夜のトイレ
トントントントントン……。
トントントントントントントントン……。
「っっっは!! な、なに!?」
突然眠りから覚まさればっと目を開けると、こちらを覗き込む人影がぼんやりと見えた。
「おかーさん。といれ」
まさきか。
座敷童じゃない。りくでもない。
小さな声ながらもはっきりとしたその声から、寝ぼけてもいないし、ずっと起きて待っていたのだなとわかる。
「あーごめんわかった、行こう行こう」
まさきは小学二年生になった今も夜中に一人でトイレに行けない。
我慢しておねしょされるよりは起こされる方が労力が断然少ないので、そういうときは「一人で行って!?」と怒らずに眠気をこらえてついていくことにしている。
どうせ起こされた以上は、ほんの一分ほどの時間付き合えば済むだけだ。
おねしょなどされた日には、シーツを洗濯し、布団を干し、下手をすると布団と布団の隙間から畳に沁みていることもあるから雑巾で拭き掃除と、そのほうが結構な大騒動となる。
小走りにトイレに向かうまさきの後ろによろよろとついて行きながら、ふと肩に感じた感触を思い出す。
そう言えば。
何かずっと肩を叩かれていたような。
「まさき。おかあさんの肩叩いて起こしてたの?」
「うん」
「なんかすっごくトントントントントントンって叩いてなかった?」
間断なく。
すごい速さで。
救難信号かなと思うくらいに。
「うん。最初はトントン、ってしてたんだけど、起きないからだんだん早くした」
「なるほど。ごめんね、そんなに起きなかったんだ」
「うん。全然動かなかった」
つまりは熟睡できていたということだ。
かよ子は眠りが浅いと思っていたのだが、そんなことはなかったらしい。
ちょっとドキッとするからあの切迫した叩き方やめてね、と言いたかったところだが、まさきなりの気遣いだと知り何も言えなくなった。
「ごめんね。我慢しちゃわないで起こしてくれてありがとう」
「うん」
すごすごと布団に戻り眠りに就くが、この時は連日これが続くことはまだ知らない。
さらに言えば数年後、弟りくのおむつが外れたら再び始まるということは、気づいていても今はまだ見たくはない現実である。




