「大丈夫」
そして最後は唐突な元気スマイル。
そして根拠のない謎の『大丈夫』。
どこの家も子どもとの戦い方で身に着けたものは同じようなものなのだなと垣間見えるひと時だった。